真梨幸子『フシギ』- 事故物件で死んだ編集者から届き続ける謎のメール

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作家の“私”は編集者の尾上から、「いわくつきのマンションMを小説化してはどうか」という仕事の打診を受けた。

マンションMは、かつて“私”が住んでいた場所で、“私”自身が奇妙な体験をしていた。

尾上も住んだことがあり、やはり金縛りなどの恐ろしい目に遭ったという。

「このマンションとは関わりたくない」と思った“私”は依頼を断ろうとするが、尾上はマンションMに取材に行き、そこで転落死してしまう。

恐怖を感じる“私”だったが、その後さらに恐ろしい事が起こる。

死んだはずの尾上から、たびたびメールが届くのだ。

それによると、尾上のもとにはどうやら「三人の女」がお迎えに来たらしい。

「三人目の女が、先生のところに現れませんように」

この言葉を最後に、尾上からの連絡は途絶えた。

三人目の女とは誰なのか。

マンションMには一体何が隠されているのか―。

目次

禍々しさ満載の全七話

『フシギ』は、七編の短編からなるミステリー連作短編集。

作家の“私”が、数々の怪現象に遭遇しながら真相に近付いていくという物語です。

ミステリーではありますが、ホラー要素が強めで、物語ごとに毛色の違う怖さを味わえます。

ゾクゾクすることもあれば、飛び上がるくらいビックリすることもあり、読んでいる間はドキドキしっぱなしです。

特に音の描写が恐ろしくて、「ざりざりざり…」というガラスに爪を立てているような謎の音や、突然の黒電話の音などが絶妙なタイミングで描かれるものだから、心臓バクバク!

登場するワードも、事故物件や金縛り、髪の毛、犬神、針山など、禍々しさのオンパレードで、ページを追うごとに冷や汗がふき出る思いがします。

もちろんミステリーですから、最終的にはある真相が明らかになります。

かなりビックリの真相であり、帯に「二度読み必至」とあるように、確認するためにもう一度最初から読み直したくなってしまうくらいです。

一体どんな真相が待ち受けているのか、ホラー的にもミステリー的にも、探る楽しみを味わえる作品です!

◎各話のあらすじと見どころ

『マンションM』

マンションMは、都内でありながら賃料が2万円台という格安物件。

不気味な出来事が相次いでおり、特に401号室には体臭のような匂いや煙草の匂い、腐った匂いが充満しており、どうやっても消せません。

そんな部屋、いくら格安でも住みたくないですよね。

でも編集者の尾上は住み始め、案の定恐ろしい目に遭うのです…。

『トライアングル』

マンションMで尾上が転落死してしまいます。

これだけでも大変ですが、さらに恐ろしいことに、作家の“私”のもとに、死んだはずの尾上からメールがたびたび届くのです。

内容も「お迎え」とか「三人の女」とか、すごく不気味。

しかも毎回絶妙なところで文章が途切れるので、余計に恐ろしいです。

『キンソクチ』

昔住んでいた家が古墳の敷地内だったという、土地絡みの物語です。

その土地で古くから起こってきた数々のトラブルを不動産屋が語ってくれるのですが、ひとつひとつが怖い!

読みながら、自分が住んでいる場所は大丈夫なのか、気になってきます。

『イキリョウ』

“私”は馴染みの美容室で、恐ろしいエピソードを聞きます。

幸せに暮らしているはずの妹が生霊として出てきたり、なぜか目的地に到着できず迷い続けてしまったりと、いずれもゾッとする話ばかり。

“私”はそれらの出来事を冷静に分析してみるのですが―。

『チュウオウセン』

“私”はついにお祓いに行くことにします。

中央線で向かっている道中で、編集者の花本が自分の身内の不思議話を語ります。

単なる内輪話かと思いきや、そこには恐ろしいドラマが隠されていました。

『ジンモウ』

今度は“私”が、編集者の里見に恐怖話を語って聞かせます。

人毛で作られた醤油や剣山の話で、これがもう、めちゃめちゃ気持ち悪い!

里美はショックで寝込んでしまいますし、読者的にもトラウマになりかねないレベルです。

『エニシ』

霊能者に、女性の生霊が憑いていると言われた“私”。

どうやら伯母の生霊らしいのですが、伯母は既に亡くなっており「生霊」になるはずがないので、不思議に思います。

そして“私”が調べることで、ついに真相が明らかになります。

「三人の女」の正体も、呪いの正体も、“私”が一体何者なのかも―。

強烈なインパクトを残すイヤミス

真梨幸子さんと言えば、「イヤミスの女王」という異名で知られています。

「イヤミス」とは「読後にイヤな気分が残るミステリー」のことで、なるほど真梨さんの作品は、デビュー作の『孤虫症』にしても、代表作『殺人鬼フジコの衝動』にしても、かなりドロドロしています。

グロかったり、人の心の醜い部分が描かれていたりで、読んでいて息苦しくなってくるほどであり、そこが大きな魅力とされています。

本書『フシギ』も、例にもれず立派なイヤミスです。

ホラー色が強く、様々な怪現象が起こるので、それだけでも読み手の気分はドロドロしてくるのですが、加えてグロもすごい!

グロと言ってもスプラッター系ではなく、生理的に受け付けられない系のグロです。

個人的には、特に『ジンモウ』に登場する人毛醤油が気持ち悪かったです!

今後しばらくは、醤油味の料理をことごとく警戒してしまいそうなくらい。

排水溝も、人毛がワサワサと逆流してきそうで怖いので、当分は見たくないです。

最終話『エニシ』に出てくる謎の感染症も、今のご時世だと全くシャレになっておらず、我が身を考えると不安になります。

このように『フシギ』は、読者に強烈なインパクトを残す作品です。

連作短編集ですが、一話ずつきれいに完結しているわけではなく、話が進むたびに闇が深まっていく感じなので、一気に読むことをおすすめします。

イヤミス好きな方には、外せない一冊です!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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