自作ショートショート– category –
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【自作ショートショート No.23】『ある商品』
ピンポーン。 チャイムの音が鳴り響き、家事に勤しんできた主婦は玄関に向かう。 玄関のドアについたのぞき穴から外を覗くと、そこには紺色のスーツを着たセールスマンと思しき男が立っていた。 「訪問販売かしら?」 主婦は出るかどうか迷っていた。 ピン... -
【自作ショートショート No.22】『前借り』
「くそっ!また負けちまった……」 悲鳴と歓声がひろがる競馬場では、中年の男が、悔しそうに馬券をクシャっと握りつぶしていた。 「うーん、俺も負けだ。八番の馬がもう少しがんばってくれたらよかったんだけどな」 「けっ、お前はさっきのレースで大勝ちし... -
【自作ショートショート No.21】『完璧な家』
街角にある家が売り出されていた。 なんでもその家は、近未来の技術を使った実験的な建物であるとのことだった。 そして『常に完璧な状態に保たれる非常に優れた家』というのが謳い文句であった。 どのようにして完璧な状態を保つのかというと、家の中を機... -
【自作ショートショート No.20】『願いの代償』
ある男が魔神の出てくるランプを見つけた。 男が早速ランプを擦ると、モクモクと煙が立ち上って魔人が飛び出してきた。 「お前の願いを叶えてやろう」 出て来た魔人は男に向かってそう言った。 「叶えられる願いはいくつだ?」 「いくつでも構わない」 男... -
【自作ショートショート No.19】 『始まりと終わり』
いくつもの惑星が浮かぶ銀河、その暗黒の中を一隻の宇宙船が航行している。 その周りには無数の小さな隕石が行き交っていたが、自動航行システムのおかげで航行には何の危険もなかった。 宇宙船を操縦するのは二体の宇宙人。この二体に性別はないが、ここ... -
【自作ショートショート No.18】 『争いの終わり』
人間は、争う生き物である。 まだよちよち歩きのころから、お気に入りのおもちゃを取り合っているし、大人になるにつれて争いは激しくなっていく。 いまこの瞬間にも、世界の至るところで、数えきれないほどの争いが起きているのだ。 争いは次第に拡がり、... -
【自作ショートショート No.17】『路地裏のレストラン』
「なぁ、知ってるか?路地裏のレストランの話」 大柄で太めの男が、半分ほどになったタバコをふかしながら言った。 その正面では、小柄な男が、目を細めながらタバコに火をつけている。 「路地裏のレストラン?なんだよそれ」 「繁華街の北側にある路地裏... -
【自作ショートショート No.16】『現実的な不老不死、または最悪の地獄について』
A県の山奥にある、とある研究所。 ここでは不老不死に関する実験が行われていた。 研究所に在席しているのは、S博士とその助手の男だけ。 小さな研究所ではあったが、博士の優れた才能により、不老不死の研究は着実に進んでいた。 「これより本日の実験... -
【自作ショートショート No.15】『悪魔のささやき』
「ようやくお前ともお別れだな」 「はい、お世話になりました。これからは真面目に働きます」 五、六メートルはあろうかという灰色の塀の下では、ワイシャツ姿の男が、紺色の制服を着た男に向かって頭を下げていた。 「そうだぞ。やっと刑期を終えたんだか... -
【自作ショートショート No.14】『誘拐』
犯罪に美学や切実な事情があるなどというのは、小説や映画の世界の話に過ぎない。 いや、それは過言かもしれないが、現実に起こる犯罪の九分九厘はどうしようもない所以によって引き起こされたものだ。 この場合の犯罪というのは、不注意やそれと知らずに...