孫沁文 『厳冬之棺』- 密室殺人?呪い?富豪一族の死に隠された真相とは

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上海郊外の湖畔、陸家の屋敷で殺人事件が発生した。

主である陸仁(ルー・レン)の遺体が、地下室で見つかったのだ。

奇妙なことに、地下室の出入り口が大雨で水没していたにもかかわらず、遺体は全く濡れていなかった。

しかも死亡推定時刻は、通路が完全に水没した後だという。

ということはつまり、犯人は密室状態の地下室に入って陸仁を殺害したことになる。

さらに現場には、なぜか赤ん坊のへその緒が残されていた。

これは巧妙な密室殺人なのか、あるいは陸一族にまつわる何らかの呪いなのか。

この奇妙な状況に、警察は首をひねるばかり。

そこで、刑事の知人であり、密室殺人に詳しい人気漫画家の安縝(アン・ジェン)が、捜査に協力することに。

「密室の王」の異名を持つ華文ミステリー作家・孫沁文、初の長編が登場!

目次

密室事件が豪華に三つも!

『厳冬之棺』は、上海の富豪一族が密室で次々に殺されていくというミステリー長編です。

見どころは、なんといっても複雑怪奇な密室状況!

三種類も出てくるので、密室好きには必見の一冊です。

まずひとつ目が、地下室での殺人事件。

被害者である陸家の当主は、通路が水没したため出入りできなくなった地下室で、窒息死していました。

地下室の床も遺体も濡れていないことから、犯人が泳いで入って来たとは考えられません。

犯人は一体どうやって水没した地下室まで行き、何も濡らさずに殺害したのでしょうか?

ふたつ目の密室は、陸一族の一人である陸哲南の部屋。

哲南は何者からか殺人予告を受けており、怯えて部屋に閉じこもっていたのですが、見張りがいたにもかかわらず、喉を切り裂かれてしまいます。

見張りは犯人らしき人物を見ておらず、これまた不可解な密室状況です。

そして極めつけが、空中コテージの密室。

ワイヤーで吊ってあるタイプの高級コテージが落下し、人が慌てて駆け付けると、中で陸寒氷が死んでいたのです。

骨折はしていたものの、死因は落下による衝撃ではなく、なんと首が千切られていました。

寒氷しかいなかったはずの空中コテージ内で、犯人はどうやって首を斬ったのでしょうか。

このように『厳冬之棺』は、密室事件の豪華三本立てとなっています。

いずれも、現場を調べた刑事たちには全く太刀打ちできなかった難事件であり、読者にハードな謎解きを楽しませてくれます。

現場には呪いの釘やへその緒が…

『厳冬之棺』を語る上で、もうひとつ外せないのが、呪いの存在。

陸家には古くから嬰呪(エイジュ)と呼ばれる呪いがあり、これが事件をさらに恐ろしく、複雑なものにしています。

嬰呪とは、文字通り嬰児(赤ちゃん)の呪いです。

実は陸家では、ある事情から赤ちゃんが捨てられ続けており、一族は罪の意識からか、「呪われるのでは?」と怯えていました。

実際、室内で殺された哲南も、殺人予告を受けた時に真っ先に嬰呪を疑い、青ざめました。

しかもその殺人予告に、嬰棺釘(赤ちゃんの棺に蓋をする時に打つ釘)が使われていたものだから、なおさらです。

加えて哲南が殺された現場には、焼け焦げたへその緒があり、陸家の他の面々を震え上がらせました。

またへその緒は、当主である陸仁が殺された地下室や、寒氷が殺されたコテージでも発見されています。

ということで『厳冬之棺』は、密室の謎に加えて、呪い絡みのオカルティックな展開も楽しめる作品となっています。

一連の死が呪いによるものなのか、呪いに見せかけた殺人なのか、あるいはその両方なのか、読者はゾクリとしながらもワクワクと真相を追うことができますよ〜。

終盤では、思いもよらなかった陸家の過去と、名探偵による本格ミステリーならではの種明かしショー、そして大どんでん返しが待っています。

最後の最後まで緊張感たっぷりで、気が抜けません!

日本人に馴染みやすい華文ミステリー

『厳冬之棺』の作者・孫沁文さんは、まさに「密室の申し子」と言える作家さんです。

多数のミステリー短編を発表されていますが、そのほとんどが密室モノという、大変な密室マニア!

また本格ミステリー好きとしても知られており、中国の作家さんではありますが、高校時代に江戸川乱歩の作品に夢中になり、それがきっかけで推理作家を目指したのだとか。

さらに日本のドラマ『踊る大捜査線』のファンだそうで、『厳冬之棺』にはそれを思わせるキャラクターやシーンが多々登場しています。(たとえばメインキャラクターの刑事は、織田裕二さんにそっくりという設定だったりします!)

こうまで日本びいきで、それが作品にも如実に表れているなんて、なんだか嬉しいですね。

そのおかげもあってか、本作は海外から来た翻訳モノでありながら、とっつきにくさが全くなく、日本人にもスムーズに読めます。

中国特有の単語については解説もしっかりついていますし、殺人現場の図解もあり、端々から「日本の読者にもわかりやすくしよう」という配慮が見受けられます。

さらに、探偵役が人気漫画家という点も、漫画が文化のひとつとなっている日本へのリスペクトと言えそうです。

加えて言うなら、ヒロインは声優ですし、被害者の一人はアニオタですし、ウル〇ラマンネタも出てきます(笑)

このように『厳冬之棺』は、日本人にとって非常に馴染みやすい華文ミステリーです。

密室モノが好きな方にはもちろんおすすめですし、日頃なんとなく翻訳モノを敬遠している方にもおすすめしたい一冊です!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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