『御手洗潔シリーズ』のおすすめ作品と読む順番について【島田荘司】

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島田荘司氏の『御手洗潔シリーズ』は基本どれも本当に面白いです。

傑作、名作、多数存在します。

ですが結論を先に言いますと、

御手洗潔シリーズで特にオススメなのは、1作目『占星術殺人事件』から『御手洗潔のメロディ』までです。

ここまでは、何があっても順番に読みましょう。順番に読まないと必ず損をします。

なぜならこのシリーズは、単なる一話完結のミステリーではありません。天才探偵・御手洗潔と語り手・石岡和己の関係の変化、彼らの人生に起きる出来事、そして作品全体に張り巡らされた大きな“構造”は、発表順に読むことでこそ最大限に味わえるからです。

『占星術殺人事件』に始まり、シリーズは超常現象を論理で打ち破る本格ミステリーから、歴史と科学を駆使した壮大な推理劇へと進化していきます。

その過程には、登場人物たちの成長、伏線の回収、過去の事件との意外な繋がりなど、時系列を追わなければ見落としてしまう繊細な設計が詰まっています。

この記事では、御手洗潔シリーズの読む順番をご紹介しながら、それぞれの作品の見どころや読むべき理由もあわせて解説します。

未読の方はもちろん、途中で読むのをやめてしまった方にも、この順番でこそ味わえるシリーズの醍醐味を再発見していただけるはずです。

目次

1番目.『占星術殺人事件』

昭和初期、日本を震撼させた未解決の猟奇殺人事件があった。それは、高名な画家・梅沢平吉が自宅アトリエという密室で殺害されたことから始まる。

彼の傍らには、恐るべき計画を記した手記が遺されていた。その内容は、占星術の知識を駆使し、六人の若い女性たちの身体の一部を切り取り、それらを合成して完璧な人間「アゾート」を創造するという、常軌を逸したものであった。

手記には、彼の六人の娘たちを含む処女たちの、どの部分を「アゾート」のために使うかまで詳細に記されていたのだ。

平吉の死後、その手記に予言されたかのように、彼の娘を含む六人の若い女性が次々と行方不明となり、やがて日本各地で、それぞれ身体の一部を無残に奪われた姿で発見される。

この奇怪な「アゾート殺人事件」は、戦中戦後の混乱の中で捜査が難航し、解決の糸口すら見えないまま四十数年の歳月が流れた。

そして現代、天才占星術師にして名探偵の御手洗潔が、相棒の石岡和己と共に、この迷宮入りした怪事件の真相究明に挑むのであった。

戦慄の“御手洗初登場作”――異常犯罪と名探偵の衝突

『占星術殺人事件』は、島田荘司氏の代表作であると同時に、名探偵・御手洗潔が初めて読者の前に姿を現した記念碑的作品でもあります。

この作品を語るうえでまず挙げねばならないのは、何よりもその大胆不敵な構想力と、読者を戦慄させるほどの奇想です。

日本の本格ミステリーに新たな地平を切り拓いたと称されるそのトリックは、もはや『伝説』と化しています。

読み終えた者の脳裏に焼きつくのは、謎が解かれた瞬間の「なるほど」ではなく、むしろ「まさか」という静かな絶句――。

そんな衝撃が、ページを閉じたあとも長く心に残ります。

物語の幕開けに置かれているのは、一人の画家が遺した常軌を逸した手記。この異様な文章は、作中に漂う陰鬱な空気を決定づけるものであり、まるで読者自身が呪術めいた迷宮に足を踏み入れてしまったかのような錯覚を与えます。

ところがこの手記こそが、物語全体を支配する巨大なトリックの精巧な伏線であり、読み進めるほどに、その構造の緻密さと計算された配置に戦慄することになるのです。

占星術や秘教的な言辞に彩られた冒頭は、確かに読みにくさを伴います。ですが、それは単なる難解さではなく、作品の核心を包み隠す濃密な霧でもあるのです。

霧を裂いて進む読書の先には、予想もし得なかった景色が待ち受けており、到達した読者に深い感嘆と畏怖をもたらします。

また、探偵・御手洗潔と語り手・石岡和己のコンビは、本作の緊張感に絶妙なバランスを与える存在です。御手洗は論理の極致を体現する人物であり、その天才性はまさに異形。

その一方で、石岡は常識人として読者の視点を担い、彼の存在があってこそ、この物語は地に足のついたものとなるのです。二人の掛け合いには、重苦しい事件に差し込む柔らかな光のようなユーモアがあり、それが作品に呼吸と奥行きをもたらしています。

けれども、『占星術殺人事件』は決してトリックだけの作品ではありません。四十年以上の時を経て明かされる真実には、人間の哀しみ、孤独、そしてどうしようもない「業」が静かに沈殿しているのです。

謎が解かれることで見えてくるのは、理性では到底割り切れない感情の澱。

その切実さが胸に迫り、物語は単なる知的ゲームを超えて、読者の魂を揺さぶる一篇の哀歌へと昇華されていきます。

こうしてこの作品は、技巧の粋と人間の深層とを共に描き出し、読み終えた後にもなお、言葉にできない余韻を残します。

まさに、星と血で綴られた現代ミステリーの金字塔――それが『占星術殺人事件』なのです。

2番目.『斜め屋敷の犯罪』

物語の舞台は、北海道宗谷岬の高台に異様な姿で建つ西洋館「流氷館」。その名の通り、館全体が意図的に斜めに傾けて建てられた奇妙な建築物である。

館の主である浜本幸三郎が主催するクリスマス・パーティの夜、最初の惨劇は起こる。招待客の一人が、密室状態の客室で死体となって発見されたのだ。外部からの侵入は不可能、犯人は館内にいる招待客か使用人の誰かに違いない。

そんな中、まるで嘲笑うかのように第二、第三の殺人が、いずれも不可解な密室状況下で発生する。

気味の悪い表情をした招かれざる男の目撃譚や、夜中に響く謎の吠え声、3階の窓から覗く人影など、怪現象も頻発し、館は恐怖と混乱に包まれる。

地元の警察官も捜査に加わるが、事件はますます混迷を深めていく。この連続密室殺人の謎を解き明かすべく、名探偵・御手洗潔が雪深い北の館へと乗り込むのであった。

傾いた館で繰り広げられる本格密室劇

斜めに建てられた屋敷で、真理だけがまっすぐに立っている――

そんな逆説的な構造美を体現したのが、島田荘司による『斜め屋敷の犯罪』です。

名探偵・御手洗潔の再登場作にして、本格ミステリーの醍醐味が隅々まで凝縮された、稀有な一冊であることは間違いありません。

舞台となるのは「流氷館」と名づけられた、極寒の地にひっそりと佇む奇怪な建築物。意図的に傾けられたその構造は、読者の視覚を揺さぶり、空間の感覚をかき乱します。

傾いた廊下、傾いたドア、傾いた心――。その不安定な重力の中で、人間の理性さえも次第に軋みを上げ始めるのです。

本作において特筆すべきは、やはり「密室」という概念に対する徹底した探求心です。

密閉された空間で次々と起こる殺人。しかもその密室は、単に鍵のかかった部屋というだけでなく、傾斜という特異な条件のもとに、より複雑で精緻なトリックとして構成されています。

読者は、いつしか地図を手に取り、図面と首っ引きになりながらページをめくることになるでしょう。その過程自体がすでに謎解きの一部であり、この物語は読者を「読む者」から「推理する者」へと変貌させる、仕掛けに満ちた知的遊戯でもあるのです。

加えて、閉ざされた空間に集う人物たちの心理の揺らぎにも目を向けるべきです。

疑念は音もなく広がり、友情も愛情も、やがて疑心という毒に侵されていきます。誰もが疑わしく、誰もが孤独。静かに降り積もる雪とともに、人間関係にも冷たい緊張が積み重なっていくのです。

御手洗潔が登場するのは物語の中盤以降。読者が迷路のような館と心理戦に翻弄されたのち、彼の登場によって物語は一気に加速しはじめます。

その推理は、まるで傾いた世界に置かれた水平器のように、全体の歪みを正し、事実を一点の狂いなく指し示します。

終盤、明かされる大胆かつ論理的なトリックは、まさに圧巻。驚愕と同時に、「そうだったのか」という得も言われぬ快感が訪れるのです。

トリックと構造美、登場人物の心理、そして推理の論理性が三位一体となった『斜め屋敷の犯罪』は、知性と感性の両面を刺激する珠玉のミステリーです。

ただ奇をてらっただけではない。

すべての異常性が必然へと転じる構成力の高さにこそ、本作の真価が宿っています。

「驚き」と「納得」という、ミステリーの二律背反ともいえる命題を、ここまで高い次元で両立させた作品はそう多くありません。

本格ミステリーの精髄を味わいたい方に、ぜひともおすすめする傑作です。

3番目.『御手洗潔の挨拶』

さて、ここで短編集をはさみましょう。

『御手洗潔の挨拶』は、名探偵・御手洗潔が挑む四つの事件を収録した、シリーズ初の短編集。各編で御手洗は、その天才的な推理力と奇抜な発想を遺憾なく発揮し、常人には思いもよらない方法で難事件を解決へと導く。

表題作とも言える「疾走する死者」では、嵐の夜、マンションの11階から姿を消した男が、わずか13分後に遠く離れた場所で走行中の電車に飛び込み死亡するという奇怪な事件が発生する。男の首には絞殺の痕跡があり、全力疾走しても不可能な移動距離の謎が警察を悩ませる。

「数字錠」では、ある少年が関わる事件を通じて、御手洗の意外な優しさや人間味あふれる一面が描かれる。その他、「紫電改研究保存会」ではユーモラスな詐欺事件の顛末が、「ギリシャの犬」では誘拐事件と犬を巡る謎が展開される。

いずれの事件も、奇想天外なトリックと鮮やかな解決が特徴であり、御手洗潔という探偵の多面的な魅力を存分に伝える内容となっている。

多彩なトリックと人間味に満ちた短編集

『御手洗潔の挨拶』は、長編とは異なる速度と光の角度から、名探偵・御手洗潔という存在を浮かび上がらせる珠玉の短編集です。

収録された四つの物語は、それぞれが独立した輝きを放ちながらも、どこかで御手洗という人物の輪郭を深く彫り出しています。

開幕を飾る「数字錠」は、まるで仄暗い水面に落ちた一滴の涙のような物語です。謎そのものの美しさはもちろんですが、その背後にひそむ切実な感情のうねりが読者の心を静かに揺らします。

御手洗の推理は冷徹な論理に基づきながらも、どこか人の痛みを知る者のまなざしを帯びており、彼の内奥にある繊細な優しさがにじみ出る一編となっています。

彼と石岡の“コーヒー事件”――シリーズのささやかな原点――が描かれている点でも、記念碑的な意味を持つ作品です。

続く「疾走する死者」は、島田ミステリの真骨頂とも言うべき、空間と時間の常識を覆す大胆な発想が炸裂します。

一室から忽然と姿を消した被害者が、あり得ないほど遠くで発見されるという不可能状況。まるで現実がひととき歪んだかのような設定に、御手洗は怯むことなく知性の剣を突き立てます。読者への挑戦状が添えられた構成は、謎解きという知的遊戯の快楽を存分に提供してくれるのです。

「紫電改研究保存会」は、他の作品と趣を異にし、どこか胡乱でとぼけた味わいを持つ一編です。風変わりな登場人物が持ち込む“奇妙な話”は、やがて現実の事件へと姿を変え、読者を思わず翻弄します。

軽妙な語り口の背後に張り巡らされた綿密な伏線、そして終盤の鮮やかな反転は、ミステリーにおける笑いと驚きの共存を見事に実現しています。

そして「ギリシャの犬」は、東京という都市そのものが一種の迷路と化す作品です。誘拐された子どもと、ある一匹の犬をめぐるこの物語は、都市地理をトリックに組み込んだ構造美とともに、御手洗の意外な一面――犬好きという可愛げある素顔――をそっと垣間見せてくれます。

冷静沈着な名探偵にも、心のやわらかい部分があるのだと教えてくれるこの一編は、彼の人間味を感じさせる小さな宝石のような存在です。

こうして『御手洗潔の挨拶』は、推理、驚き、哀しみ、ユーモア――御手洗潔の多面体を、短編という形式の中で自在に照射した一冊となっています。

事件のバリエーションもトリックの幅も見事でありながら、作品群のどれもが「人間の深部」にそっと触れている点に、作家・島田荘司の矜持が光ります。

シリーズの入門書として最良であると同時に、長年の読者にとっても、改めて御手洗という名探偵の深さを再確認できる、まさに“挨拶”の名にふさわしい短編集です。

4番目.『異邦の騎士』

昭和五十年代の東京。ある日、公園のベンチで目覚めた男は、自分の名前も過去も、一切の記憶を失っていた。

途方に暮れる彼に声をかけたのは、偶然通りかかった若い女性・良子であった。行くあてのない男は、彼女の優しさに導かれるように同棲生活を始める。

やがて、男は一枚の運転免許証から、自分の名前が「益子秀司」であること、そしてかつての住所を知る。

しかし、良子との穏やかで幸せな日々に安らぎを見出していた益子は、過去を取り戻すことに躊躇いを覚えていた。そんな中、益子は近所に住む風変わりな占星術師・御手洗潔と知り合い、親交を深めていく。

だが、ある時手にした一冊の日記帳が、彼の運命を大きく揺るがす。そこには、自分がかつて愛する妻子を死に追いやったのではないかという、戦慄すべき過去が記されていたのだ。

絶望と自己嫌悪に苛まれ、破滅へと向かう益子。果たして、彼に仕組まれた罠とは何なのか。

そして、御手洗潔は彼を救うことができるのであろうか。

若き御手洗潔の人間賛歌

『異邦の騎士』は、御手洗潔シリーズの中でもひときわ異彩を放つ作品として、多くの読者の胸に深く刻まれてきました。

舞台は、名探偵としての名声を得る以前、まだ青年であった御手洗の若き日々。

しかしこれは、探偵譚というより、むしろ記憶と愛と罪にまつわる、繊細で痛切な魂の物語です。

物語は、記憶を失ったひとりの男――益子の視点から紡がれていきます。自分が何者であるのかさえわからず、ただ一人漂うように生きていた彼のもとに、良子という女性が現れます。

運命のような偶然がもたらした出会いは、やがてふたりの間にほのかな温もりと愛情を育んでいきますが、その幸福の影には、かすかに冷たい風が吹き始めていました。

過去の断片が、少しずつ、しかし容赦なく蘇ってくるたびに、益子の胸にはある疑念が芽を吹きます。

もしかすると、自分は取り返しのつかない罪を犯したのではないか。愛する人を欺いているのではないか。

その恐怖に苛まれながら、彼は自らの正体と向き合わざるを得なくなっていきます。

この愛と罪悪感のあわいに漂う益子の内面は、驚くほど緻密に、そして痛ましいほど誠実に描かれており、読む者の心を深く揺さぶります。

彼の迷い、怯え、祈るような想い。その一つひとつが、読者の内側で静かに共鳴を起こすのです。

また、本作でもうひとつの魅力となっているのが、若き御手洗潔の存在です。まだ占星術師として生計を立てている彼は、後年の鋭利な天才探偵とは趣を異にし、どこか風変わりで飄々とした風情を纏っています。

それでいて、益子に向けるまなざしには、静かな優しさと深い思いやりが宿っており、彼の本質的な人間性を垣間見ることができるのです。

音楽を媒介として芽生えるふたりの友情もまた、作品にささやかな光を灯しています。絶望の淵に立つ益子に対して、御手洗が差し出す言葉と行動――そのすべてが、ただの推理役を超えた“人間”としての温かみを湛えており、多くの読者の記憶に残る場面となるでしょう。

やがて、益子が真実と向き合い、運命の扉を開こうとするその瞬間、御手洗は颯爽と登場し、絡み合った謎を鮮やかに解き明かします。

明かされる真相は衝撃に満ち、その余韻はしばし心を離れません。伏線の巧みさ、構成の見事さにも唸らされる一方で、物語全体に漂うのは、理では割り切れない人の情と哀しみです。

島田氏が「これはミステリーではない」と語った言葉には、確かな意味があります。

この作品は、謎を解くことだけに留まらず、人の心の奥深く――記憶の曖昧さや、許されたいという願い、そして愛のかたち――にまで踏み込んでいく、静謐で重厚な文学なのです。

シリーズの原点とも言える『占星術殺人事件』を読んでから本作に触れると、そこに隠された構造的な仕掛けと驚きがより鮮やかに浮かび上がってきます。

読了後、心には温かく、しかしどこか切ない余韻が残ります。

ミステリーファンのみならず、物語に宿る“ひと”の想いを感じ取りたい方に、そっと手渡したい一冊です。

5番目.『御手洗潔のダンス』

名探偵・御手洗潔が活躍する三つの事件と、彼と石岡和己の日常やファンとの交流を描いたエッセイ風の一編「近況報告」を収録した短編集。

「山高帽のイカロス」では、「人間は空を飛べる」と主張していた幻想画家が、アトリエから奇声と共に姿を消し、数日後、地上20メートルの電線上で空飛ぶポーズの死体となって発見されるという奇怪な事件を描く。

「ある騎士の物語」では、十五年前に起きた殺人事件の謎に挑む。当時、容疑者とされた女王とその取り巻きの男たちは、数十キロ離れた場所にいたという鉄壁のアリバイがあった。限られた時間の中で、いかにして犯行は可能だったのか。

「舞踏病」では、月70万円という破格の報酬と引き換えに自宅の二階に住まわせた老人が、夜な夜な一心不乱に踊り続けるという謎の行動の真相を探る。

各編で御手洗は、その卓越した推理力で不可解な謎を解き明かしていく。

空を舞い、踊り、語る、短編ミステリーの妙味

『御手洗潔のダンス』は、バラエティに富んだ三つのミステリーと、ファンには嬉しいエッセイ風の一編を楽しめる短編集です。

短編ならではの切れ味の良さと、長編とはまた違った御手洗潔の魅力に触れることができます。

「山高帽のイカロス」は、その冒頭の謎のインパクトが強烈です。「空を飛ぶ」と公言していた画家が、文字通り空中で死体となって発見されるという、まさに奇想天外な状況設定が読者の心を掴みます。

この非現実的な謎に対し、御手洗がどのような論理で真相に迫るのか、その推理過程は非常にスリリング。神秘的な現象を作り出す島田先生の手腕が光る一編です。

「ある騎士の物語」は、時間と距離の制約を扱ったアリバイトリックが中心となる作品です 。15年前の事件という過去の謎に、現代の視点から御手洗が挑みます。

トリック自体は大胆で、ある意味では「そんなことあり得るのか」と思わせるかもしれませんが、それこそが島田ミステリーの醍醐味。騎士道物語のような背景設定も、物語に独特の雰囲気を添えています。

「舞踏病」は、ホームズ作品を彷彿とさせるような、日常に潜む奇妙な謎を描いた作品です。高額な報酬と引き換えに同居を始めた老人が、夜な夜な踊り続けるという不気味な光景。

その背後に隠された意外な真相とは何なのでしょうか。御手洗と石岡のコミカルなやり取りも健在で、楽しく読み進めることができます。

そして「近況報告」は、御手洗潔というキャラクターや、彼と石岡君の関係性をより深く知ることができる、ファンサービス的な一編です。

御手洗が日本を離れた後の石岡君の様子や、熱狂的なファンとのエピソードなどがユーモラスに語られ、二人の絆を再確認できるものとなっています。  

全体を通して、各作品のトリックには捻りが効いており、読み応えも十分。

御手洗と石岡のコンビの魅力も存分に味わえ、シリーズがもっと好きになること請け合いの一冊です。

6番目.『暗闇坂の人喰いの木』

横浜の元町近くに存在する暗闇坂。その坂の途中に、樹齢二千年とも言われる巨大な楠が聳え立っている。

この大楠は古くから「人喰いの木」として地元の人々に恐れられており、過去にはこの木で処刑された罪人たちの泣き声が聞こえる、あるいは木が人を飲み込むといった不気味な噂や言い伝えが絶えなかった。

その曰く付きの大楠の傍らに建つ古い洋館には、どこか風変わりな一家が暮らしていた。

ある日、探偵・御手洗潔と助手の石岡和己のもとに一人の女性が訪れ、この「人喰いの木」にまつわる奇怪な事件の調査を依頼する。

やがて、大楠を巡る過去の惨劇と、洋館に住む一家の秘密が明らかになっていく。人々の狂気を掻き立てるとされる大楠の呪いなのか、それとも人間の仕業なのか。

御手洗は、この地に根付く暗い伝承と複雑に絡み合った事件の真相に迫るのであった。

闇にそびえる謎の大樹に潜む恐怖と論理

その名を聞いただけで、どこか背筋に冷たいものが走る。

『暗闇坂の人喰いの木』――この不穏な響きをもつ長編は、御手洗潔シリーズの中でもひときわ異様な存在感を放っています。

タイトルが醸し出す妖しい魅力は決して誇張ではなく、物語のすみずみにまで濃密に漂う“異質”の気配が、読者をじわじわと呑み込んでいくのです。

物語の中心にそびえ立つのは、樹齢二千年を超えるとされる大楠。その幹には幾重にも刻まれた言い伝えや伝承が絡みつき、人々の恐れと好奇心を飲み込みながら、ひっそりと存在し続けています。

“人を喰う木”――そんな非現実的な伝説が、果たして作り話にすぎないのか、それとも何かしらの真実を孕んでいるのか。読者は、信じたくない思いと抗いがたい魅力のあいだで、じっとその巨木を見上げることになります。

この作品の真価は、単なる怪奇譚や謎解きではありません。むしろ主題となっているのは、「人の心がいかにして恐怖に囚われ、常軌を逸していくのか」という、極めて心理的な探求です。大楠の存在は単なる“場所”ではなく、人間の内面に巣食う不安や執着を映し出す、鏡のような存在として描かれていきます。

過去の事件を語る回想は生々しく、まるで怪談を耳元で囁かれているような語り口が、物語にぞくりとした実在感を与えます。読んでいるうちに、読者自身の中にもわずかずつ、得体の知れない“何か”が芽吹いてくるかのようです。

とはいえ、物語の屋台骨を支えているのは、やはり論理と推理。御手洗潔の登場によって、一見すると超常現象としか思えなかった数々の不可解な出来事が、次第に明晰な言葉によって説明されていきます。

彼の洞察力は、狂気と幻想が渦巻くこの世界に一筋の光をもたらし、読者に知的な快感と深い安堵をもたらしてくれるのです。

特に物語の後半、御手洗が沈黙を破って真相を語り始める場面には、言葉にならない高揚があります。絡み合った謎が一つまた一つとほどけていくたびに、読者は理性が幻想を凌駕する歓びを味わうことになるのです。

本作は、決して軽やかに読める作品ではありません。その筆致は重厚で、登場人物たちの抱える闇もまた深い。

けれども、その陰影があるからこそ、浮かび上がってくる真実の輪郭には、独特の美しさと哀しさが宿っているのです。

伏線の回収も見事で、最後の一頁を閉じた後には、謎が解けた満足とともに、なぜか胸の奥にひんやりとした風が吹き抜けていくような、物悲しい余韻が残ります。

人の心に潜む“怖れ”というものに静かに触れてみたい方。

ただの事件の真相ではなく、その背後に広がる感情の闇まで見据えたい方にこそ、そっと手渡したい一冊です。

『暗闇坂の人喰いの木』は、読む者の深層をそっと揺さぶる、静かなる恐怖と理性の物語なのです。

7番目.『水晶のピラミッド』

アメリカのネバダ州に突如として出現した、エジプト・ギザの大ピラミッドを原寸大で再現したガラス製の巨大なピラミッド。

この「水晶のピラミッド」の傍らに建つ塔の最上階、地上30メートルの密室で、男が溺死体となって発見されるという不可解な事件が発生する。現場には冥府の使者アヌビス神を思わせる痕跡が残されており、事件はオカルトめいた様相を呈する。

この奇怪な事件の調査に乗り出したのは、ハリウッド女優となった松崎レオナであった。彼女は、かつて難事件を解決に導いた名探偵・御手洗潔に助けを求める。

物語は、現代のアメリカで起こる事件と並行して、古代エジプトのピラミッド建設の謎や、豪華客船タイタニック号沈没の悲劇といった、壮大なスケールの歴史的エピソードを織り交ぜながら展開していく。

果たして、水晶のピラミッドで起きた密室殺人の真相とは。そして、時空を超えて交錯する出来事の背後に隠された謎に、御手洗潔はいかにして迫るのであろうか。

歴史と謎が交錯する知の冒険

『水晶のピラミッド』は、御手洗潔シリーズの中でも、とりわけ異彩を放つ長編です。

その魅力は、一国一城の推理劇に留まらず、遥か太古の文明と現代の叡智をつなぎ合わせた、壮大な思索の旅路にあります。

物語は、アメリカに突如として姿を現した巨大な“ガラスのピラミッド”から始まります。その透明な異物が、砂漠の静寂を破り、読者の想像力にまっすぐ楔を打ち込んできます。

空中30メートルの密室で、人が「溺死する」という不可能犯罪――この驚愕の謎が提示された瞬間、読む者はもう物語の引力から逃れることができません。

だがこの作品の真骨頂は、奇抜な事件の構図だけではありません。古代エジプトの神秘や、タイタニック号沈没という歴史の闇が、物語の背景に静かに横たわり、現代の殺人事件と巧みに交錯していきます。

過去と現在、神話と科学、幻想と論理。そうした対立項が絶妙に織り合わさることで、本作は“ミステリー”というジャンルを越え、文明という名の記憶を巡る、荘厳な叙事詩へと昇華しているのです。

物語は決して急がず、しかし着実に、読者を深く遠くへと導いていきます。御手洗潔の登場は中盤以降と遅めですが、それまでのページを満たすのは、細密な描写と緊密な構成に彩られた、濃密な“前夜”のような時間です。

その一頁一頁に張りつめた静けさと高揚が共存し、読者の集中を決して途切れさせません。

もちろん、真相に迫る御手洗の推理も圧巻です。

島田荘司氏ならではのスケールの大きなトリックに加え、意外なほど繊細な伏線の数々が、思いがけない形で絡み合い、最終的に一つの美しい解へと収束していくさまは、まさに“解く”という行為の快楽そのもの。

力技に頼らず、あくまで知と理の中に答えを見出そうとするその姿勢には、深い知的敬意を覚えます。

さらに忘れてはならないのが、再登場を果たしたハリウッド女優・松崎レオナの存在です。

冷静沈着な御手洗と、情熱的なレオナの距離感は絶妙で、そこに割って入る石岡君の慌てぶりが、緊張に満ちた物語の合間に、心地よいユーモアと温もりを添えています。キャラクターたちの息づかいが伝わってくるようなやり取りは、本作の重厚な構造に、豊かな人間味を加えているのです。

読後、残るのは「謎を解いた」という単純な満足ではありません。

むしろ、解き明かされた謎の向こうに広がる、文明の記憶、人類の営為、そして過去に刻まれた哀しみと希望に、静かに思いを馳せる余韻です。

『水晶のピラミッド』は、ただの奇抜な推理小説ではありません。

これは、知と歴史と人間の尊厳が交錯する、重厚にして詩的な黙示録なのです。

8番目.『眩暈』

物語は、一人の青年が遺した異様な手記から始まる。その青年は『占星術殺人事件』を愛読書としており、彼の手記には、切断された男女の死体が合成され、両性具有の存在として蘇るという、常軌を逸した内容が綴られていた。

窓の外には世界の終末を思わせる荒涼とした風景が広がっているとも記されており、一読しただけでは精神異常者の妄想としか思えないものであった。

この手記は、薬害の影響で奇形児として生まれた大スターの息子・陶太によって書かれたものと判明する。名探偵・御手洗潔は、この手記に記された内容を単なる狂人の戯言として片付けず、そこに何らかの真実が隠されていると直感する。

彼は、この「頭がおかしくなりそうな手記」を手掛かりに、その背後に潜む驚くべき事件の真相究明に乗り出すのであった。

手記に記された恐るべき記述は何を意味するのか。そして、醜悪な現実世界で繰り広げられた事件の真相とは。

御手洗の推理が、常識を超えた謎を解き明かしていく。

二重・三重に折り畳まれたプロット――パズルの構造美

その物語に足を踏み入れた瞬間、世界がぐらりと傾く。

『眩暈』という一語が示すとおり、この作品は読者の感覚を静かに攪乱し、現実と幻想の境界を揺らがせる――そんな一冊です。

冒頭を飾るのは、異常な熱を孕んだひとつの手記。

まるで『占星術殺人事件』の亡霊がよみがえったかのような、グロテスクにして妖艶な文章が綴られていきます。血と性と死が入り混じったその言葉たちは、狂気の叫びであると同時に、詩のようにどこか美しく、読む者を不穏な深淵へと誘い込みます。

手記に記されたこの世界は、果たして真実なのか、それとも妄想なのか。この作品の最大の魅力は、その問いを決して一足飛びに答えさせないことにあります。

曖昧な現実、歪む視界。読者はページをめくるごとに、自らの常識と認識を問い直すことを強いられるのです。

御手洗潔が登場するのは、そうした混沌のただ中。手記に込められた異常性と詩的倒錯を、彼は論理の言葉でひとつずつ分解していきます。

現実と妄想の境目が溶け合うこの物語において、御手洗の推理はまるで冷たい泉の水のように、鋭く清冽で、意識を覚醒させる力を持っています。

手記が現実とつながり始めたとき、物語は第二の顔を見せはじめます。

もしあれが現実であるなら、いかにしてそれが可能だったのか?

その問いに対して島田荘司氏が提示する答えは、予想の遥か斜め上をゆく大胆さと独創に満ちており、読者の想像力に最後まで挑戦を突きつけてきます。

同時に、本作では御手洗の奇人ぶりも一層際立っています。「ズールー族の勝利の踊り」を披露するという突飛な行動に、思わず眉をひそめる読者もいるかもしれません。

しかし、その破天荒さがもたらす緩急の妙、そしてそれを冷静に受け止める石岡君との絶妙なコンビネーションは、このシリーズならではの魅力です。

さらに『占星術殺人事件』を読んでいれば、ある“深い繋がり”にも気づくことでしょう。

手記という形式を通じて描かれる狂気、そこに宿る思索の痕跡、そして読み手に委ねられる「真実」と「虚構」の境目。こうした要素が重なり合うことで、本作は単なるミステリーの枠を超え、人間の内奥へと鋭く切り込んでいくのです。

『眩暈』は、目に見える世界がすべてではないということを、静かに、しかし確かに告げてきます。

それはまるで、閉じた瞼の奥に浮かぶ幻影のように。

現実とは何か。真実とはどこにあるのか。

読者の思考と倫理観を揺さぶりながら、深く、長く記憶に残る一作です。

9番目.『アトポス』

虚栄と欲望が渦巻く都ハリウッドで、血で爛れた顔を持つ「怪物」が出没するという噂が広がる。

時を同じくして、著名なホラー作家が首を切断されるという猟奇的な殺人事件が発生し、さらには生まれたばかりの赤ん坊が次々と誘拐されるという不可解な事件が連続する。

一方、女優・松崎レオナは、主演映画『サロメ』の撮影のため、死海のほとりにある「塩の宮殿」に滞在していた。しかし、その撮影現場でもまた、ハリウッドでの事件を彷彿とさせるような惨劇が繰り返される。

甦る吸血鬼伝説の恐怖が、レオナと撮影クルーたちを襲う。前半では、史実にもとづくという身の毛もよだつ吸血鬼事件が詳細に語られ、それがレオナの運命にも影を落とそうとする。

これらの複雑に絡み合う事件の真相を解明すべく、名探偵・御手洗潔が立ち上がる。ハリウッドと死海、二つの場所で起こる怪事件に関連はあるのか。

そして、人々の心を惑わす「アトポス」の正体とは一体何なのであろうか。

“血の祭壇”に仕掛けられた迷宮――猟奇と論理のせめぎ合い

『アトポス』は、御手洗潔シリーズの中でも特に長大で、ホラー要素と歴史ミステリーが色濃く融合した野心作です。

物語はハリウッドでの猟奇事件と、死海での映画撮影中に起こる惨劇という、二つの舞台を股にかけて展開し、読者を壮大なスケールの謎へと誘います。

まず特筆すべきは、物語前半を大きく占める、エリザベート・バートリにまつわる吸血鬼伝説の描写です。

史実に基づくとされるこの部分は非常に詳細かつ克明に描かれており、そのおどろおどろしさは強烈なインパクトを与えます。この過去の恐怖が現代の事件とどのように繋がっていくのか、読者は息をのんで見守ることになるのです。

本作は、「アトポス=場違いなもの、奇異なもの」というタイトルが示す通り、常識では捉えきれない不可解な現象や存在が次々と登場します。

科学が発達した現代においても、古代や中世の伝説が新たな姿で現れるというテーマ性が作品全体を貫いています。御手洗潔が、これらのオカルトめいた事件の背後に潜む論理的な真相をどのように暴き出すのか、その推理過程が見どころです。

トリックに関しては、ミニチュアのセットで遊んでいるかのような、非常に大胆でユニークなものが提示されます。その奇抜さゆえに賛否が分かれるかもしれませんが、このバカバカしいほどのスケール感こそが御手洗シリーズの大きな魅力なのです。

物語のボリュームは相当なものですが 、吸血鬼伝説、魔都上海の描写、そして複雑な殺人事件と、盛りだくさんの内容で読者を飽きさせません。

御手洗の登場は比較的遅めですが、登場後はいつものように鮮やかに事件を解決へと導きます。

ホラーとミステリーが融合した、濃密な読書体験を求める方におすすめの一作です。

10番目.『御手洗潔のメロディ』

名探偵・御手洗潔の過去と現在を繋ぐ四つの傑作短編を収録した作品集。各編を通じて、御手洗の天才的な推理力、奇人ぶり、そして人間的な側面が多角的に描かれる。

「IgE」では、何度も不可解な方法で壊されるレストランの便器の謎と、高名な声楽家が探し求める謎の美女の行方という、一見無関係な二つの出来事が、御手洗の介入によって意外な繋がりを見せ始める。

「SIVAD SELIM」では、石岡和己が外国人障害者のためのクリスマスコンサートで挨拶を頼まれ、御手洗にギター演奏を依頼するエピソードが描かれる。ミステリー要素は薄いが、二人の温かい関係性が垣間見える一編だ。

「ボストン幽霊絵画事件」では、御手洗がアメリカの大学に在籍していた頃に遭遇した、自動車工場の看板の一文字だけが執拗に狙撃されるという奇妙な事件と、芸術家失踪の謎に挑む姿が描かれる。

そして「さらば遠い輝き」では、御手洗に想いを寄せていた女優レオナの視点から、彼の近況や過去が語られる。

天才探偵の意外な日常――御手洗潔というキャラクターの奥行き

『御手洗潔のメロディ』は、四つの趣の異なる物語を通じて、名探偵・御手洗潔の多面的な魅力を堪能できる短編集です。

ミステリーとしての謎解きだけでなく、御手洗の人間性や過去、そして彼を取り巻く人々との関係性に光を当てた作品群となっています。これはもう、ファンにはたまりません。

「IgE」は、日常に潜む些細な謎が、やがて大きな事件へと繋がっていく様が見事な一編です。レストランの便器が繰り返し壊されるというユーモラスな導入から、声楽家と謎の美女を巡るミステリアスな展開へと物語は進みます。御手洗が、まるで未来を予見していたかのように事件の核心を突く場面は、彼の天才ぶりを改めて感じさせてくれます。

「SIVAD SELIM」は、本格的なミステリーというよりは、御手洗と石岡君の心温まるエピソードが中心です。クリスマスコンサートを舞台に繰り広げられる二人のやり取りは微笑ましく、読者の心を和ませてくれます。石岡君の「鯖の味噌煮は諦めてもらおう」といったセリフにクスリとさせられる、ファンには嬉しい一編です。

「ボストン幽霊絵画事件」では、若き日の御手洗がアメリカで遭遇した事件が描かれます。看板の一文字だけが狙撃されるという奇妙な謎から、芸術家の失踪事件へと繋がっていく展開は興味深く、御手洗の初期の推理スタイルを垣間見ることができます。異国の地での活躍は、彼の行動力と洞察力の鋭さを示しています。

「さらば遠い輝き」は、女優レオナの視点を通して、御手洗潔という人物がより深く掘り下げられる物語です。ミステリー要素はありませんが、御手洗の知られざる一面や、彼と石岡君との絆について触れられており、シリーズを読んできたファンにとっては感慨深いものとなっています。

この短編集は、バラエティに富んだ内容で、御手洗潔というキャラクターを様々な角度から楽しむことができます。

トリックありきの作品だけでなく、人間ドラマやキャラクターの魅力に焦点を当てた作品も含まれており、御手洗潔シリーズの奥深さを再認識させてくれる一冊です。

まずはここまで!

まだ御手洗潔シリーズをあまり読んだことがないなら、ここまでを一区切りとして一気に読んでしまいましょう。

もちろん順番にです。

これ以降も面白い作品はあるのですが、ここまで紹介した作品は、ずば抜けて傑作と言えるものばかりです。

まずは最低限ここまでを読んでから取り掛かりましょう。

では、次以降の作品を簡単にご紹介していきます。

12.『龍臥亭事件』

実は『御手洗潔のメロディ』より前に発表された作品なのですが、先にメロディを読んだ方が良いです。

『龍臥亭事件』では石岡君がメインであり、御手洗は電話のみでの登場。

13.『Pの密室』

御手洗潔がまだ幼稚園児だったときの『鈴蘭事件』と、小学二年生のときの事件『Pの密室』の二編が収録。

子供の頃から天才すぎて笑います。

14.『最後のディナー』

『里美上京』『大根奇聞』『最後のディナー』の3編が収録。

『龍臥亭事件』で出会った犬坊里美が上京してきて石岡君と再会する。このコンビが面白い。

どれもほのぼのしてるけど名作揃い。

15.『ハリウッド・サーティフィケイト』

御手洗潔シリーズに登場する女優レオナが猟奇的殺人に挑む。

御手洗は電話のみの登場ですが、出番が短いからこそ愛おしく思える。

超ハードな事件にグイグイ行っちゃうレオナの魅力がすごい。読めば一発でファンになっちゃうくらい。

16.『ロシア幽霊軍艦事件』

御手洗潔シリーズらしいおどろおどろしさはなし。

ある幽霊軍艦の謎を紐解く壮大な歴史ミステリー。

殺人は起きないのにめちゃくちゃ面白い。

御手洗の天才っぷりがまたよくわかるし、何より物語がいい。

17.『セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴』

『占星術殺人事件」』から間もない頃の御手洗&石岡君の物語。懐かしさを感じる。

御手洗の優しさが光る。クリスマスの時期に読むとなお良い。

18.『魔神の遊戯』

ここにきて、がっつりの、御手洗潔らしい惨忍な事件。

スコットランド、ネス湖畔の村で起こる連続バラバラ殺人。舞台も謎も魅力ありすぎ。

そしてアレをやってくれる。最高。ぜひ読んで味わってほしい。ネタバレに気をつけましょう。

19.『ネジ式ザゼツキー』

実は超名作。

記憶に障害を持つ男エゴン書いた物語を読み、御手洗潔が隠された謎を解いていく安楽椅子探偵もの。

絡み合いすぎてワケがわからなくなった謎を解いていくときの爽快感、開放感、うひゃー!って感じ。

ああ、島田荘司さんって天才なんだな、って改めて実感する。

20.『上高地の切り裂きジャック』

『上高地の切り裂きジャック』と『山手の幽霊』の二編が収録。

アクロバットトリック炸裂。

御手洗&石岡コンビのやりとりを見ているだけで楽しい。

21.『龍臥亭幻想』

『龍臥亭事件』の続編。あの八年後、関係者が集まりまた事件が起きる。

なので石岡君が主人公。皆の成長ぶりが伺えて良きかな。

当然トリックが面白い。あっぱれ。

22.『摩天楼の怪人』

御手洗がまだ若かりし頃の事件。

ニューヨーク・マンハッタンにある超高層ビルという密室での事件。どう考えても不可能な謎の数々をキレイに解決していく。芸術のよう。

トリックなんてどうでもよくなるくらい、摩天楼と怪人の世界観が素敵。でもやっぱりトリックすごい。

文庫で720ページをあっという間に読み終わらせちゃう引き込み感。これぞ島田荘司さん。

23.『最後の一球』

とにかくハートフル。

一人の天才打者と、二流のまま生涯を遂げた投手のアツい物語。

御手洗の活躍や謎解きを期待して読むものではなく、一つの濃厚な小説として読むべし。

ミステリ小説であることを忘れさせる面白さ。

24.『溺れる人魚』

短編集。

人魚繋がりな『溺れる人魚』『人魚兵器』『耳の光る児』『海と毒薬』の四編。

面白いけれど、初期と比べるとなんか御手洗潔シリーズっぽくないかな。でも、これも島田ワールドの一部なのだあ。

25.『UFO大通り』

「馬車道時代」の話。『UFO大通り』『傘を折る女』の中編二編。

やっぱりこの頃の二人が最高にイキイキしてる。ファンにはたまらない一冊。

特に『傘を折る女』が面白い。

26.『犬坊里美の冒険』

タイトルの通り、御手洗シリーズに登場する犬坊里美が主人公の話。

御手洗潔なら秒速で解決しそうな謎だけど、そんな天才ではない犬坊里美が奮闘する姿が良いのだよ。

油断してたら伏線が見事すぎて驚いた。

27.『リベルタスの寓話』

『リベルタスの寓話』と『クロアチア人の手』の二編が収録。

本気で意味がわからない謎を御手洗が解く。なんだこれ。

『クロアチア人の手』は「んなアホな!!」と叫びたい人は読むことを推奨します。

28.『御手洗潔と進々堂珈琲』

若き頃の御手洗が、旅で出会ったエピソードを淡々と語っていく短編集。

ミステリーではなく、御手洗潔という人物の物語。私は大好きな作品。

29.『星籠の海』

映画化もした有名な作品。

御手洗役の玉木宏さんがイケメンすぎてひっくり返った。

いや、確かに私のイメージする御手洗もカッコイイんですけど、あれは流石にカッコよすぎた。

30.『屋上』

『屋上の道化たち』が加筆&改題されて『屋上』となりました。

これから読むのであれば、『屋上』の方にしましょう。

自殺する気が全くない人が、その屋上に登ると飛び降り自殺してしまう、という呪いのような謎に御手洗が挑む。

スーパートンデモトリックです。笑うしかない。

「まあ御手洗潔シリーズのトンデモトリックには慣れてきたかな」と思ったらこれですよ。

評価が別れるみたいだけど、私は好き。

31.『御手洗潔の追憶』

これまでの御手洗潔シリーズを読んできた人しか楽しめない、完全なるファンブック。

御手洗潔データベース書、的なもの。

32.『鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース』

クリスマスに起きた密室事件の謎に御手洗潔が挑む。

初期の島田作品ほどではないですが、大掛かりなトリックは面白い。

というか今作はトリックよりも人間ドラマに重点をおいた作品ですかね。純粋に良い作品でした。好き。

おわりに。

以上が御手洗潔シリーズの読む順番です。

最初にも述べましたが、『占星術殺人事件』から『御手洗潔のメロディ』までが特にオススメなので、これを一区切りとして順番に読みましょう。

この後も面白い作品は多くあるので、そこまで読んで「御手洗シリーズ面白いな」と思っていただけたならそのままどんどん読んでください。

長くなりましたが、読んでいただいてありがとうございました。

さらに一言。

御手洗潔という人物は、実写化されたり漫画になったり、いろんな顔を持っているんですが、わたし的には『名探偵傑作短篇集 御手洗潔篇 (講談社文庫)』の表紙の御手洗と石岡くんが一番イメージに近いんですよねえ。

この表紙絵、たまりません。

ただし、正直この『名探偵傑作短篇集 御手洗潔篇』を読むのであれば、『御手洗潔の挨拶 (講談社文庫)』『御手洗潔のダンス (講談社文庫)』『御手洗潔のメロディ (講談社文庫)』をそれぞれ読んだ方が良いです。

そして、もう一言。

1988年に発表された『切り裂きジャック・百年の孤独 (文春文庫)』は、御手洗潔シリーズとは言われていないものの、実は隠れ御手洗シリーズ。

御手洗好きならぜひ読んでみましょう。

とはいえ、まずは『占星術殺人事件(講談社文庫)』から。

さあ、御手洗ワールドを堪能しましょう!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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