【自作ショートショート No.5】 『キカイな看護師』

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この頃、病院は看護師が不足してきている。

近年の感染症騒ぎやらで離職者が増え、新たに看護師になる人数も減少傾向にある。

看護師がいなくなれば、病院の業務は回らなくなる。

看護師の減少は病院の危機でもあるのだ。

そこでS大附属病院はある奇手を思いつく。

「ハジメマシテ、今日カラオセワニナル、ロボ子デス」

そう、S大附属病院は工場に看護師ロボットの制作を発注したのだ。

ロボットは巨大なゴミ箱のような形をしており、そこにキャタピラと作業用の手、さらに腹部にはモニターを備えている。

AIを積んだ、奇怪で機械な看護師ロボットのテスト運用が早速始められた。

医師であるG氏が看護師ロボットの案内をする。

「ロボ子くん、君が最初に担当するのはあちらの患者さんだ」

「アノ男ノ子デスネ」

「あの子は注射がキライでね。泣いて嫌がって大変なんだ。……ちゃんと対応できそうかい?」

「オマカセクダサイ」

ロボ子はキャタピラをカタカタ言わせながら、男の子の元へと向かった。

「なにこれ? 新しいオモチャ?」

「看護師ロボットノロボ子デス。オ注射ノオ時間デスヨ」

「注射!? やだやだ! 注射はいやだ!」

男の子がかんしゃくを起こし、暴れだす。

しかしロボ子は機械なだけあって、冷静だった。

「ソウデスネ、ソレデハ注射ハヤメマショウ」

「えっ、いいの?」

「ソノカワリ、コチラヲ読ミマセンカ?」

ロボ子がそう尋ねると、腹部のモニターになにやら映像が映し出される。

「もしかして、これって週刊少年ジャブの電子書籍?」

「ソレモ最新号デス。ドウゾオ読ミクダサイ」

「やった!」

男の子は大喜びで、モニターに映ったマンガを読み始めた。

どうやら娯楽に飢えていたようで、男の子はマンガを食い入るように読んでいる。

「わあ、やっぱり少年ジャブはおもしろいなぁ」

「オ気ニメシタヨウデウレシイデス」

そのまま男の子はマンガを読み続け、あっという間に読了してしまった。

「あーおもしろかった。他のマンガはないの?」

「ゴザイマス。少年ヨンデーヤ週刊イマジンモアリマスヨ」

「本当!? 今すぐ読ませて!」

「デシタラ、課金ヲオ願イシマス」

「なんだ、お金を取るのか。お金なんて持ってないよ」

「イエ、オ金ハ不要デス。注射ヲ一回シタラ、一冊他ノマンガモ読メマス」

「注射しなきゃいけないの!? うーん」

男の子はうなり声をあげながら、考えている様子。

一分くらいして、男の子は覚悟したように大きく頷いた。

「わかった! それじゃあ注射して」

「泣カナカッタラ、モウ一冊オマケデ読マセテアゲマスヨ」

「その代わり、痛くしないでよ!」

ロボ子はG氏から注射器を受け取ると、機械らしい精密な動きで男の子に注射をした。

あまりにあっさり終わってしまったので、男の子は驚いている。

「すごい! 全然痛くない! ロボ子すごいよ!」

「喜ンデイタダケテ光栄デス」

この一連の流れを、G氏は感心しながら見ていた。

これなら看護師ロボットは使えるかもしれない。

そんな期待がG氏の中で生まれていた。

その後もロボ子は活躍を続けた。

人間の看護師の愚痴を積極的に聞いてまわって離職率を下げたり、「お客様は神様だ!」と騒ぐ悪質なクレーマーを「ダトシタラ、アナタハ貧乏神デス」と毅然とした態度で追い出したり。

気づけば、ロボ子はS大附属病院になくてはならない存在になっていった。

院長はロボ子を増産してもらうため、工場と話を進めている。

そんなある日、ロボ子は新しい患者を担当することになった。

「彼は余命3ヶ月と言われていてね。難しい患者さんだけど、対応できるかい?」

「オマカセクダサイ」

ロボ子が担当する新しい患者は、気難しい顔をして窓をながめていた。

果たして大丈夫だろうか、そうG氏は心配しながらも、ロボ子の様子をうかがう。

「ハジメマシテ、今日カラ担当サセテイタダク、ロボ子デス」

「……ふん」

「ナニカ困リゴトガアレバオッシャッテクダサイ」

「……困りごと? それなら俺の病気を治してよ」

「ソレハデキマセン」

「ずいぶんハッキリ言うじゃないか。……ふざけるなよ!」

そう言うなり、患者の男はロボ子に手を上げた。ガゴンという鈍い音が病室に響く。

叩かれたショックで、ロボ子は倒れてしまった。

G氏が慌ててロボ子の元へ向かう。

「やめてください! ロボ子が壊れたらどうするんですか!」

「うるさい! そんなこと言うなら先に、俺の壊れちまった体を治してくれよ!」

「それは……!」

そう口にして、G氏はハッとする。

患者の男は大粒の涙をボロボロとこぼしていた。

「余命3ヶ月、このままじゃ親より先に逝くことになる。こんな親不孝、あるかよ……」

患者の男は声をあげて泣いた。病室に男の泣き声だけが響く。

そこへ男に話しかけたのは、ロボ子だった。

「カシコマリマシタ。ソノ問題ヲ解決シマス」

そう言うなり、ロボ子が病室から出ていってしまう。

いったいロボ子は何をするつもりなのか。

G氏は病室でロボ子の帰りを待った。

ところが帰ってきたロボ子の姿を見て、G氏は言葉を失ってしまう。

「ロボ子、おまえそれは!?」

しかしロボ子はG氏を無視し、患者の男の元へと向かう。

ロボ子の姿を見て、患者の男は小さく悲鳴をあげた。

「な、なんなんだよおまえ!血まみれじゃないか!」

「ゴ安心クダサイ、問題ハ解決シマシタ」

「――アナタノゴ両親ヲ殺シテキマシタ。コレデ親ヨリ先ニ逝カナイノデ、親不孝ジャアリマセンネ……」

(了)

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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