大泥棒とそれを追う警察官とブラウン神父を描く、ブラウン神父初登場作「青い十字架」。
多彩なトリックが使われており、現代でも影響されたミステリー小説が多い「見えない男」。
その他「秘密の庭」、「奇妙な足音」、「飛ぶ星」、「見えない男」、「イズレイル・ガウの誉れ」、「狂った形」、「サラディン公の罪」、「神の鉄槌」、「アポロの眼」、「折れた剣」、「三つの兇器」の計12篇が収録された短編集です。
いずれにもブラウン神父が登場します。ブラウン神父は冴えない風貌をしていますが頭脳は明晰で、事件を次々に解決していきます。
登場するトリックはすべて奇想天外で、ばからしく思えるものからあっと驚く大胆なものまで多種多様です。
ミステリー小説黎明期の良作を楽しみたいという方におすすめの一冊です。
G・K・チェスタトン『ブラウン神父の童心』
ブラウン神父は、ミステリー小説ファンの中では非常に有名な探偵です。
そのブラウン神父の初登場作から初期の作品を収録した一冊です。これまでブラウン神父シリーズを読んだことがなかったという方の入門編としてもおすすめです。
どこからどう見ても鈍感で温和そうなブラウン神父は、実は大泥棒よりも、警察や探偵よりも頭のキレる人物でした。
その事実が発覚する「青い十字架」で、一気にブラウン神父の虜になってしまったという方も多いのではないでしょうか。
「見えない男」はブラウン神父のシリーズの中でもとくに有名です。この心理トリックはさまざまな形で応用され、以降のミステリー小説に大きな影響を与えました。
「折れた剣」では「木を隠すなら森の中」という名言が登場します。今ではミステリー小説だけでなくいろいろな場面で使われる言葉ですが、その元祖は今作です。
童話のような始まりから物語は一気にダークな方向に進みます。その差を楽しめるのも今作の魅力と言えるでしょう。
「飛ぶ星」ではトリックが秀逸なのはもちろん、情景の美しさにも胸を打たれます。
その他の作品でも美しい情景描写や言葉遊びが散りばめられており、飽きることなくすべての作品を読み終えられます。
短い連作の短編が12篇収録されていますが、どれも名作ばかりです。
一般的にシリーズの最初の作品やミステリー作家の初期の作品は荒削りであることが多いですが、G・K・チェスタトン氏は最初から作風が完成されています。
一見無意味に思える描写にも必ず意味があり、最後の最後で点と点がつながる流れは古典作品とは思えないほど見事です。
全篇を通してさまざまなトリックが楽しめるというのも人気の理由の一つです。
今作が書かれたのはミステリー小説が世界的に人気になり始めた頃で、当時の読者にとって新鮮な驚きが随所にありました。
現代のミステリー小説でよく使われるトリックも、ブラウン牧師の推理からヒントを得たものやオマージュされたものがたくさんあります。
ミステリー小説の古典として今でも広く愛され続けています。
今作は1911年に発表され、日本では1959年に翻訳されました。そして2017年、東京創元社から復刊しました。
1959年に訳された文章をそのまま用いているので読みにくいという感想もあります。
古典ミステリーの中には何度も新訳されて読みやすくなっているものも多いので、古い翻訳に慣れていない方は読み終わるまでにかなり時間を要するでしょう。
読みにくい翻訳ではありますが、だからと言って諦めずに最後まで読んでほしい一冊です。
ミステリー小説の歴史を語る上では欠かせない名探偵、ブラウン神父の活躍をぜひその目で見てください。
その他、ブラウン神父が登場する作品を集めた短編集「ブラウン神父の知恵」、「ブラウン神父の不信」、「ブラウン神父の秘密」などもあります。
シリーズが進んでも衰えることのないブラウン神父の活躍は必見です。