貴志祐介『さかさ星』-こんな作品を待ってた!代々積み上げられた怨念が、一家を惨殺へと……

  • URLをコピーしました!

名家・福森家で、一晩で一家四人が惨殺される事件が起こった。

遺体の状態はあまりにも凄惨で、現実離れした惨たらしい手口で破壊されていた。

さらに屋敷には、何らかの怪しげな儀式を行ったような痕跡があり―。

福森家の分家筋にあたる亮太は、祖母から頼まれて、霊能者の賀茂禮子と共に屋敷の調査に赴くことに。

売れないオカルト系YouTuberをしている亮太にとってこの調査は、視聴率を稼ぐための格好のネタだった。

ところが状況は、亮太の想像以上に恐ろしいものだった。

禮子が言うには、屋敷内の美術品や骨董品が、ことごとくいわくつきの「呪物」らしいのだ。

しかも福森家の先祖に対する憎悪に満ちており、そのひとつが本家の惨殺事件を引き起こしたのだという。

このまま放置したのでは、なんとか生き延びた本家の子供達にまで災いが降りかかることになる。

亮太は惨劇を防ぐために、呪物の謎を探り、立ち向かおうとするが―。

目次

怨念だらけの呪物たち

『さかさ星』は、福森家の分家の長男・亮太が、本家での一家惨殺事件と呪物の謎に挑む長編ホラーミステリーです。

約600ページという大ボリュームの一冊で、内容は濃密!

福森家への憎悪がテーマとなっていて、呪物が大量に登場するのです。

能面だったり、日本刀だったり、市松人形だったり、幽霊画だったりと、おどろおどろしいアイテムが満載。

もちろんどれも怨念がみっちりと詰まっていて、しかもそれを霊能者の禮子が霊視して細かく説明してくれるものだから、かなり怖いです。

なんせ福森家は戦国時代から続いている旧家なので、エピソードの数も種類も豊富。

主への反逆や、小作料を払えなかった農民に対する過酷な仕打ちなどなど、福森家が代々犯してきた鬼畜の所業と、それに対する恨みつらみは非常~に根深いです。

そのためひとつひとつのエピソードが独立した怪談のようであり、それらが立て続けに語られる様は、百物語のように迫力満点!

そんなわけで『さかさ星』は、前半は、「ザ・呪物ショー」あるいは「怪奇特集!!あなたの知らない呪物」と言うべき内容です。

これほど多くの呪いをどう処理していくのか、惨殺事件の犯人は一体誰なのか、生き残った子供たちは助かるのか。

後半では、予想もしなかった驚きの展開が待っています。

パズル的思考で敵・見方を見極めろ

物語が進んでくると、惨殺事件の原因が呪物にあったことがわかってきます。

といっても該当するのは、大量にある呪物のうちの、ごく一部。

そのため亮太と禮子は、どの呪物が原因となっているのか見極めることになります。

これがなかなか厄介で、呪物の中には、すぐに処分しなければヤバいものや、うまく使えば事態を有利に運べそうなものもあるのです。

処分しようにも下手に手を出すわけにはいかなかったり、役立てようにも一歩間違えると逆にヤバいことになりそうだったりで、匙加減が難しいところ。

とにかくどの呪物が敵で、どの呪物が味方として使えるのか、知恵を絞ることが必要です。

ホラーでありながら、こういったパズル的思考が求められるところも、本書の魅力のひとつですね!

そして後半、謎の僧侶の登場により、物語はさらに面白味を増してきます。

この僧侶もひどく厄介で、禮子とは全く違う見解を述べてくるのです。

そのため亮太も読者も、禮子が間違っていたのか、僧侶が噓を言っているのかわからなくなり、混乱します。

一体どちらが敵でどちらが味方なのか、今度は呪物ではなく霊能者を見極めなければならないわけですね。

終盤には、さらなる超展開によって物語は激しく揺れ動きます。

パズル的だったはずが再びドロドロのホラーになり、しかも超絶怖い!

目を背けたくなるほど怖いのに、先が気になって読まずにいられないというジレンマ(泣)

しかしそれを上回るインパクトがあるのが、絶体絶命のピンチが続く中での、ある人物の覚醒です。

恐怖の絶頂だからこそ、真打ち登場的な覚醒がカッコよすぎて、読者はますます目を離せなくなりますよ〜。

この覚醒によって、果たして呪いは解かれるのか、それとも全く別の結末へと導かれるのか、ラスト付近の急展開には特に注目です!

呪いあり、ヒトコワありの本格派ホラー

『さかさ星』の作者・貴志祐介さんは、『十三番目の人格 ISOLA』や『黒い家』などのホラー小説で一世を風靡した作家さんです。

どちらも日本ホラー小説大賞で表彰され、ベストセラーとなり、映画化されました。

貴志さんは人間の狂気や異常性、業や因縁を描き出すことに長けており、「モダンホラーの代表格」や「鬼才」と称されるほど。

そんな貴志さんが、14年という時を経て、満を持して発表した長編ホラー小説が、本書『さかさ星』です。

呪われし旧家、一家惨殺、渦巻く怨念、呪物の数々と、まさにホラーサスペンスのど真ん中を行く本格派!

もちろん貴志さんお得意の異常心理も絶妙に絡んでおり、ヒトコワ系ホラーともいえる作品となっています。

さらに上でご紹介したように、パズルやミステリー的な要素もあるため、読み応えはかなりあります。

約600という膨大なページ数ですが、内容の広さ、深さ、充実度から、読者はそれ以上の満足感を味わうことができると思います。

しかもこの作品、上下巻での二部作になる予定だそうです。

貴志さんいわく、下巻の構想は既に固まっているとのことで、一体どのような展開になるのか、刊行が待たれますね!

それまでは、ぜひ本書をたっぷりじっくり堪能してください。

できれば日が出ているうちに読んだ方が、精神衛生上、良いかもしれません。

夜に読むと、本気で眠れなくなりそうです。そのくらい、べらぼうに怖い本です。

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

目次