五条紀夫『クローズドサスペンスヘブン』- 生前の記憶を探る、天国からの謎解きミステリー

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気が付いたら、太陽がギラギラ照り付けるリゾートビーチにいた。

ここは、どこだろう。そして、俺は誰だろう?

記憶がなかった。名前も思い出せない。

ただひとつ覚えているのは、誰かに首を斬られて死んだ時の生々しい感触。

そう、俺は確かに殺されたのだ。

だとすると一体なぜ、こうしてここにいるのだろうか。

歩いていくと洋館があり、呼び鈴を鳴らすと中年太りの男が出迎えてくれた。

どうやらここは天国で、俺を含めた6名が来ているらしかった。

奇妙なことに、6人とも現世で何者かに惨殺されており、それ以外の記憶を全て失っていた。

俺たちは一体誰に何の目的で殺されて、天国に迷い込んだのだろうか。

記憶を取り戻せば、成仏できるのだろうか―。

全員が既に死んでいるという、前代未聞のクローズドサークル系ミステリーが今始まる!

目次

全員が既に死んでいる特殊設定

クローズドサークル系ミステリーには絶海の孤島や雪山の別荘など様々なパターンがありますが、『クローズドサスペンスヘブン』の舞台はなんと天国!

しかも主人公を含め主要人物たちは皆死んでいるという、未だかつてお目にかかったことのないぶっとんだ設定となっています。

いやー、この出だしからしてビックリですよね。

気が付けば自分は既に死んで天国にいて、誰かに殺されたようだけど記憶がなくて、同じ境遇の人物が自分を含めて6名もいるとか。

わけのわからないスタートで困惑しますが、そこが面白いのですよ。

完全に五里霧中の状況なので、登場人物たちは警戒しながら懸命に探ったり考え込んだりするのですが、それは読者も同じ。

何かヒントが欲しくて必死に読み進めていき、気が付けば物語にどっぷりとハマりこんでいます。

そしてこれまた面白いことに、実に良いタイミングでヒントが小出しにされます。

毎朝6時に、どこからともなく新聞が届くのですが、なんとそこに事件の概要が記事として書かれているのです。

これにより、まずはこのリゾート地の洋館が6名の死亡現場であることがわかります。

加えて、この中に殺人犯がいるかもしれないことも!

新聞が届くたびに新しい情報が手に入るので、これはヒントとしてかなり便利ですね。

新聞だけでなく様々な道具も希望次第で使用できるので、この点もすごく便利。

さらに登場人物たちは一生懸命思い出そうとすることで、殺された時のことをフラッシュバック的に体験できます。

記事でも道具でもない「自分の体験」ですから、これもヒントとしてかなり大きいです。

生前は別の姿だった?

さて登場人物たちは、こういった情報や記憶から、調査と推理とを進めていきます。

その目標は、自分たちの死の謎を解くこと。

もしも真相がわかったら、スッキリ納得した上でこのわけのわからない世界から解放される、かもしれません。

それは言い換えると、「成仏できるかもしれない」ということ。

クローズドサークル物では主人公の目標が「謎を解いて、生き残って家に帰ること」となっていることが多いですが、『クローズドサスペンスヘブン』では「謎を解いて、きっちり死んで成仏すること」なのですね。

このあたりも斬新で面白いですね!

もちろん真相はすぐには明かされず、ミスリードもガッツリとあるので、かなり惑わされます。

その最たるものが見た目で、登場人物の天国での姿は、生前での姿と同じとは限らないのです。

彼らは見た目から、それぞれヒゲオ、ヤクザ、コック、メイド、ポーチ、オジョウの名で呼ばれるのですが、生前は全く違う姿だった可能性があります。

というのも、天国では生前に抱いていた思いが見た目に反映されることがあるのです。

つまり天国でコックやメイドの姿をしているからといって、生前もその職業に就いていたとは言えないし、年齢や性別さえも見た目からは判断できないわけです。

これにはかなり騙されますし、ラスト近くで真相がわかった時には激しくビックリさせられます。

物語のスタートラインから驚きの連続でしたが、最後の最後までやられましたね。

予測できないことがミステリーの醍醐味だとしたら、『クローズドサスペンスヘブン』はそれがたっぷりと詰まった最高級品と言えます!

発売直後に重版が決定した超話題作

『クローズドサスペンスヘブン』は、作家・五条紀夫さんのデビュー作であり、第9回新潮ミステリー大賞の最終候補作です。

惜しくも受賞は逃したものの、圧倒的な面白さから審査員のお墨付きをもらい、めでたく文庫化が決定。

巷での評判も上々で、発売されるや否やいきなり重版が決定したという、異例中の異例と言うべき作品なのです。

確かに発想のぶっ飛び方といい、読者を手の平で転がすようなミスリードといい、めいいっぱい楽しませてくれる作品です。

何より読んでいてとても気持ちが良く、読後感も爽やかなところが良いです。

死後の世界の物語でありながら全く辛気臭くなく、むしろ明るいノリですし、ユーモラスな展開も多々あります。

序盤こそ、登場人物は記憶がない分お互いに警戒したり戦々恐々とした雰囲気になったりもするのですが、徐々に打ち解けていき、気心の知れた仲になります。

この和やかな関係性がなんとも心地よく、全員が既に死んでいるという事実をうっかり忘れてしまうくらいです。

だからこそ、生前に何があったのかが明かされた時には愕然としましたね。

天国ではこんなにも仲良くなれたのに、生きていた時にはあんな悲劇があったなんて……。

彼らの生前に起こった出来事、そして既に死んでいる彼らがどのような結末を迎えるのか、気になる方はぜひ読んでみてください!

新しいタイプのクローズドサークル物に、ワクワクドキドキが止まらない読書タイムを過ごすことができるでしょう。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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