アンソニー・ホロヴィッツ『死はすぐそばに』- 高級住宅地での殺人に、住民たちは揃って口を閉ざし…

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その事件が起こったのは5年前、テムズ川沿いの高級住宅地リヴァービュー・クロースだとホーソーンは言った。

きっかけは、金融業者のケンワージーが引越してきたこと。

この迷惑な新参者が来て以来、仲が良かった住民たちの雰囲気が悪くなり、トラブルが増えていったという。

やがて、ケンワージーが何者かにクロスボウで射殺されるという恐ろしい事件が発生。

ホーソーンは警察からの依頼で捜査を始めるが、その矢先、今度はクロスボウの持ち主だったブラウンがガス中毒で死んでしまう。

ケンワージーとの間に確執があったことと遺書が用意されていたことから、殺害後の自殺と推測された。

しかし他の住民たちは、明らかに何かを隠している様子で―。

ホーソーンからこの話を聞いたホロヴィッツは、真相が気になり尋ねるが、ホーソーンはなかなか語ろうとしない。

しびれを切らしたホロヴィッツは、単身で現場に向かうが―。

目次

ご近所トラブルの真相は?

『死はすぐそばに』は、イギリスで大人気の探偵小説「ホーソーン&ホロヴィッツ」シリーズの第五弾!

これまでは、探偵ホーソーンが事件を追い、作家のホロヴィッツが同行しながら小説化する、という形式でした。

ところが今作では趣向がガラッと変わり、新作のネタに困ったホロヴィッツが、ホーソーンに過去のめぼしい事件を語ってもらうという形になっています。

そのため今作では、従来のホロヴィッツの一人称ではなく、三人称。

今までとは雰囲気が違っているので、とてもワクワクしますね!

さて、ホーソーンの語る事件がどのようなものかというと、簡単に言うと「ご近所トラブルからの隣人殺害」です。

ハイソな住宅地に、下卑た金融業者ケンワージーが引越してきたことが事の始まりです。

この男が曲者で、空気を読まない行動で立て続けにトラブルを起こした挙句、クロスボウで喉を射抜かれ、殺されてしまいます。

犯人らしき人物はわりと早く判明するのですが、その人物が自殺したため、事件は急に幕切れに。

この結末に、ホロヴィッツはどうもスッキリしません。

そこでホーソーンに話を聞いてみたところ、どうも真犯人が別にいるそうです。

でもホーソーンは、「結末を知らずに書いた方が、文章が輝くだろう」と、真相を明かしてくれません。

そのくせホロヴィッツが書いた文章に、ダメ出しばかりしてきます(笑)

ホロヴィッツは、〆切が迫っているのに真相はわからないし、書き直しの要求ばかりで、気が気じゃありません。

果たして原稿はきちんと仕上がるのでしょうか?

そして事件の、本当の結末は?

ホーソーンの話に垣間見える過去

今作『死はすぐそばに』では、事件の真相以外にも読者をワクワクさせてくれるポイントがあります。

それは、過去の事件を通じて、ホーソーンの過去も少なからず見えてくる点!

これまでの作品でホーソーンは、自分の過去については頑なに口を閉ざしてきました。

時折意外なところからチラッと片鱗が見えることがあり、そのたびに読者は秘密のヴェールがはがれていく感じにワクテカしたことと思います。

それが今作では、他ならぬホーソーン自身の口で語られるのです!

読者としては、テンション爆上がりですね!

もちろんホーソーンは、自分の過去をダイレクトには語ってくれません。

だからこそ事件の真相もスムーズに語ってくれないフシがあるのですが、それでも話の中には過去の情報がちょくちょく混ざっており、そのたびに読者は目がキラーン。

たとえば、

○当時のホーソーンは、「ジョン・ダドリー」という男を相棒にしていたこと。

○謎の組織「フェンチャーチ・インターナショナル」に所属していたこと。

○そこの最高責任者は「アリステア・モートン」だということ。

などの新情報が出てくるのです。

最初はバラバラのパーツでしかないのですが、ホーソーンが語る中から徐々に繋がりが見えてくるところがたまらない~。

しかもシリーズの過去作との関連性も出てくるのが、ますます楽しい。

たとえば、以前から登場している凄腕のハッカー青年と、某組織の関係…などですね!

とにかく、読者が思わず食いついてしまうネタが満載なのです。

もちろん読者だけでなく作中ではホロヴィッツが思いっきり食いついて(笑)、自らダドリーを捜しに行ったりします。

この「どうなっちゃうの!?」感も、本書の見どころ!

さあ、一体今作でホーソーンの過去がどのくらいわかるのか。

ぜひご自身で確認してみてください!

シリーズ5冊目、節目となる作品

2017年からスタートした「ホーソーン&ホロヴィッツ」シリーズも、今作『死はすぐそばに』で5作目。

作者のアンソニー・ホロヴィッツ氏によると、シリーズは全10巻を予定しているそうなので、本書はちょうど半ばですね。

これまでのホロヴィッツによる一人称の形式が、ホーソーンの語りによる三人称形式になっていたり、ホーソーンの過去がいよいよ明かされてきたりしたのも、ひとえに本書が節目と言うべき作品だからでしょう。

シリーズを追ってきた読者にとっては、突然の変貌に驚かされつつも、これから折り返し地点に入り、後半戦で壮大なドラマが展開される予感と期待とで、胸がいっぱいになるのではないでしょうか。

また今作は、舞台が高級住宅地であり、医者や法廷弁護士、チェスプレイヤーといったハイソな方々が登場します。

彼らは秘密を共有しているわけですが、そのあたり、ちょっとクリスティ作品を彷彿とさせますよね。

もともとアンソニー・ホロヴィッツ氏は大のクリスティ好きで、特に氏の『カササギ殺人事件』はクリスティ愛の詰まったオマージュ作品として知られています。

今作でもその愛情が随所に現れており、クリスティファンは読みながらニヤリとする部分が多いと思います。

もちろん事件も本格志向ですし、仕掛けもバッチリ!

ということで本書『死はすぐそばに』は、シリーズとしても本格ミステリーとしても、読み応えたっぷりの一冊!

読み始めると止まらなくなるので、十分なお時間を確保した上で、ぜひ楽しんでください!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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