クリスティン・ペリン『白薔薇殺人事件』- 大叔母はなぜ殺された?60年分の日記に真相が潜む

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アニーは、ミステリー作家を夢見て執筆に打ち込む25歳。

ある日唐突に、疎遠だった大叔母・フラニーに呼び出され、キャッスルノール村を訪れる。

大叔母は大変な資産家だが、村では変人扱いされていた。

若かりし頃に占い師に「いつか殺される」と予言され、今でもそれを信じて、周囲の人々を警戒し続けているからだ。

しかしその予言が的中したのか、アニーが邸宅に到着した時、大叔母は図書室で死んでいた。

状況に不審なものを感じたアニーは、警察に捜査を依頼。

警察が検死を行ったところ、結果は毒殺だった。

大叔母は一体誰に殺されたのか。

アニーは大叔母が約60年間綴った日記をもとに、犯人を捜し始める。

大叔母は自分が殺されることを懸念して、周囲の人々について細かく調べ上げ、日記として記録していたのだ。

目次

作家の卵が日記で謎解き

『白薔薇殺人事件』は、大叔母のフラニーを殺された作家志望のアニーが、犯人を探し出すという本格ミステリーです。

物語は大きく二つに分かれていて、ひとつはアニーが調査を進める現代パートで、もうひとつはフラニーの日記による過去パート。

面白いのが、アニーの調査が、フラニーの日記をもとに進められているところ。

フラニーは占い師に「殺される」と予言されてから約60年間、周囲の怪しい人物を片っ端から調べ、日記に記していました。

あの友人がこんなことを言っていた、あの親戚とこんな出来事があった、などなど日常のちょっとしたことからハプニングまで、丁寧に記録していたのですね。

そのためアニーにしてみれば、日記を読むことは、まるで過去の世界に聞き込み調査に行くようなもの。

物語はこの現在パートと日記パートとを繰り返すことで、真相を少しずつ明るみにしながら進んでいきます。

また、フラニーが日記だけでなく遺言状を残していたところも、物語の面白さのポイントです。

自分が殺されることを警戒していたフラニーは、いざという時のために遺産相続についても準備を進めていました。

遺言状の内容は、多額の資産を「アニーとサクソンの二人のうち、一週間以内に犯人を見つけることができた方に譲る」というもの。

サクソンは検死医で、フラニーの義理の甥にあたります。

つまりアニーにとってこの謎解きは、大叔母の無念を晴らすことが第一ですが、血縁者として財産を相続するためでもあるわけです。

さらにミステリー作家を志望しているアニーには、推理は力量を試すことにもつながりますね。

目標がこれだけあると、アニーは俄然燃えてきますし、読者としてもワクワク!

果たしてアニーは、身内として、古い日記から全ての真相を引っ張り出すことができるのでしょうか?

何がどう人を変えていったのか

60年も経てば、人も村も世界の状況も変わります。

フラニーの日記にはその様子が赤裸々に描かれており、そこも本書の魅力のひとつとなっています。

たとえばフラニーは、亡くなる直前は、死への恐怖と猜疑心とで心の余裕がなくなった偏屈な老女でした。

でもそんなフラニーも、60年前は明るくて純粋で、青春をめいいっぱい楽しむキラキラとした女の子だったのですよね。

なのに、どうして変わってしまったのか。

そこには占い師の予言や友人エミリーの失踪事件、富豪の青年ラザフォードとの出会いなど、悲劇からロマンスまで様々なドラマがありました。

日記からは、フラニーが変わらざるを得なかった理由が見えてきて、読むと胸がぎゅっと詰まってきます。

フラニーだけでなく、他の登場人物も長い年月の間にどんどん変わっていきます。

最初は友好的だったのに裏切ったり、いけすかない奴だったのに助けになってくれたり。

中には驚きの末路をたどる人物もいます。

それらはヒューマンドラマとして興味深いのはもちろん、ミステリーとしても大きなポイントとなります。

なぜならそういった「心境の変化」によって、「殺害動機」を持つに至った人物がいるからです。

現代パートでフラニーが既に殺されている以上、きっかけとなった出来事は必ず過去に隠されているのです。

誰がどう変化して、何が悲劇を招いたのか、そこに注目して読むことで、本書は一層深く味わえるようになります。

クリスティの後継者と称される作家のデビュー作

『白薔薇殺人事件』は、現在イギリスで特に注目されている作家クリスティン・ペリンさんの作品です。

大人向け小説としてはこれがデビュー作ですが、その力量は早々と知れ渡り、「黄金時代のミステリ愛読者に薦める現代の犯人当てミステリ・ベスト20」や「2024年3月の最も期待している本」に選ばれたほど!

さらにクリスティンさんは、イギリスが誇る古典ミステリーの大御所であるアガサ・クリスティの「後継者」とまで称されています。

さらになんと、現在の英国ミステリー界のトップランナーであるアンソニー・ホロヴィッツ氏に並ぶという評価もあります。

クリスティン・ペリンさんはそれほどの大型新人であり、その栄えあるデビュー作が本書『白薔薇殺人事件』なのです。

もうそれだけで、読むべき作品リストに入れて損なしですよ!

もちろん評価だけでなく内容も充実しており、ミステリー作家の卵としてのアニーの奮闘、どこかオカルティックな占い師の予言、若かりし日のフラニーのアバンチュールなどなど、見どころ満載です。

登場人物も多く(なんせ約60年分の出会いが詰まっていますから!)、それぞれ深く掘り下げられています。

たとえば、アニーは利発で行動的な娘ですが、実は血が苦手で注射も嫌いだったりします。

こういったエピソードが随所に盛り込まれているため、登場人物が多くても一人一人に愛着が湧くのですよね。

それがより一層、物語を楽しく読ませてくれます。

日本でも注目度が高まっている作品なので、ぜひ読んでみてください!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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