佐藤青南『犬を盗む』- 殺された資産家老女の愛犬が知る真実とは?

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高級住宅街で一人暮らしをしている老女が、何者かに殺害された。

預金通帳や現金が盗まれており、金品目的の犯行かと思われたが、現場には不審な点があった。

犬を飼っている形跡があるのに、その犬がどこにも見当たらないのだ。

まさか犯人は犬も一緒に盗んだのだろうか、だとしたら一体何が目的なのか。

刑事二人が周辺を捜査すると、近隣のコンビニで働く松本という人物が、最近よく似た犬を飼い始めたことがわかった。

さらに松本には、かつてある事件で逮捕された過去があることが判明。

果たして今回の事件も松本が犯人なのか、それとも……?

ただ犬だけが、その瞳に真実を宿している―。

目次

犬への愛も謎解きも

『犬を盗む』は、タイトル通り犬を中心にして展開していくミステリー小説です。

資産家の老女が殺され、どうやら金品と一緒に飼い犬まで盗まれたらしく、その謎を追うという物語です。

登場人物の多くが愛犬家であり、犬の魅力や人との絆などがたっぷり描かれているので、ワンちゃん大好きな方は必見!

犬愛を深めながら謎解きを楽しむことができます。

見どころは、主要人物たちがそれぞれ腹に一物を抱えているところ。

まずコンビニ店員の松本ですが、16歳の時にある罪を犯し、その時に犬も撲殺したとされています。

今は出所して真面目に働いていますが、最近急に犬を飼い始め、それが老女の犬とそっくり。

なんだか怪しいですよね。

次に、松本と一緒にコンビニで働く鶴崎。

実はコンビニ店員というのは仮の姿で、真の姿は雑誌記者であり、ある目的があって松本に近付きます。

そして作家であり愛犬家の小野寺。

松本が連れているのが老女の犬だと気付き、助け出すためにSNSで松本に攻撃を仕掛けます。

このようにどの人物も後ろ暗い部分を持っており、それが事件を複雑化させています。

なかなか犯人を絞り切れないので、真相が明かされる最後の最後まで、手に汗握る展開を楽しめます。

特に小野寺のキャラクターが強烈で、犬を愛するあまり理不尽なことを色々としでかすので、怖くて目を離せません。

また事件を担当する二人の刑事も興味深い設定で、片方は犬が大好きなのに、もう片方は犬が超苦手。

そのため捜査がスムーズに進みにくく、いちいちドタバタする展開も見どころです。

様々な社会問題に考えさせられる

『犬を盗む』は殺人事件の謎を追うミステリーですが、その裏では社会に潜む様々な闇がさりげなくフォーカスされています。

たとえば動物の過剰な多頭飼い。

ニュースでも時々取り上げられているのでご存知の方も多いと思いますが、無責任な多頭飼いは動物にとって残酷です。

食事を満足に与えられず、衛生状態は悪くなる一方、無法地帯なので無計画な出産で頭数がさらに増え、喧嘩は日常茶飯事、場合によっては殺し合いや共食いも……。

作中でまさに多頭飼いされている犬たちが出てくるのですが、それはもう可哀想で痛ましくて……。

もちろんこのような状態は周辺に住む人々にとっても問題であり、捨て置いて良いことではありません。

またこの作品では、犯罪者の社会的立場における問題も示唆されています。

松本には前科があり、既に出所はしているものの、社会からは未だに「犯罪者」として見られがちであり、それが松本の人生を非常に生きづらくしています。

偏見、そしり、理不尽な仕打ち、etc…これらは基本的には人々が抱く「再犯への恐れ」から来るものではありますが、それだけとも言い切れない部分があり、やはり放置できない問題だと思います。

この他にも、SNSの悪用、高齢者の一人暮らしなどなど、『犬を盗む』では様々な社会問題が浮き彫りになっており、読みながら考えさせられます。

犬にとっても人間にとっても、より安心して過ごせる社会にしていかねば、という気持ちになります。

少なくとも、縁があって一緒に暮らすことになったワンちゃんとは、共に幸せに生きていきたいですよね。

この「幸せの共有」こそが、作品を通じて作者が最も伝えたかったことではないでしょうか。

愛に溢れる10周年記念作品

『犬を盗む』は、ミステリー作家・佐藤青南さんのデビュー10周年を記念する作品です。

デビュー作『ある少女にまつわる殺人の告白』は児童福祉における問題を取り扱った作品であり、その後の作品も、洗脳や無謀運転など様々な社会問題がベースとされていました。

そして本書『犬を盗む』では、上述の通りより多くの社会問題が描かれており、まさに10周年記念にふさわしい作品と言えます。

社会問題もですが、本書の一番のメインは犬と人間との絆であり、決して悲痛なだけのミステリーではなく、胸を突く部分や心温まる部分がとても多いです。

特に、ところどころに挟まれる犬目線のパートが可愛すぎてもう!

犬独特の素直さや純真さ、そして犬が人に向けるひたむきな愛情や信頼感が端々から感じられて、読みながらホッコリしますし、こちらからも精一杯愛してあげたくなります。

特にラストは、愛が溢れまくって涙腺大崩壊!

読み終わった後は「あ~、犬っていいな~」と、うっとりし続けてしまいます。

作者ご自身もワンちゃんを飼っておられるそうで、その愛情が作品に滲み出ているのかもしれませんね。

とにかくハートフルで素敵な物語なので、ミステリー部分や社会問題の描写にハラハラしつつ、ぜひ堪能してみてください!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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