『ヨルガオ殺人事件』- 『カササギ殺人事件』の続編。極上の犯人当てミステリ

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ミステリ編集者を辞めクレタ島でホテル経営をしていたスーザンの元に、イギリスで同じくホテル経営をしている老夫婦が訪ねてきた。

なんでも、8年前に彼らのホテルで起きた解決済みの殺人事件に関連して、ある秘密に気づいた彼らの娘が失踪してしまったのだという。

その娘は失踪前に、スーザンが出版に関わっていたミステリ小説を読み、意味深な発言を残していた。

実はそのミステリ小説は、老夫婦のホテルで起きた殺人事件からアイデアを得て書かれており、娘はその小説から事件の「真相」にたどり着いたのだ。

老夫婦はスーザンに高報酬をちらつかせ、事件と小説に隠された秘密を解き明かして娘を探し出してほしいと依頼する。

ホテルの経営と自分の人生に行き詰まりを感じていたスーザンは老夫婦の依頼を受け、イギリスへと調査に向かうことにしたのだった。

目次

『作中作』を生かしきった構成

前作『カササギ殺人事件』でうまく使用された作中作という手法。

今回も作中作の手法は生かされており、元編集者スーザンは『愚行の代償』というミステリ作品に隠された秘密と過去の殺人事件の真相を探っていくことになります。

作中作の謎解き、そして本編の謎解きという二段構えの構成が、作品に幅と奥行きを与えています。

しかし当然のことですが、『カササギ殺人事件』と『ヨルガオ殺人事件』にはそれぞれ大きく異なる点も。

小説の内容について読者同様驚きを隠せなかった『カササギ』の時とは違い、スーザンは今回の作中作『愚行の代償』の内容をハッキリ覚えていました。

彼女は、作中作『愚行の代償』の内容をしっかりと記憶した上で事件の調査に向かったものの、なかなか真実を見抜くことができません。

事件についての情報や手がかりをつかんだ上で、スーザンは『愚行の代償』を読み直してみることにします(読者はここで作中作の内容を知ることになります)。

「娘は何に気づいて失踪してしまったのか?」「解決したはずの事件の真実とは?」を探るスーザンと共に、読者も自身で推理をしながら読み進めるのです。

少し複雑な構成にも感じられますが、先の気になる展開とスーザンによる丁寧な状況整理により、読者自身も推理しながら読める楽しさがあります。

作中作という設定の面白さを最大限に生かしたミステリと言えるでしょう。

ミステリというジャンルへのリスペクトに溢れた作品!

本シリーズの作者であるアンソニー・ホロヴィッツは、ミステリ大国として名高いイギリス出身のミステリ小説作家。

アガサ・クリスティへのオマージュでも評判となった前作『カササギ殺人事件』と同じくらい、今回もクリスティ作品への愛に満ちた作品となっています。

また、小説だけでなくドラマの脚本・製作という業界においてもミステリの面白さに貢献している作者。

これまでミステリに触れ続けていればいるほど、クリスティファンであればあるほど楽しめるでしょう。

今作は英語による言い回しが重要な鍵となっている点も特徴ですが、英文の構成を生かした翻訳により、日本語でも見事にその味わいを感じながら読めます。

作者のミステリへのリスペクト、翻訳の妙など、ミステリ好き、英語・イギリス好きなら間違いなく刺さるはず!

出だしから読み終わりまで、練りに練られた大作です。

前作未読の方も、ぜひ前作を読んでから今作を読むことをオススメします!

ミステリの大家による安定の面白さ!

前述の通り、アンソニー・ホロヴィッツは小説だけでなくドラマの脚本・製作といった世界でも活躍し続けている、まさに「ミステリの大家」と言っても決して過言ではない存在。

今シリーズ一作目の『カササギ殺人事件』では、「このミステリーがすごい!」「本屋大賞(翻訳小説部門)」など初の7冠に輝き、その他のシリーズでもたくさんのランキングで1位を総なめ、手掛けたドラマは軒並み人気シリーズに。

名探偵ポワロシリーズ、シャーロック・ホームズシリーズ、ジェームズ・ボンドシリーズなど、昔からのシリーズモノに関わり、そして結果を残してきました。

ここまでミステリ関連の実績がある方の作品なら面白いはずですよね。

むしろ期待値が上がりすぎて面白さを感じられないのでは?と考える方もいるかもしれませんが、それは完全に杞憂!

読み手の大きな期待に応えるばかりか、それをさらに上回る引き込み力と面白さが『ヨルガオ殺人事件』には仕込まれています。

そもそも、作中作の解決と本編の解決、少なくとも二つの盛り上がりが約束された本作。

今までミステリを読み慣れてきた方にこそ、オススメしたい作品です。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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