天祢涼『拝啓 交換殺人の候』- 自殺を決めた青年は彼女のために人殺しができるのか?

  • URLをコピーしました!

秋元秀文は上司からのパワハラに耐え兼ねて退職し、自殺の名所として知られる「首つり桜」へ行った。

死ぬつもりだったが、根元の穴に白い手紙のようなものがあることに気付き、中を開けて読んでみる。

そこには「どうせ死ぬなら殺してみませんか?」という出だしから、交換殺人への誘いが書かれていた。

秀文が殺したいと思っている人物を手紙の主が殺し、その代わりに手紙の主が殺したいと思っている人物を秀文に殺してほしいというのだ。

協力して互いにアリバイを作り、かつ自分と全く繋がりのない相手を殺すのだから、警察に疑われる心配はなく、完全犯罪が成立する。

悪い話ではないが、一体誰がこんなことを……。

手紙の主の正体を知るために秀文は「首つり桜」で待ち伏せするが、そこに現れたのはセーラー服の少女だった。

このような少女に、自分が殺したがっている相手を殺させても良いものだろうか。

それに彼女は、一体誰を殺してもらいたがっているのだろうか―。

目次

殺人を誘惑する衝撃の一言

『拝啓交換殺人の候』は、パワハラにより無職になった青年・秀文と謎の少女・詩音の、交換殺人を巡る物語です。

交換殺人とは、殺したい相手を二人で交換して殺すという、一種のアリバイ作りです。

一般的に殺人事件では、警察は被害者に恨みを持つ人物を真っ先に疑いますよね。

でも交換殺人なら、お互いに縁もゆかりもない人物を殺すことになるので、容疑者として挙げられる可能性が低く、単独犯より安全です。

何より、

「どうせ死ぬなら殺してみませんか」

この一言のインパクトが大きくて。

死ぬ気なんて全くない人でも、この言葉にはちょっとグラッと来るというか、関心を抱くのではないかと思います。

自殺する気満々だった秀文の場合、この言葉に強い興味を持ち、死ぬのはいったん保留にします。

だって秀文は、自分は悪くないにもかかわらずパワハラで職を失い、なおかつ自殺で命まで失おうとしていたわけで。

しかもパワハラ上司は今後ものうのうと生きていくわけですから、これって相当悔しいですよね。

「自分だけが割を食うのはごめんだ」という気持ちになるのも無理はありません。

でも交換殺人にはひとつ問題があって、交換の相手がセーラー服を着ていた、つまり女子高生だったということ。

さすがに未成年に人殺しをさせるわけにはいかないと、秀文は悩みます。

ところがそのセーラー服の少女・詩音には秘密があり、やがて明らかになります。

また、詩音がどういう理由で誰を殺したがっているのか、ということも。

それらを知った後でも、秀文は交換殺人を引き受け、自分が人殺しをしたり、詩音に人殺しをさせたりするのでしょうか?

秀文が何を選択するのか、目の離せない展開が続きます!

手紙から始まる心の交流

『拝啓交換殺人の候』の見どころは、秀文と詩音が手紙のやり取りを通じて、交流を深めていくところです。

なぜ今どき手紙なのかというと、直接会ったりメールを使ったりすると、お互いの「接点」ができてしまい、交換殺人後に警察の捜査対象になってしまいかねないからです。

赤の他人であることを貫くためには、首つり桜の根元に手紙を置き、お互いに違う時間帯に読みに行くという方法が安全なのです。

でも実は秀文は詩音をコッソリ尾行して正体を探りますし、詩音は詩音でやはりコッソリ秀文を尾行して自宅の場所を突き止めます。

この狐と狸の化かし合い的なところが、なんだか微笑ましくて面白いです。

また、二人とも自殺を考えるほど人生に行き詰っているわけで、交流は必然的に苦しみを理解し合うような流れになっていきます。

「弱い人の気持ちはよくわかる」など、お互いに相手を思いやり、心の距離がどんどん近付いていくのです。

現にその後、詩音が秀文の自殺を止めたり、秀文が詩音のために身を張ることを決意したりします。

こんなもう、「赤の他人」どころか、完全に「大事な人」ですよね。

このように『拝啓交換殺人の候』は、序盤こそ自殺や殺人など殺伐とした雰囲気ですけれど、思いの外ハートフルな展開に。

でも物語はこのままでは終わらず、やがて再び殺伐とした方向へと戻ります。

合間合間にホッコリする瞬間が挟まれていますが、全く油断はできず、ラストまで退屈せずに楽しめますよ。

特に、主要人物の意外すぎる「二面性」には注目です!

ハートフルな軽めのミステリー

『拝啓交換殺人の候』の作者・天祢 涼さんは、2010年に『キョウカンカク』で第43回メフィスト賞を受賞してデビューした作家さんです。

ラブコメやホラー、ファンタジー、社会派など、幅広いジャンルで多くのミステリー作品を発表されていますが、そのいずれも意外性に富んでいますし、根底にはハートフルなドラマ性があります。

本書『拝啓交換殺人の候』はまさにその典型で、交換殺人という興味をそそられる導入から、主人公二人の交流、衝撃の真相、そして想定外すぎるラストと、意外性の連続です。

この流れを土台でしっかと支えているのが主人公たちの人間性で、結局二人とも優しくて人の痛みをわかってあげられるのですよ。

それが行間からにじみ出ているので、パワハラの恨みつらみや殺人といったドロドロ展開の中でも、どこか温もりのある物語になっているのだと思います。

「ギョッ」とか「ドキッ」とかさせられる瞬間がたびたびあり、現実の厳しさに打ちのめされるシーンもありますが、それでも最後には救いがあり、爽やかな読後感を得られます。

基本はミステリーですけれど、青春小説としての色合いも強いので、心温まる軽めのミステリーを読みたい方におすすめです!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

目次