【自作ショートショート No.24】『天気の神様』

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あるところに、一人の少年がいた。

ごく普通の家庭に産まれ、ごく平凡に育っていったその少年は、ある日、自分がとある能力を持っていることに気づいた。

それは、自分の好きなように天気を操る力。

この少年が力を自覚したのは、小学校高学年になったころだった。

「はぁ、明日から大雨だって。日曜日の運動会、できないのかな……」

少年は、週末の天気予報を伝えるニュース番組を見ながら、大きくため息をついていた。

秋の行楽シーズンだというのに、明日からの数日間は、大きな傘マークが並んでいる。

「いやだ、お願いです神様、日曜日を晴れにしてください……お願いします……」

少年は小さな声でそうつぶやくと、心の中で何度も願い事を唱えながら眠りについた。

そして翌日の朝。目を覚ました少年が目にしたのは、窓の外に広がる、雲一つない青空だった。

「……だからですね、こんなことはあり得ないんですよ。この地域を覆っていた分厚い雨雲が、昨日の夜から、あれよあれよという間に移動してしまったんです。私は長い間、天気の研究をしてきましたが、こんな現象は……」

朝のニュース番組では、急きょ電話をつないだと思しきどこかの大学教授が、この地域がいきなり晴れたのがどれだけ特異なことかを語っている。

そのままの流れで解説がはじまった天気予報のコーナーからは、傘のマークがすっかり消えていた。

「やった!これで運動会ができるぞ!もしかして、僕が神様にお願いしたからかな?」

少年はまだ半信半疑ながら、自分の願いが叶ったことを喜んでいた。

それから何度か試してみると、やはり自分が神様に願った通りに、天気が変わった。

少年は自分の力を確信し、ことあるごとに天気を操るようになっていった。

「お願いします神様、来週の月曜日は大雨にしてください……」

そう願った翌週の月曜日。空からは大粒の雨が降り注ぎ、少年が大の苦手にしていた体育の長距離走が中止になった。

「お願いします神様……次の週末は、たくさん雪を降らせてください……」

そう願った翌週の土日。少年の町には、記録的な大雪が降った。

少年はしてやったりといった顔で、近所の公園で思う存分雪遊びを満喫した。

「お願いします神様……明日は絶対に晴れにしてください……」

そう願った二月のある日。大雪の予報を覆し、季節外れのポカポカした陽気が町を包んだ。

不思議そうに空を見る、厚着の受験生たちを尻目に、少年は気分良く大学受験会場へ到着したのだった。

そんな少年も、いつのまにか大人になり、上京して社会人生活を送っていた。

ただ、若者の仕事は、天候に左右されるものではなかったので、能力を使う機会は少しずつ減っていった。

忙しい毎日を送る中、若者はとある女性と出会った。

その女性は若者と同い年で、同じく地方から上京してきた者同士、仲良くなるのに時間はかからなかった。

いつしか二人は親密な関係になり、一緒にたくさんの思い出を作っていった。

そして、二人が交際をはじめて二度目の冬。

きらびやかなクリスマスツリーの前で、若者は少しソワソワしていた。

なぜなら今夜、彼女にプロポーズをするつもりだからだ。

若者は、今だ、というタイミングで、人生最高となる思い出の演出として、少し演技っぽく振る舞いながらこう言った。

「そこの素敵なお嬢さん。今から魔法をごらんにいれましょう。私が魔法を唱えるとあら不思議!空から雪が降りだします。それでは行きますよ?スリー、ツー、ワン、ゼロ!」

指を折り曲げてカウントダウンをしながら、若者は心の中で唱えた。

「お願いです神様、今すぐに雪を降らせてください……」

するとその直後、どこからともなく雪が降り始め、あっという間にツリーを白く染めた。

「ほらね、言った通りでしょ?」

若者が得意げに言い、胸元から指輪の入ったケースを取り出そうとしたその時だった。

しばらく黙っていた彼女が、口を開いたのだ。

「……やっぱり、あなたで間違いなかったんだ……」

「……?……どうしたの?」

「……あのね、私、昔から天気に恵まれて来なかったんだ。楽しみにしてた運動会は、予報外れの大雨で中止になるし、一生懸命勉強して臨んだ大学受験は、いきなりの大雪で会場に辿りつけずに失敗するし」

「……えっ?」

うつむいたまま、淡々と口を動かす彼女の話を聞きながら、若者は次第に言葉を失っていった。

「それにね、私、学生のころに両親を失ってるって言ったでしょ?あれね、天気予報が外れて、急に振り出した記録的な大雪で、車がスリップして事故を起こしちゃったのが原因なの」

「それでね、さすがにおかしい、呪われてるんじゃないかって思ったからね、霊能力者の人に見てもらったことがあるの」

「そしたらね、この国のどこかに、自分の好き勝手に天気を操っている奴がいるんだって言うの。そしてね、私がいままで受けて来た天気の不利益は、そいつが自分の良いように天気を操ったことの反動なんだって」

「なんかね、ある地域の大雨が快晴になるのって、雨雲が消えるわけじゃないんだって。大気中のエネルギーが、他の地域と入れ替わっただけなんだってさ」

「それで、どんな奴か分かりますか?って聞いたらね、私と同い年で、あなたくらいの背格好の男だって教えてくれたの。それでさ、あなた、ある時期に局地的な異常気象が何度も起きてた地域の出身でしょ?だからね、もしかして、と思ってたの。」

「でも、そんな素振りなかなか見せないからさ、私の思い違いかな、って思ってたんだけど……やっと尻尾を出したね」

そう言って顔を上げた彼女は、雲一つない青空のように、晴れやかな笑顔だった。

若者が絶句しながら視線を下げると、その手元にはナイフが握られていた。

(了)

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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