米澤穂信『可燃物』- 疎まれながらも捜査能力は抜群!葛警部の鮮やかな活躍を描いた短編集

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群馬県警捜査第一課の葛(かつら)警部は、ぶっきらぼうで口数が少なく、上司からも部下からも慕われてはいないが捜査能力の高さで一目置かれている。

今回も葛警部は、数々の難事件に挑む。

スキー中に遭難した男が、なぜか崖下で刺殺体となって発見された事件。

強盗傷害の容疑者が信号無視をしたという目撃情報が、不自然に集まってくる事件。

遺体がバラバラに切断され、各部位が妙に目立つ場所に遺棄された事件。

などなど計5つの不可解な事件を、葛警部が鋭い洞察力を駆使して解決へと導く。

ミスリードあり、どんでん返しありで、「How」と「Why」をとことん追及する本格謎解き警察小説シリーズ第一弾!

目次

抜群の推理力で一人で解決する警部

『可燃物』は、群馬県警の葛警部が様々な事件を捜査し、解決していく様子を描いた連作短編集です。

警察小説ではありますが、葛警部がとにかく頭脳明晰で、快刀乱麻の推理でスッパリスッキリ見事に解決していくため、探偵小説っぽい雰囲気となっています。

また葛警部の人柄も、警察というより探偵に近くて、人と慣れ合わない一匹狼タイプです。

というのも葛警部は寡黙で、事件や推理について部下や上司に必要最低限しか話さないのですよ。

で、黙っている間に一人で素早く冷静に考えて、ズバズバッと解決しちゃいます。

部下や上司にしてみれば、自分たちが全然活躍できないので面白くないのだけれど、でも葛警部の能力の高さは認めるざるを得ないし、慕ってはいないけれど頼りにはしている感じです。

当の本人葛警部は、周囲のそんな気持ちを全く意に介することなく(こういうところも名探偵っぽい)、日々黙々とロジカルな思考を展開します。

そんな葛警部が本書『可燃物』で挑むのは、計5つの事件。

どれも比較的小ぢんまりとした事件でありながら、「何か変だぞ?」と引っ掛かりを覚える部分があって、一筋縄ではいかなそう。

それを葛警部がキレッキレの推理でスピーディに解決させていくので、読み手は爽快感たっぷりに味わえます。

各話のあらすじと見どころ

『崖の下』

スキー中に4名の男女が遭難し、うち2名が崖の下で発見されました。

片方は重症で、もう片方は既に亡くなっていたのですが、奇妙な点があり、なんと刺殺されていた上、凶器がどこにも見当たらないのです。

犯人は、遭難して崖下に落ちた人間を、どんな理由で、どんな方法で殺したのでしょうか?

犯人の正体はすぐに明らかになるので、殺しの手段を追うことがポイントですね。

葛警部の鮮やかな推理と衝撃的なオチによって、このシリーズの雰囲気を掴めますから、第一話に相応しい物語と言えます。

『ねむけ』

強盗傷害事件の容疑者とされている人物が、交通事故を起こしました。

目撃者たちによると、原因は容疑者の信号無視だったようで、警察はこれ幸いにと容疑者を別件逮捕して取り調べようとします。

でも葛警部は、目撃者たちの不自然な証言が気になって―。

これまた犯人が割れている状態からの推理であり、焦点となるのは目撃者たちのミッシングリンク(見えない共通点)です。

葛警部の、重箱の隅をほじくるような徹底的な追及が見どころ!

『命の恩』

バラバラ殺人の遺体が、わざわざ行楽地の、観光客の目につく場所に置かれていました。

犯人は一体誰で、なぜこんなことをしたのでしょうか?

これもやはり犯人の正体は早々にわかるのですが、動機がなかなか見えてこず悩まされます。

人間模様がしっかり描かれていて、人が心の奥に抱え込んでいる闇にゾッとさせられる物語です。

『可燃物』

住宅街で連続して火災が発生します。

どうやら可燃ゴミに火をつけて回る放火事件らしいということで、葛警部の班が捜査を始めます。

ところがその矢先、あれだけ続いていた火災が突然ピタリと止まり―。

さすが表題作、謎が多いし捜査はハラハラドキドキだし、犯人と対峙するクライマックスは目の離せない面白さ!

深く考えさせられるラストも秀逸です。

『本物か』

レストランで、注文したのとは別の料理を出されたことに腹を立てた男が、店員を人質に立てこもります。

突発的に起こった事件のはずなのに、犯人はなぜか始めから用意していたかのように拳銃を持っており、葛警部は不審に思います。

あの拳銃、果たして本物だろうか―?

終盤のどんでん返しが面白い!

伏線回収もスマートですし、葛警部の冷静かつ迅速な推理も見事で、最後を飾るに相応しい一作です。

解けそうで解けない謎解きを楽しめる

警察小説でありながら、組織的な捜査で犯人を割り出すのではなく葛警部の推理力で事件を解決していくという、謎解き小説的な趣の強い作品でした。

特にハウダニットやホワイダニットに重きが置かれており、犯行の手順および動機をとことん探っていく様子が論理的に描かれているところが特徴です。

少しずつヒントが出されるので、よく考えながら読めば真相を言い当てることができそうな感じがするのですが、これがなかなか難しい!

物語が終盤に近付いてくるにつれて、自分の推理に穴があったを思い知らされるのですよね。

だからこそ、何ひとつ見落とすことなくズバッと真相を暴く葛警部に「すごい!」と素直に脱帽できるのです。

とにかくこの作品、行間に巧妙にヒントが隠されているので、全て見つけ出すためには、油断せずに丁寧に読み込むことが必要となります。

隠されたヒントを徹底的に探そうとしているうちに、一文字も読み飛ばさない全身全霊の読書習慣が身につきそうですね笑。

でもそこが魅力というか、解けそうで解かせてもらえない絶妙な感覚が後を引き、読めば読むほど面白さにハマっていきます。

全体的にドライな雰囲気なので、感傷に浸ることなく淡々と謎解きを楽しめるところも良き。

推理が好きな方におすすめですので、ぜひ読んでみてください!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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