『禁じられた館』- 不意に現れた脅迫状、煙のように消えた犯人、この館には何が隠されている?

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食品会社の経営で財を成したヴェルディナージュは、小塔付きの本格的な城館を購入した。

厳かで壮麗でありながら近代設備も整った邸宅が手に入り、ヴェルデナージュはご満悦。

しかしこの館にはいわくがあった。これまでの所有者は、すべからく災いに見舞われているのだ。

それでも気にせず暮らし始めるヴェルデナージュだったが、ほどなくして「この館から出て行け」という脅迫状が届くようになる。

一度ならず、二度三度と続く脅迫状。

やがてヴェルディナージュは、館内で射殺死体となって発見される。

その直前に謎の男が訪問してきたが、館から出ていった様子はなく、警察は首をひねるばかり。

一体誰がヴェルディナージュを殺し、どうやって現場から逃げたのか。そして脅迫状の謎は?

1930年代のフレンチ・ミステリーから発掘された、知られざる傑作!

目次

館も人も状況も怪しさ満点

著:ミシェル・エルベール, 著:ウジェーヌ・ヴィル, 翻訳:小林 晋
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『禁じられた館』は、いわく付きの館で起こった殺人事件の謎を解くという、王道の本格ミステリーです

館のいわくは、かつての持ち主だった銀行家が詐欺罪で投獄され、そのまま獄中で亡くなったことから始まります。

その後館を手に入れた人々も不幸な目に遭い、そして新たな主であるヴェルディナージュも、やはり殺されます。

まるで呪いというか、オカルトっぽいですよね。

そして殺害前に届いた脅迫状がまた怖い。

気が付けばそこにある、という感じで、誰がいつ館に入って置いていったのか全くわからないのです。

こんな不気味な脅迫状なのに、主は気にせずスルーしていたものだから、殺人予告が届いてアッサリ射殺されてしまいます。

しかも犯人と思われる謎の男は、家人たちが駆けつけてきたため逃げ場がないはずなのに、忽然と姿を消すという……。

どこから来たのかわからない脅迫状と、どこに消えたのかわからない容疑者、なんとも薄気味悪いですね!

この不可能犯罪の謎を解くことが、『禁じられた館』の大筋となります。

シンプルですが、怪しげな要素が随所に散りばめられており、一筋縄ではいかない香りがプンプン。

登場人物も揃いも揃ってクセがあり、いかにも悪いことをやりそうな雰囲気を出しています。

伏線もたっぷりなので、濃密な推理を楽しめますよ!

お約束な多重推理が面白い

『禁じられた館』は多重推理形式になっており、ここがミステリーファンをさらに喜ばせてくれます。

捜査が始まると、憲兵隊の警部を始め、判事や警視、検事の代理などが次々にやってきては、推理を始めるのです。

状況の整理から、考えられる犯人や動機、他の関係者のアリバイなどなど、まるで推理のお手本みたいにきっちり語ってくれます。

それぞれに一応は筋が通っているので、読みながら「なるほど、なるほど」といちいち納得してしまうのですが、でも多重推理って、否定されるのがお約束ですよね。

彼らの推理もやはり順番に否定されていくので、その都度読者も一から考え直しとなります。

そんなループもまたお約束で、ミステリーファンにとっては嬉しいポイントですね。

その後、真打登場とばかりに私立探偵トム・モロウがやってくるのですが、このキャラクターがまた魅力的。

妙に気取った喋り方をするし、やけに商魂たくましくて、被害者の遠い親戚に「遺産が入るから」と無理矢理自分を雇わせるという、なんだか愛嬌のある探偵なのです。

そしてここから物語は一気に面白くなっていきます。

特に終盤、法廷での真相解明が、本書一番の見どころ!

「真の名探偵」が推理を披露するのですが、きわめてロジカルな謎解きに、読者は今度こそ「なるほどー!」と本気で頷くことになります。

後出し情報で初めて明かされるタイプの真相ではなく、必要な情報は全て事前に出されていますし、トリックも決して荒唐無稽なものではなく工夫の積み重ねで実行できるものなので、納得感がすごいです。

奇抜さがないからこそ、心にスッと馴染むし味わい深い。これぞ王道の魅力ですね!

埋もれた傑作、奇跡の発掘!

いやはや、お見事と言う他ないですね。

ロジックにとことんこだわりつつも、どこか軽快で人を食ったようなシニカルな魅力に溢れている。

「これがフレンチ・ミステリーの面白さか!」

と唸りたくなるのですが、さらにすごいことにこの作品、なんとフレンチ・ミステリーの全盛期とされる戦後1950年代から、20年ほどさかのぼった1932年に発表されているのです。

戦後どころか戦前であり、なんなら第二次世界大戦が始まってすらいないし、『オリエント急行の殺人』『ABC殺人事件』といった世界的に有名な推理小説もまだ世に出ていない時代です。

そのような時代に、これほどのミステリーが誕生していたことに、まず驚きです。

しかも作者は二人いて、ミシェル・エルベール氏とウジェーヌ・ヴィル氏は、どちらもミステリー史に全く名を残していない無名の作家です。

これほど昔に、これほど力のある作家が二人もいて、これほど面白い作品が生み出され、今まで埋もれていたという事実は、ミステリー好きの心を大いに沸かせてくれます。

「よくぞ発掘してくださった!」と出版社を大々的に褒めたいくらいです。

このように、『禁じられた館』は古典ミステリーを愛する者には垂涎モノの傑作!

ぜひお手に取り、レトロで芳醇な空気を味わいつつ、めくるめくロジックを堪能してください。

著:ミシェル・エルベール, 著:ウジェーヌ・ヴィル, 翻訳:小林 晋
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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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