【自作ショートショート No.38】『理想の恋人』

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若者に向けて、ある画期的なロボットが開発された。

それは簡単な設定をするだけで、理想の恋人に変身するというロボットだった。

見た目は人間そのもので、感情も持っている。

そのうえ、ロボットだから年は取らない。

恋人もおらず一人寂しい人生を送っている若者には、まさに理想的なロボットであった。

このロボット、希望者には国から無償で支給される。

そもそも研究開発を指示したのが国の偉い人たちなのである。

国の発表によると恋人のいない若者の人生が潤うように、人を愛する心を育むために、あるいは一人でいる寂しさを紛らわすためにとの思いから、ロボットは作られたらしい。

対する国民の反応は、たまに役立つことをするじゃないか、ようやく意味のある取り組みをしやがったかとやや皮肉なものだったが、まあ概ね好評だった。

その後モテない男性、恋に奥手な女性など、恋人のいない若者を中心にロボットは支給されていった。

生まれてから一度も恋人がいないある女性は、高身長で筋肉質、優しい性格で毎日彼女に愛を囁いてくれるハンサムな恋人を手に入れた。

また田舎に住むある男性は、働き者で料理上手、一切不満を言わず、彼より早く起きて遅く寝る美しい恋人を手に入れた。

もちろん相手はロボットなのだが、外見は人間そっくりだし感情も持っているので、設定した当人も本物の恋人だと錯覚するぐらいであった。

やがて街は美女と野獣、またはその逆のカップルたちで溢れかえるようになった。もちろんカップルのうち美男美女のほうがロボットである。

みんなそれぞれが自分の理想とする容姿と性格に設定し、それに飽きたらまた設定し直すのだ。

そうなると人間同士のカップルは、お互いを見てため息をつく。

モテないやつらにあんな素敵な恋人がいるのに比べて、自分たちの相手はどうだろう。

文句は言うし、デートにもお金がかかる、見た目だって冴えないじゃないか。

もう我慢ならない。そう言って人間同士のカップルたちは別れてしまう。

その後はロボットを支給してもらい、自分好みに設定するわけである。

そんな若者たちを眺めている分にも楽しい。なんてったって半数は美男美女なのだから。

もちろん人間の中にもロボットと同様の容姿を持つ者はいる。

でも愚痴は言うし、いびきはかくし、怒ったり泣いたりとうるさいことこの上ない。

好き好んでそんな人間を選ぶより、どんなわがままでもおとなしく聞いてくれるロボットの方がいいに決まっている。

こうして今やほとんどの若者がロボットを恋人にしていた。みんな理想の相手と一緒にいて幸せそうだ。

ところがここで一つ問題が起こる。それも人類にとっては非常に大きな問題である。

いくら見た目を人間に似せていても感情表現ができたとしても、所詮は機械でできたただのロボットだ。

人間と機械のカップルに子供は生まれない。

最初にこの事に気付いたのは誰だっただろうか。

ある時、互いに人間の伴侶を持つ老人たちの誰かが言い出した。最近、子供を連れた家族が減ったなと。

また別の老婦人が思う、ロボットに子供は作れるのかしらと。

さらに子を持つ親が不安になる、孫はいつになったら見られるのかと。

そうなのだ、街に幸せそうなカップルが増えた一方で、子供たちの数は確実に減っている。

みんな理想の相手を見つけて満ち足りているから、あえて子供を作ろうという発想にも至らない。実際出生率も下がってきている。

しかし心配しているのは中高年以上の大人たちだけ。若者たちはそんな心配などどこ吹く風だ。

このままじゃ人類は先細りなんじゃないか?そう思った一人の老人が、国の偉い人にその不安をぶつけた。

しかし返ってきたのは、これからの国を背負って立つすべての若者に不公平なく、幸せを感じてもらうための取り組みなのだ、今ロボットを回収すれば若者が不幸になるというものだった。

確かに言われてみればその通り、ロボットの登場によって幸せになった者はいても、不幸になった者は一人としていない。

なんとなく不安に感じていた中高年以上の人たちも、国の偉い人からそう言われては納得せざるを得なかった。

とはいえ老人たちだって本気で未来を案じていたわけではない。

自分の子供や孫たちの世代が幸せそうにしているならそれでいいじゃないかと思う者も多かった。

それから五年の時が流れ、街には子供が全く見られなくなった。

いや、正確に言えば国の偉い人たちのところにはちゃんと子供が生まれていた。

「まさかわずか五年でここまで効果が出るとは」

「これで我が国の未来、いや我々の未来は安泰だな」

「そうですな。これで人口爆発問題も解決だ」

実はこのロボット、人口増加に歯止めをかけるため、国が考え出した秘策だった。

何十年かかっても止められなかった人口増加が、理想の恋人を実現化するロボットのおかげでたったの五年で解決したのだ。

これからの国を背負って立つのは、国の偉い人たちの子供である。

(了)

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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