小川哲『君のクイズ』- クイズプレイヤーの思考やテクニックを体験できる知的遊戯ミステリー

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クイズプレイヤーの三島はクイズ番組「Q-1グランプリ」で決勝に進出し、タレントの本庄と戦うことになった。

決勝戦は一対一の早押しクイズ形式で、7問を先に正解した方が優勝となる。

三島も本庄も善戦し、順調にポイントを重ねたところ、終盤でなんと6対6に。

つまり次に正解した者が優勝するということだ。

張り詰めた空気の中、いよいよアナウンサーが息を吸い、問題を読み始めた。

「問題――」

その瞬間、信じられないことが起こった。

パァンと早押しボタンを押す音が響き、本庄が解答を口にしたのだ。

問題が、まだ一文字も読まれていなかったにもかかわらず。

静まり返った会場に、正解であることを示す「ピンポン!」という音が鳴り渡り、この瞬間に本庄の優勝が決定した。

三島は頭が真っ白になり、その場に呆然と立ち尽くした。

本庄はなぜ、問題が読まれる前に正解できたのだろうか、ヤラセなのか、あるいは……。

納得できない三島は、その謎を解き明かすために調査と検証を始めるが―。

目次

クイズプレイヤーの思考や戦略性が面白い

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『君のクイズ』は、クイズ大会で問題が読まれる前に正解を言った本庄の謎を、主人公の三島が追究していくミステリーです。

クイズって、どれほど簡単でも問題を一切聞かずに答えるなんて不可能ですよね。

でも本庄は、問題文が読まれる寸前にハッキリと正解の「ママ、クリーニング小野寺よ」という言葉を言ったのです。

この言葉、ご存知の方も多いと思いますが、実在する某クリーニング店のCMのフレーズです。

クイズの答えとしてありがちなものでは決してないので、普通に考えたら正解できるはずがないのに、本庄は正解した。

これが一体どういうことなのか、偶然か、不正行為か、はたまた魔法的な何かなのか。

主人公の三島はそれが気になって、真相を探ろうとします。

見どころは、本庄の謎を解き明かす過程で、クイズプレイヤーの考え方が紹介されているところです。

たとえば早押しクイズで勝つためには、問題が読まれ始めたらすぐにその先を予測して、答えを導き出す必要があります。

「問題が〇〇という言葉から始まったから、ジャンルは□□で、答えは△△だ!」という具合で、問題を先読みすることで答えをいち早く見つけるわけですね。

『君のクイズ』では、クイズプレイヤーが実際にどのように先読みしているのか、思考の過程が詳しく説明されています。

これが抜群に面白くて、読めば読むほどクイズプレイヤーがどのくらいの速さで頭を回転させているかがわかります。

同時にクイズにおける戦略性も見えてきて、これがまたワクワクさせてくれます。

「なるほど、こうすれば超高速で正解できるんだ」と理屈や仕組みが見えてくるので、まるで手品の種明かしのような感覚で楽しく読めるでしょう。

そして仕組みがわかったからこそ、本庄がやってのけた「問題を全く聞かずに答える」ことがどれほど不可解なのか思い知らされ、真相を知りたくて先を読まずにいられなくなるのです。

実は異なる土俵で戦っていた?

『君のクイズ』のもうひとつの見どころは、三島が本庄の謎を探っていく過程で、二人の立場の違いがハッキリしてくるところです。

三島は良くも悪くも生粋のクイズプレイヤーであり、クイズに正解することを第一目標にしています。

優勝賞金や知名度なども、一応は意識していますが、二の次なのですよね。

それに対して本庄は、正解することにさほどこだわっていないというか、そもそも彼の本業はクイズプレイヤーではなくタレントなので、知名度を上げることを優先しています。

クイズに正解することも大事だけど、それよりもお茶の間の皆さんをアッと驚かせ、印象付けて、できればファンになってもらえるような、そんなパフォーマンスをすることの方が大事なのですね。

ここに三島と本庄の決定的な違いがあります。つまり二人は、最初から同じ土俵で戦っていなかったわけです。

しかも本庄には、実はファンを増やす以外にもうひとつ別の目標がありました。

そしてこれこそが、本庄が問題を聞かずにクイズに正解できた理由に関わる重要ポイントです。

一体その目標が何なのか、そして目標がどう作用してあの魔法のような正解に繋がったのか、真相は読んでからのお楽しみ!

またラストシーンでは、真相を知った三島の新たな決意が描かれているのですが、そこも注目です。

個人的にはこのシーンが、三島が最も主人公らしくカッコ良く輝いているように思えました。

クイズの印象を変え、世界を広げてくれる作品

『君のクイズ』は、2023年本屋大賞にノミネートされた超話題作です。

その面白さから、発売後わずか2週間で増刷・3刷が決定したそうです!

作者の小川哲さんは、2023年1月に著書『地図と拳』で第168回直木賞を受賞したばかりですから、その点からも『君のクイズ』は注目を集めています。

実際この作品には、読み始めたら止まらない魅力があります。

「問題を聞かずに正解する」という謎にまず興味を惹かれますし、それを解き明かす方法や過程も「なるほど、なるほど」と唸らされることの連続で、読んでいる間は知的好奇心が刺激されっぱなし。

クイズが楽しいものという認識は誰しも持っていると思いますが、『君のクイズ』を読むことで、クイズプレイヤーとしての目線で面白味を追求できるようになると思います。

クイズって決して知識量だけの勝負ではなく、テクニックや駆け引きもある奥深くシビアな勝負なのですね。

『君のクイズ』は、そこを学ばせてくれるというか、自分の中のクイズの印象を変え、世界を広げてくれる作品と言えます。

特にクイズ番組が好きな方や、クイズ系のタレントが好きな方には、かなりおすすめです。

この作品を読んでから改めてクイズ番組を視聴すれば、きっと今までとは違う、もっと深みのある楽しみ方ができると思います。

もちろん純粋にミステリーが好きな方、小川哲さんのファンの方にもおすすめですので、ぜひ手に取ってみてください!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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