尾八原ジュージ『みんなこわい話が大すき』- 押し入れに潜んでいたのは友達?怪異?それとも……

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小学4年生のひかりは、両親の離婚後に母親と市営住宅に引っ越し、転校した。

新しい小学校ではクラスに馴染めず、机をひっくり返されたり、ロッカーの中身をぶちまけられたりと、いじめられてしまう。

母親はかばってくれず、むしろ周囲と仲良くできないことを責めてくる始末。

辛い毎日を過ごすひかりにとって、唯一の心の拠り所は、押し入れにいる「ナイナイ」だった。

ナイナイは形がなく、声もなく、黒い影のような存在。

ひかりは寂しさを埋めるために、毎日押し入れでナイナイに話しかけていた。

そんなひかりの日々が、いじめっ子のありさとナイナイを会わせたことをきっかけに、大きく変わる。

なぜかありさの態度が急に友好的になり、クラスメイトたちも仲良くしてくれるようになったのだ。

いつも不機嫌だった母親も、不気味なまでに優しい。

そしてナイナイは、押し入れからいなくなってしまった。

この時のひかりは、まだ気づいていなかった。

ナイナイが、恐るべき強大な呪いに関わっていることを―。

目次

ある日突然みんなが優しくなった……

『みんなこわい話が大すき』は、ひかりの家の押し入れにいる謎の存在「ナイナイ」を中心とした、ホラー小説です。

タイトルだけ見るとライトな感じですが、実際は様々な人間関係が絡み合っており、なかなかにダークで複雑。

読めば読むほど不安が増していくような、ジワジワ来る系の恐怖を楽しめます。

まず序盤の展開からして、不気味で不穏です。

いじめっ子だったはずのありさが、妙にフレンドリーになってベタベタしてくるし、クラスメイトもひかりを急にちやほやしてきて、お姫様扱い。

情緒不安定でヒステリックだった母親もやけに優しくなるし、浮気して妻子を捨てた父親まで戻って来てニコニコ。

全ての変化は、押し入れのナイナイをありさに会わせた時から始まります。

突然の幸せな日々に喜ぶべきかもしれないけれど、ここまでガラッと変わると逆に怖い!

裏に、いかにも良からぬことが隠されていそうですものね。

ナイナイが関係しているようですが、ひかりにはわかりません。

読者にもこの段階では何もわからないので、怖さは募る一方です。

ナイナイの正体が明らかになっていくのは、霊能者・志朗のパートに入ってから。

志朗は雪のように白い長髪をした全盲の青年で、「よみごのシロさん」と呼ばれ、厄落とし専門の霊能者として活躍しています。

ある日、親子心中についての依頼が来るのですが、志朗はなんと話をロクに聞かずに、「これ、ボクには無理です」とスッパリ拒否してしまいます。

そのくらい手強く、恐ろしい案件ということですね。

そしてこの案件が、どうもナイナイに深く関わっているようなのです……!

予想外のところとナイナイが繋がり、読者はますます目が離せなくなります。

「影」を通して繋がる物語

志朗が拒否した案件は、「親子心中した姉の、死の真相を知りたい」というものです。

依頼主の姉は、後妻として嫁いだ先で正体不明の「影」に怯えていました。

「誰もいないはずのリビングに、子供みたいな、影みたいな、何かがいる」とのこと。

そしてある日、子供と一緒に電車に飛び込んでしまいます。

依頼主はこの「影」を「離婚した前妻の呪い」と考えており、「姉は呪いによって自殺させられたのでは」と疑っています。

そこで志朗に、真相を確認してほしいと依頼してきたのです。

志朗は最初こそ「手に負えないから」と断りましたが、なんだかんだと関わることになってしまいます。

「影」といえば、ひかりの押し入れにもいましたね。そう、あの「ナイナイ」です。

そして離婚と言えば、ひかりの母親も離婚していましたよね、妻子を捨てて出て行ったはずの父親は、なぜかある日戻ってきて妻子にベッタリ。

またひかりの母親は、過去に事故で左手を失ったのですが、志朗もかつて視力を失った身です。

このように、ひかりのパートと志朗のパートとは、あちこちに符合する箇所が見られます。

こうして物語は、散りばめられた様々なパーツを繋ぎ合わせながら、どんどん大きく深くなっていきます。

終盤には、母親の左手の謎、志朗の目のこと、親子心中の真相など、全てが明らかになります。

想像以上にドロドロとしており、あまりのヤバさに寒気を覚えるほど!

特にナイナイの正体が衝撃的で、きっといろんな意味で、感情を大きく揺さぶられることになると思います。

バトルも楽しめるヒトコワ系ホラー

『みんなこわい話が大すき』は、作者の尾八原ジュージさんが小説投稿サイト「カクヨム」で連載していた作品です。

第8回カクヨムWeb小説コンテストのホラー部門で大賞を受賞し、一冊の書籍としてめでたく刊行となりました。

ホラー小説ですが、どちらかというとヒトコワ系であり、オカルト系やスプラッター系が苦手な方でも読みやすいですよ。

また、後半では志朗が怪異と対峙するのですが、展開が派手で熱気に満ちており、さながらバトル小説!

テンションアゲアゲで一気読みできそうな面白さです。

そして志朗のキャラクター性がまた良くて、志朗は白髪に全盲という身体的なハンデを持っていながらも、飄々とした掴みどころのない、ユニークな性格をしています。

シリアスなシーンでも、彼のちょっとした一言が面白くて、クスッとしてしまうことが多々。

でも自由な感じなのに、どこか愁いもあって、そのギャップがたまらなくイイ!

さらに志朗のボディガード・黒木もいいキャラクターで、めちゃめちゃ屈強で逞しいのに、志朗に振り回されながら

ロオロと世話を焼くところが尊くて……(笑)

このシロクロコンビもまた、『みんなこわい話が大すき』の大きな見どころのひとつ。

ビクビクと読みながらも、時にワクワク、時にニマニマできる、魅力の多い作品です。

物語の深さもキャラクターの個性も、きっと楽しめますので、ぜひ読んでみてください!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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