古典ミステリー語る上で欠かせないG・K・チェスタトン氏のブラウン神父シリーズの第二弾です。
「グラス氏の失踪」ではトッドハンターという男がグラスという男と何時間も話し込んでいるのを、下宿先の主の妻が聞きつけます。
しかし部屋を開けるとそこにはトッドハンターしかいません。
ある日トッドハンターが縛られ悲惨な状態で発見されます。
トッドハンターはグラスの殺害容疑をかけられますが……?
「通路の人影」では劇場で起きた人気女優の殺害事件がメインです。現場にはブラウン神父を始め3人がいました。
怪しい人影がいたという証言は共通するものの、それぞれの意見は食い違います。やがてブラウン神父は真相に気づきます。
その他、「泥棒天国」「ヒルシュ博士の決闘」「機械のあやまち」「シーザーの頭」「紫の髪」「ペンドラゴン一族の滅亡」「銅羅の神」「クレイ大佐のサラダ」「ジョン・ブルノワの珍犯罪」「ブラウン神父のお伽噺」の計12編が収録。
G・K・チェスタトン『ブラウン神父の知恵』
「通路の人影」はブラウン神父シリーズの中でもとくに名作と名高い短編です。
皮肉っぽいラストは印象的で、その後多くのミステリー作家に影響を与えました。
これだけでも十分に価値はありますが、だからと言ってその他の作品が劣るわけではありません。
前作「ブラウン神父の童心」から引き続き、お伽噺のような不思議な出来事をブラウン神父が次々に解明していきます。
巧妙なトリックだけでなく、ブラウン神父の皮肉や登場人物の心理描写にも優れており、いろいろな楽しみ方ができます。
とくに「機械のあやまち」はユニークです。ブラウン神父が過去に刑務所で働いていたときのことを回想します。
脱走者が嘘発見器にかけられますが、ブラウン神父はそのあやまちに気づく……という物語です。
心理実験に否定的な作者のメッセージも伝わってきます。また、機械に頼りっぱなしの現代人の心にも刺さるテーマとなっています。
その他にも、ブラウン神父の推理が冴えわたる作品ばかりです。
前作「ブラウン神父の童心」では推理がメインでしたが、今作では全編を通して人間関係や心理描写、ブラウン神父の言動にスポットが当たっています。
前作から登場しているキャラクターも登場し、それぞれへの解釈をより深めることができるでしょう。
平凡でどちらかといえばぼんやりした印象のブラウン神父ですが、名推理や皮肉、ブラックジョークが次々に飛び出す様子は一度読めばクセになります。
ミステリー小説の黎明期に書かれた作品ですので、今読めばトリックも先に予想できてしまうものもあるかもしれません。
ですがそれよりもブラウン神父がどう解決するのか、どんな言葉を発するのかが気になって読み進めてしまうでしょう。
『ブラウン神父の童心』を読んでおくとさらに楽しめる。
ブラウン神父はミステリー小説界の中ではかなり有名な名探偵です。
ホームズやポアロのように独特の雰囲気を持っているわけではありませんが、どこにでもいそうな神父が一度事件に関わればたちまち解決してしまいます。
他の名探偵と違って印象が薄いから知名度が低いという声もありますが、読んでみればブラウン神父の虜になることでしょう。
作品数も多く、短編がメインなので、気軽に読めるのも嬉しいポイントです。
ブラウン神父シリーズは東京創元社から2017年に新版が発表されていますが、新訳ではありません。
現代の漢字を使い文字が大きくなっている分読みやすいですが、訳は初版のままです。
この古い翻訳に慣れるまでには少し時間がかかるかもしれません。それでもあきらめずに読む価値のある一冊です。
「ブラウン神父の不信」「ブラウン神父の秘密」「ブラウン神父の醜聞」などもありますので、今作が気に入ったらぜひ続きの作品もチェックしてみてください。
