川瀬七緒『四日間家族』- 誘拐犯に仕立て上げられた自殺志願者たちの運命は。 

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とある理由から自殺を決意した夏美は、ネットで繋がった同じ望みを持つ三人と車で山へ向かう。

彼らは年齢も性別もバラバラで、それぞれの理由から皆自殺という道を選択していた。

夜更けとなり車中で練炭に着火しようとしたその時、森の奥から赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。

彼らは死ぬ前の「最後の人助け」として、一時的に赤ん坊を保護することにしたのだった。

しかし、赤ん坊の母親を名乗る女性がSNSに投稿した動画によって、四人には連れ去り犯の汚名が着せられて炎上騒動に発展、一転して追われる立場となってしまう。

四人は、SNS上で暴走する「正義」の手から無事逃れられるのだろうか。

誘拐犯に仕立て上げられた自殺志願者たちのたどり着く真相とは?

一気読み必須のスピード感あふれる犯罪小説。

目次

赤ん坊を救うために団結していく“ろくでなし”たちを応援したくなる

本作の見どころの一つは、協調性の無かった登場人物たちが「赤ん坊を助ける」という一つの目的を通して協力し合い、成長していく過程が見られるという点です。

そもそも“四人はどういった人間でなぜ自殺を選んだのだろうか?”というところを深堀していくと、彼らが必ずしも善人ではない、むしろ一種の“ろくでもなさ”を持った人たちであることがわかってきます。

たとえば、車を提供しドライバー役を務める長谷部康夫60歳。

経営していた鉄工所が借金でどうにもならなくなり、連帯保証人の妹にお金を残すために自殺を決意した、という部分は覚悟が見えるものの、男尊女卑の気が強く、夏美たちに卑猥な言葉を投げかけます。

スナックを経営していた73歳の寺内千代子はコロナ禍で闇営業をしてクラスターを引き起こして炎上、高校生の丹波陸斗は自らの事情は語らぬまま夏美に対して「どうせ死ぬなら一回ヤラせて」と言い出す始末。

当の夏美自身は他の三人とは一段違ったろくでもなさを持ち合わせています。

そんな彼らが赤ん坊を救おうとして誘拐犯の汚名を着せられ、SNSの“正義”に追われつつも、段々と結束していくようになるさまはとても読み応えがありました。

同時に四人の内面的な成長も見られ、奥行きのある作品となっています。

出だしからは想像できない展開に一気に引き込まれて読んでしまう

「後ろ暗いキャラクターたちが赤ん坊を助けようとして奮闘する」というストーリー自体はそこまで目新しいというわけではありません。

しかしこの作品には“SNS”という新機軸が登場しているという特異点があります。

夏美たち四人は赤ん坊を助けたはずでしたが、彼らを誘拐犯だとする動画が上げられるとSNSで大炎上、次第にSNSでは“正義”が暴走していくことになるのです。

SNSとは言ってみれば数の暴力であり、個人個人の力ではどうすることもできない。

そんな相手に四人がどうやって立ち向かっていくのか?

ひとたび正義を振りかざすと留まるところなく叩きが進行していくことの恐ろしさを忠実に表現していると感じました。

王道設定の中にSNSという現代の巨大な力を登場させることにより、予測できない展開になっていると思います。

そもそものところ、なぜ彼らを誘拐犯とする動画が上がったのか、その目的な何なのか、というのも気になってくるポイント。

いったい四人はどうなってしまうのか、赤ん坊を助けることはできるのか。先が気になって一気読みが止められなくなる作品です。

際限なく膨れ上がる「正義」の恐ろしさと人間の再生を描く物語

この本を読んでまず感じることの一つが、正義が暴走することの恐ろしさなのではないかと思います。

現代はSNSというかたちで集団の意見が可視化できるようになっており、本作ではその集団の意見が“正義”に力を変えて主人公たちに襲い掛かってくるのです。

片方の意見をうのみにし、犯罪者認定した人たちの個人情報を徹底的に暴いて拡散しまくり、叩きまくる。

現実世界でも幾度となく問題となっているSNSでの正義の暴走が、上手くテーマの一つとして落とし込めていると思いました。

そんな醜悪な“正義”とは対になるものとして描かれているのが、主人公を含む四人の成長物語。

前述の通りろくでもないと言われる人生と送ってきたとされる彼らですが、「赤ん坊を守る」というたった一つの目的の下で徐々に団結し協力するようになり、一人の人間として成長を遂げるのです。

集団になって正義を振りかざすのが人間の闇の部分であれば、自分以外の誰かのために成長しようとするのは光の部分であるなと感じました。

著者の川瀬七緒さんは、長くデザイナーとして活躍した後、2007年頃から小説を執筆し始め、2010年には第20回鮎川哲也賞で『静寂のモラトリアム』が最終候補・第56回江戸川乱歩賞で『ヘヴン・ノウズ』が最終候補となり、2011年には2度目の応募で『よろずのことに気をつけよ』が第57回江戸川乱歩賞を受賞したという経歴があります。

デザイナーと作家の共通点について「無から何かを作り出す点、人と違う視点で物事を見る点が、似ている」と語られており、本作にもそれが反映されていると感じました。

本作以外にも、シリーズものや単作品を多数発表しているため、本作を読んで気になったという方は、ぜひ他の著書も読んでみてください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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