辻村深月『傲慢と善良』- 忽然と姿を消した婚約者に隠された秘密とは

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婚活アプリで出会い、2年の交際を経て婚約した西澤架と坂庭真実。

ところが一緒に暮らし始めたある日、真実が唐突に姿を消した。

架が贈った婚約指輪が部屋に残されていたことから、警察はこの失踪を事件ではなく他の男との駆け落ちではないかと仮定した。

しかしプロポーズした時に真実がどれほど喜んでいたかを知っている架には、どうしてもそうは思えなかった。

架は、真実が以前から悩んでいたストーカー被害と関係があると考え、真実の実家がある群馬で手掛かりを探る。

ところがそこで明らかになったのは、架が今まで全く気付いていなかった、真実の本当の姿だった―。

真実は無事でいるのか、なぜ姿を消したのか。

傲慢さと善良さ、そして生き方について考えさせられる恋愛ミステリー!

目次

婚約者の行方を追うと、そこには……

『傲慢と善良』は、結婚を前に行方不明になった真実と、彼女を捜す架の物語です。

前半は架の視点になっており、序盤は警察に相談したり、ストーカーの正体を探ったりとミステリー色が強め。

結婚の約束をして、同棲まで始めた相手がいきなり姿を消したのですから、不安は大きいですよね。

架としては「拉致か監禁か?」と気が気ではないでしょう。

「心変わりして他の男と逃避行」という可能性もあり、読んでいてハラハラします!

ところが真実の故郷である群馬で、架は思ってもみなかった事実を知り、愕然とすることになります。

真実がどのような環境で過ごしてきたのか、どのような人生を歩んできたのかが見えてきて、そこから架は真実の人間性を知るのです。

2年も交際して結婚まで決めた相手だけれど、皮肉なことにこの事件で初めて、架は真実の本当の姿に気付くのでした。

一方後半では、真実の視点で物語が進みます。

真実が無事でいるのか、どこにいるのかはネタバレになるので伏せますが、ここで真実は自分の過去と向き合い、「生き方」について考えることになります。

真実がどんな生き方を選択するのか、そして架は真実を探し出すことができるのか、クライマックスはドキドキの連続!

このように『傲慢と善良』は一見すると人探しミステリーのようですが、実は内面的なことがテーマとなっています。

ヒューマンドラマとしての色合いが強く、読みながら深く考えさせられますし、読了後にも胸にずっしりと残る作品です。

生きづらい人生からの脱却

『傲慢と善良』は、タイトル通り「傲慢」と「善良」とが重要なファクターとなっています。

一般的に「傲慢」とは人を見下したり偉ぶったり疑ったりする態度のことで、「善良」は素直で誠実で思いやりのあることなので、イメージとしては真逆ですよね。

ところが真実の中では、これらが両立しています。真実は「善良」でもあり「傲慢」でもある、ということです。

というのも、彼女は幼い頃からとても良い子として育ってきました。

聞き分けがよくて、親の期待に応えようと一生懸命で、大学や結婚相談所さえも親の希望するところへ通うという、愚鈍なまでの「善良」っぷり。

それは言い換えれば「自分がない」ということに他ならないのですが、真実は親の言いなりで成功してきた自分に、ある種の自信や優越感を持っていました。

つまり「傲慢」ですね。

これらを内に抱えているからこそ真実は生きづらさを感じており、嘘をつくはめになったり現実から目を背けたりしがちになっています。

その結果が、冒頭のストーカー被害や突然の失踪につながっていくのです。

生きづらさを脱却し幸せに生きていくためには、意識をどう変えていけばいいのか。

後半で、真実が真剣に思い悩み答えを見つけていく様子は、本書の大きな見どころです。

ラストはとても胸が熱くなる展開ですので、ぜひ読んでみてください。

誰の中にもある「善良」と「傲慢」

『傲慢と善良』の作者・辻村深月さんは、細かな心理描写に定評のある作家さんです。

本書では「傲慢」と「善良」にスポットが当てられており、どちらも物語中にたっぷりと散りばめられています。

メインとなるのは真実の中にある「傲慢」と「善良」ですが、それ以外にも多数の登場人物の「傲慢」と「善良」とが描かれているのです。

架しかり、その友人しかり、真実の母親しかり。

興味深いのが、この二つが多くの場合、表裏一体となっていること。

たとえば人にアドバイスをすること、これは「善良」なことですが、ある意味「傲慢」でもありますよね。

人を心配することや尽くすこと、助けることも、全て「善良」であり「傲慢」と言えなくもありません。

結婚して愛を育むことや、子供を育てることさえも、「善良」の裏に「傲慢」があるかもしれません。

要は「あなたのためを思って」「良かれと思って」という行為が、いずれも「善良」と背中合わせの「傲慢」なのですね。

これって誰しも思い当たる部分があると思います。

自分の日々の行動を振り返ると、「善良のつもりだったけど、ある意味傲慢だったかも」と思えてきませんか?

あるいは真実のように、親の言いなりになるという愚鈍な「善良」に、ハッとする方もいるかもしれません。

また婚活をしている方であれば、「より良い条件の相手を探すなんて傲慢かな」と思えてくるかも。

このように『傲慢と善良』は、非常に身につまされる部分の多い作品です。

そして読んでいるうちに、真実と同じように「生き方」について模索せずにいられなくなります。

それこそが本書のコンセプトであり、「読んだ方全員に幸せになる道を探ってほしい」という辻村深月さんからのメッセージなのかもしれません。

だから読了後には、とても胸が熱くなり、前向きな気分になれるのだと思います。

少しでも生きづらさを感じている方、毎日の中に「ピンと来ないな……」という部分がある方には、特に読んでいただきたい作品です。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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