ルイ、テルマ、イズミの三人は、地下アイドルグループ「ベイビー★スターライト」として、大阪で活躍していた。
社長命令でライブやイベントを頑張ってはいるが、どうもモチベを保てず、人気は伸び悩んでいる。
その上メンバー同士が不仲で、近頃は長く応援してきてくれた古参のファンですら去っていく始末。
そんなある日、イズミが事務所で誤って社長を殺してしまう。
もしも事が明るみに出れば、アイドルとして完全におしまいになる。
そこで三人は、事実を隠すため社長の遺体を山に運んで埋めたが、それはバレることに対する怯えの日々の始まりでもあった。
常に人目に晒されるアイドルでありながら、三人はどうやって秘密を守り続けるのか。
そしてベイビー★スターライトの行く末は?
殺人を隠し続ける緊迫感
『推しの殺人』は、社長を殺したアイドルとその仲間たちを描いた、クライムミステリーです。
彼女たちはアイドル活動を続けるために事実を隠蔽しますが、人前に出続ける以上、いつどんな時に何をきっかけにバレてしまうかわかりません。
そのため常にビクビクしながら過ごすのですが、その緊張感がすごい!
今にもバレそうな絶体絶命の瞬間や、実はもうバレているのではと疑心暗鬼になる様子がリアルに描かれており、読んでいるこちらまでギクギクしてきます。
しかも三人は、元々それぞれに悩みを抱えています。
現センターのイズミと前センターのテルマとの間には確執がありますし、初期メンバーのルイは過去に家庭内で起こった事件のことで苦しんでいます。
これらの問題が、バレるかバレないかの恐怖に怯える日々を、さらにスリリングにしています。
読者としては、彼女たちのストレスフルな日常が気の毒で、どんどん可哀想になってきます。
ただでさえ横暴な社長にさんざん振り回されてきたのに(客への接待の無理強いなど)、暴力とか興信所の調査とか、うら若き女の子にはあまりに荷が重すぎる。
だからこそ読者は物語にのめり込み、先へ先へと読まずにいられなくなるのです。
そうこうしているうちに、社長殺しの犯行が少しずつ周囲にバレていくのですが、ここからがさらにスリリング!
なんとしてでも公にしたくない彼女たちが、何を選びどう行動するのか、衝撃の展開に注目です!
人を殺したことで生まれた絆
バレるかどうかの展開に加えて、もうひとつ物語を大きく盛り上げているのが、三人のアイドルとしての活躍です。
ベイビー★スターライトの人気は落ち目で、彼女たちのやる気のなさにファンも憤慨するくらいだったのですが、ここにきて盛り返してきたのです。
その理由は、「アイドルでいたい!」という気持ちに火が灯ったから。
不仲でモチベも低下していた三人ですが、社長を殺してしまい、「もうアイドルとしてやっていけないかも」という状況になったことが、皮肉にも心境の変化を呼んだのですね。
そして社長の遺体を一緒に埋めて、バレる寸前の危機を一緒に何度も乗り越えていくうちに、三人の間には絆が芽生えてきます。
もともと魅力のある女の子たちですから、そこにやる気と絆が加われば鬼に金棒。
ベイビー★スターライトは華々しく舞台を飾るのですが、その様子がもう胸アツ!
注目を集め、新たなファンが続々と増え、去って行ったファンも次々に帰って来て…と、アイドルとしてどんどん成功を重ねていく彼女たちの姿は、まぶしいくらいです。
その成功が三人のやる気をますますアップさせますし、と同時に、「罪を隠さねば!」という気持ちも深めていくのです。
でも、このまま隠し通すのは至難の業。
最終的にベイビー★スターライトがどんな道を辿るのか、結末はぜひご自身で確認してみてください!
高いドラマ性とメッセージ性
『推しの殺人』は、遠藤 かたるさんのデビュー作であり、第22回「このミステリーがすごい!」大賞の文庫グランプリ受賞作です。
スリルある展開と巧みな心理描写に、ネット上では「デビュー作とは思えない」という称賛の声が上がっています。
ジャンル的には犯罪者を主人公とするクライムミステリーですが、サスペンス要素やヒューマンドラマ要素も多く、そこも高評価の理由だと思います。
特にドラマ要素が濃厚で、とりわけルイが実家で受け続けてきた理不尽な仕打ちや、その延長線上で起こってしまった事件などは、これだけでひとつの作品になるのではないかというくらい深みがあります。
また、メッセージ性の強さも魅力です。
たとえばイズミは、社長の横暴に苦しんだ末に社長を殺してしまいますが、それによって快適に過ごせるようになったかというと、決してそんなことはありませんでした。
つまり誰かを排除しても、問題を解決できるとは限らないということです。
幸せのために本当に必要なことは何なのか、本質を見出して、そこに向かって頑張ることが大事なのだと、本書は教えてくれているように感じました。
辛い時には、排除するのではなく立ち向かうこと。
それこそが、イズミ、テルマ、ルイを通して作者が訴えかけたかったことなのではないかと思います。
たとえ途中で道を誤ってしまっても、そこで正しく立ち向かうことで新たな幸せの道が開ける、かもしれません。
ということで『推しの殺人』は、単なるクライムミステリーではなく、深く感じる部分、考えさせられる部分の多い物語でした。
興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてください(๑>◡<๑)