国名シリーズとは、火村英生を探偵役とする《作家アリスシリーズ(火村英生シリーズ)》の中の、タイトルに国名が入った作品のことです。
もちろんこれはエラリークイーンに影響を受けてのもの。
結論を言うと国名シリーズは順番に読まなくても十分に楽しめるのですが、それでもやはり刊行順に読んだ方が感情移入の具合が変わってくるので、どうせなら順番に読むのがベストです。
ぜひ参考に(๑>◡<๑)
1.『ロシア紅茶の謎』

オススメ度:★★★★
国名シリーズ第1作目の短編集。正統派な本格ミステリです。
収録作品は「動物園の暗号」「屋根裏の散歩者」「赤い稲妻」「ルーンの導き」「ロシア紅茶の謎」「八角形の罠」の6編。
ダイイング・メッセージ、暗号、密室、読者への挑戦、とトリックがバラエティに富んでいて楽しい。
衝撃的な大どんでん返し!とかそういうのはありませんが、真相を知れば「ああ、なるほど!」と感心するものばかり。
短編ならではのキレがよく、どれも上質で平均点以上の面白さ。短い話ですが物足りなさは感じません。
マイベストはやはり表題作、「赤い稲妻」の最後の一文の切れ味もたまらない。「動物園の暗号」「八角形の罠」も良き。
2.『スウェーデン館の謎』

オススメ度:★★★★
国名シリーズ2作目は長編。
ミステリ作家・有栖川有栖は〈スウェーデン館〉と呼ばれるログハウスに招かれ、殺人事件に巻き込まれる。
雪の足跡問題をメインとした推理小説の王道作品。
足跡トリックは若干無理やり感があるけど(この無理やり感がいい)、発想としてはかなり面白いので好きです。
有栖からの連絡で「風のように」火村先生が現れてからは一気に展開が進んでいく。ロジック最高。
相変わらず、火村先生の謎解きパートは思わず息を飲んでしまうほど緊張感がありますね。
読後のしんみりした感じも良いです。
改めて読んでみると初読時より楽しめた気がする。
3.『ブラジル蝶の謎』

オススメ度:★★★★★
短編集。
収録作品は「ブラジル蝶の謎」「妄想日記」「彼女か彼か」「鍵」「人喰いの滝」「蝶々がはばたく」の6編。
19年ぶりに本土に戻ってきた人物がすぐに何者かに殺害されてしまう。
死体の周りには色とりどりの蝶が現場の部屋の天井いっぱいに留められていた。
犯人はなぜ、天井に大量の蝶を舞わせたのか。という魅力的な謎がメインの表題作がやっぱり最高。
火村英生がなぜ犯罪者を狩る探偵を続けているか、が述べられる短編でもあるのでシリーズを読む上でも必読でしょう。
「蝶々がはばたく」も火村有栖短編の中でもかなり好きなやつ。
4.『英国庭園の謎』

オススメ度:★★★
「雨天決行」「竜胆紅一の疑惑」「三つの日付」「完璧な遺書」「ジャバウォッキー」「英国庭園の謎」の6編からなる短編集。
「言葉遊び」を使った謎解きゲームのようなものを描いた「ジャバウォッキー」がテンポよくスリルと緊張感があって面白い。火村&アリスのコンビの良さがよくわかります。
でもやっぱり一番は表題作。暗号モノはやっぱり楽しい。暗号の謎そのものはもちろん、何故暗号が作られたかという動機が印象に残った。
次点で倒叙もので有栖が登場しない「完璧な遺書」が好き。
5.『ペルシャ猫の謎』

オススメ度:★★★
「切り裂きジャックを待ちながら」「わらう月」「暗号を撒く男」「赤い帽子」「悲劇的」「ペルシャ猫の謎」「猫と雨と助教授と」の7編からなる短編集。
なんというか、ミステリ短編集というより〈火村&有栖川シリーズ外伝〉という印象を受けます。スピンオフ的な。
ミステリとしての面白さよりも、この二人のやり取りやそれぞれの性格を楽しむための作品という気がします。
そういう点ではもちろん面白いし、シリーズを読む上では外せない作品でしょう。
「猫と雨と助教授と」はとても短い話ですが、火村の新たな一面をみることができて心がほっこりする。
6.『マレー鉄道の謎』

オススメ度:★★★★
シリーズ6作目は長編。名作です。
大学時代の旧友に招かれ、マレーシアに訪れた火村とアリス。
現地で休日を楽しむ予定だった2人ですが、マレー人青年の密室殺人に遭遇し謎を追っていくことに。
文庫にして500ページ長編ですが、火村とアリスの流れるようなやり取りが楽しくてスルスルと読めます。
国名シリーズでは初の海外が舞台ということで、旅小説のような一面もあってワクワク。
日本に帰るまでに解決しなくてはならない、というタイムリミットがあるのも緊張感が増して良いですね。
長い物語なぶん、終盤にあらゆる伏線を回収して謎を解き明かしていく様は読み応えがあります。
7.『スイス時計の謎』

オススメ度:★★★★★
国名シリーズ最高傑作と名高い表題作「スイス時計の謎」が収められた短編集です。
コンサルタント会社を経営していた男が、事務所で何者かに殴り殺された。
不可解なのは、現金やクレジットカードには手をつけず、「腕時計」だけが持ち去られていたということ。
犯人はなぜ被害者の腕時計を奪い去る必要があったのか、が解決のポイント。
容疑者を五人に絞るまでの過程も見事ですが、そこから「腕時計」一つに注目して犯人を特定していく推理が凄まじいのです。
これぞ有栖川有栖!と言わんばかりの圧倒的に美しい論理的推理。あまりに凄すぎて恐怖すら感じさせます。
そのほか、『あるYの悲劇』『女彫刻家の首』『シャイロックな密室』が収録。
しかし表題作のインパクトがあり過ぎて他作品が霞んでしまうという悲劇。
8.『モロッコ水晶の謎』

オススメ度:★★★
「助教授の身代金」「ABCキラー」「推理合戦」「モロッコ水晶の謎」の4編からなる短編集。
クリスティのABC殺人事件ネタである「ABCキラー」はやっぱり面白い。
恋愛ドラマで務めた主人公の大学助教授が当たり役となり、一時期は〈助教授〉というニックネームで親しまれた志摩征夫(しまゆきお)が誘拐された。
犯人は身代金3千万を要求。大阪駅11時10分発の電車に乗り、赤い目印が見えたら窓から現金の入ったカバンを落とせ、と言うが……。という「助教授の身代金」も良い短編。
箸休め的な「推理合戦」にはニヤニヤ。
表題作「モロッコ水晶の謎」の意外性はインパクトあり。
相変わらず火村と有栖の仲の良さがとてもあらわれている作品集です。
9.『インド倶楽部の謎』

オススメ度:★★★★
前作『モロッコ水晶の謎』から実に13年ぶりとなる最新長編。嬉しすぎて涙が出ます。
神戸の異人館街にある屋敷に〈インド倶楽部〉のメンバー7人が集まった。
インドに伝わる「アガスティアの葉」を使って自分の前世や未来、寿命を予知してもらった3人。
その数日後、イベントに参加したメンバーが死体となって発見される。
その死は「アガスティアの葉」によって予言されていた……?!
前世や輪廻転生などオカルトじみた話が推理にまで関わってくる、今までにもないちょっと異質な作品。
これまでのシリーズを読んでいたらニヤリとしてしまう小ネタや会話も満載で、ファンを楽しませるために書かれていることがよくわかります。
トリックがすごいとか、そういうのではなくて、ただこのシリーズが読めたということが嬉しい。
10.『カナダ金貨の謎』

中編3本と短編2本の5本が収録された作品集。
・「船長が死んだ夜」
・「エア・キャット」
・「カナダ金貨の謎」(表題作)
・「あるトリックの蹉跌」
・「トロッコの行方」
の五編です。
表題作の「カナダ金貨の謎」は国名シリーズでは初の倒叙を用いている異色の作品。
相変わらずコンビのやりとりはファンがにやにやするような素敵な作品で、カナダ金貨の謎に関しては今までにない手法で楽しませてくれます。
犯人視点とアリス側の視点があり、物語に深みがあるため評価がかなり高かったですし、私も読んでいてどこかゾクゾクワクワクさせられるストーリーでした。
犯人側の気持ちが手に取るようにわかるのも有栖川先生のワールドだなと感じます。
往年のファンを納得させ、すっきりさせてくれる作品たちが詰まった宝箱のような作品に思えました。
おわりに
以上、有栖川有栖さんの『国名シリーズ』の読む順番とおすすめについてでした。
これから読むならぜひ順番に手にとってみてください〜(*´∀`*)