平山夢明おすすめ小説10選 -「二度と読みたくない」と言いながらハマる。これは、小説という名の拷問だ

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平山夢明(ひらやま ゆめあき)の小説を読んだことがある人なら、きっと一度は思ったことがあるだろう――「なんでこんなものを書けるんだろう?」と。

グロテスクで、残酷で、容赦がなくて、それなのにどこか笑ってしまう。あるいは、心の奥にひっそりと置き去りにしていた痛みを、ぐいっと引きずり出される。

彼の作品は、ただ怖いだけじゃない。人間のどうしようもなさや、世界の理不尽さをまっすぐに突きつけてくる。でもそれは、読者を突き放すためじゃなくて、「それでもお前は読み続けるのか?」と語りかけてくるような優しさでもある。むろん、めちゃくちゃ黒いけど。

短編では、読んでるうちに笑ってるのか震えてるのかわからなくなる〈悪意のカーニバル〉が待っているし、長編になると一転、驚くほど繊細で美しい読後感を残してくることもある。

猟奇、ホラー、社会批判、そして涙まで――これ全部、平山夢明という作家のなかに同居している。

今回は、そんな彼の魅力がぎゅっと詰まったおすすめ小説10作品をピックアップした。

怖い話が好きな人にも、エグいけど心に残る物語を求めている人にも、平山作品は間違いなく刺さる。

でも、胃がキリキリする覚悟だけは、しておいてくださいね。

目次

1.狂気は地図に記されていた―― 『独白するユニバーサル横メルカトル』

平山夢明の傑作短編集は多くあるが、どれか一冊だけ選ぶならコレをおすすめする。

表題作『独白するユニバーサル横メルカトル』は、タクシー運転手の相棒として長年使われてきた道路地図帳が、突然語りだすところから始まる。語るのは、道路でも観光名所でもなく、主人とその息子が辿ってきたおぞましい殺人の記録。

それを無感情なトーンで、ただのランドマークのように淡々と語るから、逆に怖い。ゾッとするくらい冷たいんだけど、なぜか目が離せない。

この短編集は、いわゆる「グロいけど面白い」なんて軽く言い切れない。たとえば『無垢の祈り』では、家庭内暴力に苦しむ少女が連続殺人鬼に救われる。言ってることはめちゃくちゃだけど、読んでるとその関係が切実に感じられてしまう。

平山夢明は、残酷の中にある静かな美しさを描くのが本当にうまい。文章も意外なくらい上品で、血や痛みの描写ですら詩のように読めてしまう。

もちろん、出てくるテーマは地獄のフルコース。カニバリズム、拷問、異常性愛、サイコパス…。でもどれもただの衝撃映像じゃない。むしろそこに通ってるのは、人間の孤独とか、救われなさとか、誰も見てくれない絶望みたいなものだ。読者の精神をどこまでも深いところまで引きずっていくけど、その先に、なぜか妙な透明感がある。

一見、悪趣味なだけに思えるかもしれない。でも読み終えたあと、頭から離れないのは血の量じゃなくて、言葉の鋭さと美しさだったりする。この短編集は、恐ろしくて、哀しくて、どうしようもなく魅力的だ。

怖いもの見たさでもいい、一度読んだらもう元には戻れない。

2.地獄の厨房で、生き残れ―― 『ダイナー』

最初のページをめくった瞬間から、胃袋と神経を同時に鷲掴みにされる。こんな小説、他にあるだろうか。

平山夢明の『ダイナー』は、一言でいえば「地獄のレストランに放り込まれた一般人が、気合と根性でサバイバルする話」だ。

主人公のカナコは、軽い気持ちで闇バイトに手を出してしまい、気づけば殺し屋専門のダイナー「キャンティーン」でウェイトレスとして働かされるハメになる。客は全員プロの殺し屋。マジで全員、血の匂いしかしない。

で、そこの店主がまたクセが強い。元・殺し屋の天才シェフ、ボンベロ。見た目も中身も怖すぎるけど、出てくる料理はめちゃくちゃ美味そう。

ハンバーガーとかスフレとか、どの料理もやたら丁寧に描かれてて、読んでるこっちも「おなかすいた…でも殺されそう…」みたいな謎のテンションにさせられる。暴力と美食が交互に襲ってくるって、どういう読書体験だよって話だけど、これがクセになるんだわ。

カナコは最初、完全に巻き込まれ体質の普通の女の子って感じ。でも、ただじゃ終わらない。死なないために、少しずつ強く、図太くなっていく。その成長が見ててめっちゃアツい。ボンベロとの関係も、ただの支配と被支配じゃなくて、徐々に変化していくのがいい。ツンデレな師弟関係(?)みたいで、妙にニヤついてしまう。

とにかくこの小説は、とっても濃い。血の匂いとバターの香りが、同時に鼻の奥をついてくる感じだ。読んでる最中は「なんだこの世界は!」と思うけど、読み終わるころには「もう一杯いっとくか…」ってなってる。

怖くて、うまくて、痛くて、最高。

腹が減ってても、満腹でも、とにかく読んでほしい。

3.鬼畜の幕の内弁当、いかがですか?―― 『ミサイルマン』

読み進めるほどに、吐きそうなのに、胸がじんわり温かくなる。 そんな謎の現象に陥るのが『ミサイルマン』だ。

一見ただのグロと暴力の見本市に見える。でもその中には、友情とか信頼とか、めちゃくちゃ人間臭い感情が隠れてる。いや、むしろ隠れてるどころか、血と一緒に噴き出してくる。

たとえばクローンの子どもが本体のスペアとして生きるディストピアSF『テロルの創世』。あるいは死の瞬間に異常現象を起こす女性ばかりを集める男の狂った愛情を描く『枷』。

そして極めつけは、表題作『ミサイルマン』。ザ・ハイロウズの曲をBGMに、「デブ女」に呪われた男たちが、わけわからん友情を育てていく物語だ。内容だけ書くと頭がおかしいけど、これがなぜか感動する。

この短編集も、ジャンルが毎回変わる。SF、ホラー、スプラッター、純愛(?)、全部入り。文字通り〈鬼畜の幕の内弁当〉だ。読んでて胃もたれしそうなのに、また次の一編が食べたくなる。

それは、ただエグいだけじゃなくて、その裏にチラリと見える優しさや救いのせいかもしれない。どんなに状況が最悪でも、誰かを想ったり、誰かのために死んだりする人がいる。その一瞬が、やけに沁みるのだ。

もちろん、万人にはおすすめできない。でも、暴力や狂気の向こうにある人間を見つけたい人には、どハマりする一冊だ。

読むときは覚悟して、でもちょっと笑う心の余裕も忘れずに。きっとあなたも、ミサイルを抱えて泣き笑いするはずだ。

4.「知らんぷり」がいちばん怖い―― 『他人事』

あのとき誰かが助けてくれていたら──そう思ったことが、人生に一度はあるはずだ。

でも平山夢明は、その誰かがいない世界を、えげつないまでに突きつけてくる。

短編集『他人事』は、怪物も幽霊も出てこない。その代わりに出てくるのは、無関心な人間、説明のつかない暴力、そして助けを求める声に耳をふさぐ社会だ。じりじりと心を削られる、そんな恐怖がここにはある。

表題作では、交通事故で瀕死の夫婦が、通りすがりの男に助けを求める。でも男は、のらりくらりとかわすだけ。「手ぇ貸してよ!」って言いたくなるのに、彼の態度は一貫して「いや、関係ないし」。そう、他人事なのだ。助けないわけでも、拒絶するわけでもない。ただ、どうでもいい。そこが一番ゾッとする。

ほかの話も容赦がない。引きこもりの息子を物理的に解体しようとする老夫婦とか、定年になった瞬間、人として扱われなくなる男とか。どれもこれも、「こうなったらイヤだな」と思ってたラインを、勢いよく越えてくる。でもそこに、どこか現実の影が見えるのがまた怖い。

平山夢明の筆は、ホラーというより社会診断書に近い。現代社会に蔓延する知らん顔と説明不能な悪意を、極端にグロテスクに、しかしやけにリアルに描き出す。誰もが何かに疲れていて、他人のことなんて気にする余裕がない。だから、誰かが壊れていっても、それは「知らんぷり」で済まされてしまう。

怖いのは、化け物じゃない。理解し合えないまま通り過ぎていく、人間という存在そのものだ。

この短編集は、他人事では済まされない一冊になる。

5.汚れた道の果てに、ほんの少しの救い―― 『デブを捨てに』

読んでる途中、何度も「これは小説でいいんだよな…?」と確認したくなる。それくらい、生々しくて、汚くて、どうしようもなくて、それでいてどこか心がザワつく。

平山夢明『デブを捨てに』は、ヤクザに借金を抱えたダメ男・ジョーが、「デブの娘を捨ててこい」と命じられたことから始まる。デブはただのデブじゃない。視界に入れるのも苦痛、しかも嘔吐あり、ガス欠あり、車は壊れるし空腹だし…と、地獄みたいなドライブが始まる。

でも、ただの悪趣味な話じゃ終わらない。最初は心の底から嫌っていたジョーが、次第にデブ女との奇妙な連帯感を育てていくあたりから、物語にぐいぐい引き込まれてしまう。こんなにも下劣で、汚れていて、社会的に終わってる二人なのに、なぜか少しずつ心が近づいていく感じが切ない。食い意地と暴力と沈黙と吐しゃ物のなかに、ちょっとだけ人間が見えてくる。

他の収録作もだいたい地獄だ。大家族番組の裏側をブチ抜いた『マミーボコボコ』なんかは、笑えるけど笑えない。けど、どれも共通してるのは、「最底辺の人間にだって、魂はある」っていう視線だ。誰が見ても救いようのない連中が、不器用な愛情とか、くだらない誇りとか、意外な忠誠心を見せる。その一瞬にグッとくる。

グロい。不潔。どうかしてる。でも、読後はなぜかスッキリする。泥水みたいな物語なのに、飲み干すとちょっとだけ胸の奥があったかい。

そんな不思議な読書体験を味わいたいなら、『デブを捨てに』はピッタリだ。

6.それでも、生きていた―― 『暗くて静かでロックな娘』

この短編集を読んでると、「もうやめてくれ」と何度も思う。でも、その直後にふと、胸の奥に残る何かに、泣きたくなったりもする。

平山夢明『暗くて静かでロックな娘』は、どうしようもない人生を送る人々を、残酷なまでに赤裸々に描いた10編からなる。救いはほとんどない。けれど、そこには確かに生きている人間の姿がある。

表題作は、目と耳が不自由な美女ロザリンドと、何も持たないダメ男の話だ。わかりやすい幸福なんて存在しないけど、その分、手触りのある感情が残る。ふたりの関係は歪んでいて、壊れやすくて、そしてどうしようもなく切ない。

一方で、『おばけの子』は、読者の心をえぐってくる。児童虐待をこれでもかと描いたこの物語は、ただただ救いがない。読んだことを後悔するレベルだ。でも、少女が最後に見たひまわりの記憶だけが、妙に鮮やかに残る。地獄の底で咲いた、たったひとつの花のように。

そして『反吐が出るよなお前だけれど…』は、毎日罵り合う老夫婦の物語。読む前はギャグかと思ったが、ラーメン屋を営むふたりのどうしようもなさと、それでも離れない関係性が、ぐるっと回って愛おしく感じてしまうから不思議だ。

この短編集は、幻想もある。でも軸にあるのは現実だ。虐待、貧困、無関心、社会の隅っこで見捨てられた人たち。その日常を、平山夢明は容赦なく描く。なのに、不思議と読後はまったく絶望じゃない。血と暴力と罵声にまみれたその先に、少しだけ美しさがある。その一瞬の輝きのために、読んでしまう。

それは「希望」とはちょっと違うけれど──たしかに、生きていた、という感触だ。

7.贈り物は、狂気でした―― 『メルキオールの惨劇』

読んでるうちに、自分の脳みそまでぐにゃっと歪んでいく感じがする。平山夢明『メルキオールの惨劇』は、そんな感覚で始まる。

舞台は「薄情」が特産品っていう終わってる町だ。主人公の「俺」は、他人の不幸をコレクションしてる変人の依頼で、昔、自分の子どもの首を切った女の家を訪ねることになる。もうこの設定の時点で不穏すぎて、心の準備とか無理だ。

でも、本当に怖いのはその先だ。この家には、天才と白痴という極端すぎる兄弟がいて、それぞれにとんでもない宿命を背負ってる。しかもタイトルにもある「メルキオール」は、キリスト生誕に贈り物を持ってきた三博士のひとり。でもこの物語で贈られるのは、黄金でも乳香でもなく、もっと歪んだ才能だ。要するに、血の中に刷り込まれた狂気ってやつ。

この作品は、とにかく聖書とか神話モチーフが散りばめられてて、読みながらどこまでが現実でどこからが幻覚なのか、本当にわからなくなってくる。犬をヘリコプターみたいに振り回すシーンとか、死体に意味不明な文字が浮かぶ場面とか、まじで正気じゃない。

語り手自身も殺し屋で、感情が死んでるタイプだから、読者の安心感がゼロ。誰もまともじゃない世界に、ズブズブ沈んでいく感覚がクセになる。

グロいし、難解だし、きれいごとは一切ない。でも、この作品には確かに美しさがある。血でべっとりした悲劇の中に、言葉じゃ説明できない神々しさがあるのだ。

おぞましいはずなのに、なぜか目が離せない。これはもう、文学じゃなくて呪術だ。

グロい。怖い。意味不明。でも、圧倒的に魅せられる。そんな闇の傑作なのだ。

8.フィクションよりヤバい現実―― 『異常快楽殺人』

この本を読むと、平山夢明の小説が「やりすぎ」なんじゃなくて、「じつは現実のほうがヤバい」と気づくことになる。

『異常快楽殺人』は、実在のシリアルキラーたちの犯罪と生涯を描いたノンフィクションだ。出てくるのは、ピエロのふりして少年を狙ったゲイシー、死体で家具を作ったエド・ゲイン、食人に走ったチカチーロ……名前だけで背筋が寒くなる連中ばかり。

でもこの本は、ただの猟奇事件集じゃない。それぞれの「なぜそこまで壊れたのか」に踏み込んでいくのだ。

彼らはみんな、ただの悪魔だったわけじゃない。ひどい幼少期、繰り返される虐待、誰にも救われなかった過去。それらが積もり積もって、歪んだ欲望と狂気のスイッチを押してしまった。平山夢明は、その深層にある「人間としての哀しみ」にまで触れていく。だから読んでいて、気持ち悪いのに、どこか悲しくなる。

文章はノンフィクションなのに、完全に平山ワールド。ドライな報告じゃなく、小説のように臨場感たっぷりで、むしろフィクションより怖い。血や肉だけじゃない、心の奥の奥にある黒い泥まで見せられてる感じだ。しかもそれが、平山のホラーやグロテスクな小説群の土台になってるのがまた恐ろしい。創作だと思ってたものの原点が、ここにはある。

正直、読むのはしんどい。でもこのしんどさは、人間という生き物の底を覗いてしまったときのものだ。

この本は、犯罪者の話というより、「自分の中にもこんな闇があるんじゃないか」って思わせてくる、危険な鏡だ。

平山夢明という作家の闇の源泉に触れたいなら、この一冊は絶対に避けて通れない。

9.クズだって、生きてるんだよ―― 『八月のくず 平山夢明短編集』

平山夢明『八月のくず』は、社会の片隅どころか、ほぼ地中で生きてるようなくずたちの物語を集めた短編集だ。

汚い、痛い、重い、なのに時々美しい。そんな話が10編詰まってる。ホラー、SF、犯罪、純愛っぽいものまで内容はバラバラ。でも全部に通ってるのは、人間のどうしようもなさと、それでもなお生きてしまう力だ。

表題作では、妊婦を金槌で殺した男が、終わらない悪夢の中でもがき続ける。怖い、重い、つらい。でも読んでるこっちの心も、なぜか一緒に揺さぶられる。

そして『ふじみのちょんぼ』。これはマジで泣ける。不死身の地下格闘家が、なぜ死ねないのか。その理由が切なすぎて、暴力描写のすき間から、やたら澄んだ空気が流れてくる。平山夢明は、ただの残酷マシーンではない。本当に人間の深いとこまで届く話を書いてくるのだ。

『裏キオクストック発、最終便』では、記憶を改ざんされた元犯罪者たちが集まる街が舞台。過去が消えたって、本当に人は変われるのか。そんな問いを突きつけてくる。ほかにも、刺青に取り憑かれる女の話や、聴こえなくなった唄にまつわるSFもあって、読む側はひたすら振り回される。でも、それがいい。

クズってのは、ただの罵倒語じゃない。この本に出てくる奴らは、みんな何かを失って、壊れて、でもまだ何かを信じようとしてる。

そんな姿が、ちょっぴり心を動かしてくる。

そして思うのだ――人間って、案外しぶとくて愛おしい、と。

10.死んでいくのは、いつだってろくでなし―― 『或るろくでなしの死』

どいつもこいつも救えない。でも、そんな人たちにしか見えない風景がある。

平山夢明の『或るろくでなしの死』は、タイトルのとおり、社会の片隅でくすぶって生きてきた人たちの〈死にざま〉を七つのかたちで描いた物語集だ。登場するのは、殺し屋、ごくつぶし、感情が枯れた男、無責任な親…。どうしようもない奴らばかり。でも、だからこそ、彼らの終わり方は妙に胸に刺さる。

表題作では、金で殺しを請け負う男が、殺人現場を目撃した少女と出会う。少女の要求はあまりに奇妙で、そしてどこか痛ましい。そのやりとりが、殺し屋の心の奥に眠っていた何かを微かに揺らす。終わりは救いとは言えないけれど、ただの地獄でもない。そこに生まれるズレた優しさが、妙に沁みる。

『或るからっぽの死』は、感情を失っていく男の話。どんな刺激にも何も感じなくなる、というその感覚が怖い。そして最後にやっと感情が戻ってきたときには、もうすべてが遅い。悲しいのに、なぜか清々しくもあるという、不思議な読後感が残る。

対して、『或るごくつぶしの死』はガチで重い。育児放棄の末に子どもを死なせてしまった若者が迎える結末は、痛い、苦しい、つらい。でも、それがちゃんと物語として届いてくるのは、平山夢明の冷静な筆があってこそだ。

全体的に暗くて陰鬱で、もちろん読後に爽やかな風が吹くようなタイプの本ではない。でも、どの話にも「それでも人間って、完全に空っぽじゃないんだな」と思わせてくれる瞬間がある。

ろくでなしでも、ごくつぶしでも、クズでも、人は何かを抱えて生きて、そして死んでいく。

そんなふうに描かれた死が、ここにある。

おわりに

読んでる途中は「うわ、最悪だ…」と思うのに、読み終えると妙に静かで、人の顔がふっと浮かんでくる。

平山夢明の小説には、そんな〈あとから効く毒〉みたいなものがある。暴力や狂気の向こうに、やたらリアルな人間の感情が見えてくるからだろう。

しかも、その感情は決してキレイじゃない。嫉妬、憎しみ、孤独、欲望。どろどろしてるし、時に醜い。でも、だからこそ嘘がない。そしてその嘘のなさに、読者は不意を突かれて、心のどこかがじんわり反応してしまう。

ここで紹介した10作品は、そんな〈平山的感情地獄〉への入口だ。耐性がない人は覚悟が必要かもしれない。

でも大丈夫。読んだらきっと、しばらく忘れられない時間が待っているから。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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