アビール・ムカジー『阿片窟の死』- 暴動寸前のカルカッタで繰り返される猟奇的殺人事件

  • URLをコピーしました!

1921年12月、英国支配下にあるカルカッタで連続殺人事件が発生した。

まず最初に中国人風の男が、両目を抉られ、腹を刺されて死んだ。

次にインド人の看護婦が、同じように両目玉を抉られ、胸の二ヶ所を刺されて死亡。

さらにイギリス人の科学者が死亡。やはり両眼をくりぬかれ、胸には二ヶ所の刺し傷があった。

いずれも同様の手口であり、犯人は不明。

インド帝国警察のウィンダム警部は、部下のバネルジー部長刑事と捜査に当たるが、しかしカルカッタは英国皇太子の訪問を控えている上、ガンジーによる不服従運動から独立の気運が高まっている状況。

厳戒態勢が敷かれ、今にも暴動を起こしそうな民衆を抑えながら、ウィンダムとバネルジーはこの猟奇的な殺人事件の謎を解くことができるのか?

目次

ウィンダム、まさかの大失態!

『阿片窟の死』は、イギリス人警部ウィンダムとインド人刑事バネルジーのシリーズ第三弾です。

舞台は、英国領インドのカルカッタ。

イギリス人による差別や不当な扱いに堪り兼ね、インドの人々の怒りが爆発しそうな中、恐ろしい連続殺人事件が起こります。

最初の被害者は中国人らしき男性で、第一発見者はなんと主人公のウィンダム。

ウィンダムは相変わらずのアヘン中毒で、まさにアヘンを吸って天国気分になっているところを警官に追われ、ヘロヘロになって逃げ回っている時に、重体で死ぬ寸前の被害者と遭遇します。

なんとも情けない姿ですが、もっとビックリなのはその直後。

被害者男性が目の前でこと切れて、アヘンで朦朧としているウィンダムは、こともあろうか男の体に刺さったナイフを持って逃亡してしまうのです!

人命救助や現場検証そっちのけで、なぜか凶器を持ち去るアヘン中毒な警部。

「これが主人公の姿かーい!」と思わずツッコミを入れずにいられません!

もちろんこんなダメダメなまま終わってしまうウィンダムではなく、ここからどんどん巻き返していきます。

アヘンの影響さえなければ、頭脳明晰で正義感の強い敏腕警部ですからね!

ということでウィンダムは、部下のバネルジーと共に事件を探っていき、そこで恐ろしい発見をします。

同様の手口で殺された三人の被害者に、ある共通点を発見するのです。

歴史的に有名なあの人物も登場

第三の被害者である科学者の家で、バネルジーは軍関係者の集合写真を発見します。

そこには科学者に加え、第二の被害者である看護婦も写っていました。

さらに第一の被害者の写真もあり、そこからウィンダムとバネルジーは、この男が病院関係者であることを知ります。

軍、科学者、看護婦、病院関係者…、これらのワードが意味するところは何なのか。

ネタバレになるので伏せますが、ここからはもう、考えるのもおぞましいくらいの真相が次々に出てきます。

まさかイギリス植民地時代のインドでも、あんな恐ろしいことが行われていたとは!

衝撃を通り越して、身震いしてしまうくらいの内容ですよ。

しかもその後、犯人によって、カルカッタでさらに恐ろしい計画が立てられていることが判明します。

当時のカルカッタは、独立を求める声により暴動寸前で、その中心にいるのは、歴史の教科書でもおなじみの「非暴力、不服従」を提唱するガンジーや、インド独立運動家であるダースやボースなど。

こういった実在の人物の登場すると、読者としてはリアリティでただでさえテンションが上がりますし、犯人の猟奇的な計画に巻き込まれてしまうのではないかと一層ハラハラ!

彼らは無事でいられるのか、インドの独立はどうなるのか、そしてカルカッタを訪問する英国皇太子の命運も気になります。

いくつもの危機が迫り、混乱が広がる中、ウィンダムとバネルジーはカルカッタをどう守るのでしょうか?

クライマックスでは、シリーズ史上最大級の盛り上がりを見せてもらえますよ!

人物も物語もより充実した第三弾

シリーズも三作目となり、キャラクターの個性が固まったことで、よりイキイキと活躍しているように感じられました。

冒頭でのウィンダムの大失態も、ある意味その現れだと思います。

さらに、インド独立に向けてのムードも過去二作と比べると大幅にアップしましたし、事件もより凄惨に。

実在の人物や実際の出来事を絶妙に織り交ぜてあるため、いつも以上に手に汗握る展開でした。

そしてウィンダムの恋路やH機関との確執、バネルジーの家族問題なども、スリリングかつドラマチックな方向へと進展しています。

ということで今作は、いろんな意味で見どころが多く、ファンなら見逃せない一冊です。

初めてこのシリーズに触れる方でも問題なく読めますが、この盛り上がり感は一作目からの方がきっと楽しめると思いますので、この機会にぜひ読んでみることをおすすめします!

また、続編も非常に気になるところですね~。

というのも、実は今作のラストでは、ある事情からウィンダムとバネルジーに別れが訪れるのです。

この決別が一時的なものであり、次回作では二人が再会し、より一層素晴らしいバディとして活躍することを祈らずにいられません。

次回作は英国では既に刊行されているので、翻訳版の登場が待ち遠しいですね。

それまでは今作と過去作を存分に楽しむことにしましょう!

あわせて読みたい
アビール・ムカジー『カルカッタの殺人』- その殺人は政治絡みか、それとも暴動の前触れか 1919年、大英帝国の統治下にあるインドのカルカッタで、白人の高級官僚が何者かに殺害された。 しかも喉を掻き切られ、片目をえぐられ、手足を折られ、指を切り取られ、...
あわせて読みたい
アビール・ムカジー『マハラジャの葬列』- 訪問中の王太子が暗殺!?藩王国に潜む陰謀とは 帝国警察のウィンダム警部とバネルジー部長刑事は、カルカッタ訪問中の藩王国王太子の一団に同行していた。 バネルジーは王太子の同窓生であり、あだ名で呼び合う親しい...
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

目次