『ナイフをひねれば』- 殺人犯はホロヴィッツ?ホーソーンの推理がますます光る第四弾

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「すまない、ホーソーン。われわれの契約は、これで終わりだ」

作家ホロヴィッツは、今まで三度にわたって探偵ホーソーンが解決した殺人事件を小説化してきたが、これ以上はもうたくさんだった。

彼に、間抜けな相棒扱いされ続ける日々に、耐えられなくなったのだ。

だがホロヴィッツがホーソーンのもとを去ってから、信じられない出来事が起こった。

ホロヴィッツが脚本を手掛けた舞台を酷評した劇評家が殺され、その容疑者としてホロヴィッツが身柄を拘束されたのだ。

もちろんホロヴィッツは殺害などしていないが、現場の状況から無実を証明するのは困難だった。

留置所に入れられたホロヴィッツは、やむをえずホーソーンを頼るが―。

果たして真犯人は見つかるのか、そしてコンビの存続問題はいかに?

「ホーソーン&ホロヴィッツシリーズ」、怒涛の展開を見せる第四弾!

目次

まさかのコンビ解消?シリーズ最大の危機

「ホーソーン&ホロヴィッツシリーズ」は、作者のアンソニー・ホロヴィッツ氏が本人役で登場し、探偵のホーソーンと事件を解決するという推理小説シリーズです。

このシリーズの魅力は、意外性たっぷりの事件はもちろんですが、なんといってもホロヴィッツとホーソーンの掛け合いです。

頭脳キレッキレのホーソーンが、作家としては優れていても探偵としては素人のホロヴィッツを小馬鹿にしまくるところが、たまらなく面白いのです。

皮肉や嫌味のひとつひとつにセンスがあってクスッとさせてくれますし、意地悪なようでいて奥底には確かな信頼感や親密さがあるところが、とても微笑ましいのですよね。

でも第四弾となる本書『ナイフをひねれば』では、その関係性ゆえに、コンビが破綻してしまいます。

ホロヴィッツ的にはホーソーンからのダメ出し連発がストレスだったようで、ついに契約を打ち切ってしまうのです。

ホーソーンが自身のことを全く打ち明けてくれないことも、なんだか寂しかったのだと思います。

この展開に、読者は大ショック!

二人の掛け合いが楽しみのひとつだったのに、冒頭でいきなり破局ですから、いても立ってもいられず怒涛の勢いで読み進めてしまいます。

それにホロヴィッツに去られたホーソーンの、これまでにないほど打ちひしがれている様子にも、胸が痛んで痛んで…。

二人に何とか元サヤ(?)に戻ってほしくて、ページをめくる手はどんどん加速していきます。

そしてその直後、なんとホロヴィッツが殺人容疑で逮捕されてしまいます。

しかも現場にはホロヴィッツのナイフと毛髪とがあり、犯人はホロヴィッツ以外に考えられないというヤバすぎる状況。

こんなのもう、ますます目が離せませんよ。

さあ、絶体絶命のホロヴィッツは、どうなるのでしょうか。

もちろんホーソーンが駆けつけますが、二人の関係は修復するのでしょうか?

シリーズ最大の危機に、読む手も冷や汗も止まりません!

至難の犯人探しから至福のひと時へ

『ナイフをひねれば』は見どころ満載ですが、特に秀逸な部分を挙げるとすると、やはり予想外すぎる真相でしょう。

どの推理小説でも言えることですが、読者は散りばめられたヒントを集めながら、犯人やトリックを推測しますよね。

でも断言します、『ナイフをひねれば』の犯人を当てることは、まずできません。

いえ、ヒントはたくさんあるのですよ。でもそれらをキッチリ繋げて真相に行き着くのは至難の業であり、ほとんどの読者が間違

えた方向に誘導されると思います。

そのくらい事件は複雑ですし、推理は困難なのです。

もちろん例によってホロヴィッツもまともに推理できず、当てずっぽうに頼る始末です(笑)

特に後半に入ってからは、人間関係のもつれが目立ってきて、状況が泥沼化し、誰も彼もが怪しく見えてきます。

「この人かな?」と思う人物は浮かび上がってくるのですが、しばらく読むとホーソーンにズバッと否定されてしまいます。

もう、その繰り返しなのです。一生懸命推理してはホーソーンにダメ出しをされるので、ホロヴィッツの気持ちが嫌というほどわかります。

最終的には、我らがホーソーンがバッチリ真相を突き止めてくれますが、その時の気持ち良さと言ったらもう!

「まさか!でも言われてみればその通りだ!」と、衝撃と納得とが頭をグルグル渦巻くという、ミステリーを読む上での最高の瞬間をたっぷり味わえます。

推理が難解だったからこそ種明かしパートが楽しいですし、ホーソーンのすごさも身に沁みてわかるのです。

少しずつ見えてきたホーソーンの過去

主役二人は、いがみ合いながらも本当は信頼し合っていて、お互いになくてはならない存在だということを、改めて見せてくれる作品でした。

ホロヴィッツは、コケにされて苦虫を噛み潰しつつも、ホーソーンを心の底から尊敬し、何かあるなら力になりたいし、守ってあげたいとすら思っています。

一方ホーソーンは、きっと過去に重すぎることが色々とあったのでしょう。

それをホロヴィッツが気にしていることはわかっているけれど、どうしても打ち明けることができなくて、それでも一緒にいてほしいから、後ろめたくて苦しんでいます。

二人のこのような葛藤がより強く浮き彫りにされていて、個人的にはシリーズの過去作の中で、今作が最も胸を打たれました。

今回、少しだけホーソーンの過去が見えてきましたが、今後もきっとこの調子で巻が進むたびに、重要な情報がチョイ出しされていくのでしょう。

それまで二人の関係を、ずっとずーっと温かく見守っていきたいですね。

ということで、『ナイフをひねれば』はファンの方は絶対に見逃せない一冊でした。

シリーズ未読の方でも問題なく読める物語ですし、二人に愛着がわいてシリーズそのものを好きにならずにはいられないくらいの傑作ですので、ぜひ手に取っていただきたいです。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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