駄犬『誰が勇者を殺したか』- 死の真相を巡って繰り広げられる、執念と絆の群像劇

  • URLをコピーしました!

「僕は必ず魔王を倒します」

王女アレクシアに誓った勇者アレスは、約束通り魔王を討伐し、そのまま帰らぬ人となった。

4年後、亡き勇者の偉業を文献として残すことが決まった。

さっそく王女は、勇者の仲間だった剣聖レオン、聖女マリア、賢者ソロンにインタビューを始める。

彼らはそれぞれが知る勇者の様子や思い出話を語ってくれたが、しかし王女にはなかなか実態がつかめない。

なにせ勇者の人物像が語り手によって異なっている上、死については誰も真相を話そうとしないからだ。

勇者は一体どんな人物だったのか。

なぜ彼が勇者になり、誰が彼を殺したのか。

そこには悲愴なまでの執念が隠されていた―。

目次

なぜか食い違う勇者の人間像

『誰が勇者を殺したか』は、勇者アレスの死の真相を探っていくファンタジー・ミステリーです。

物語は基本的に、王女アレクシアが勇者を知る人々にインタビューしていくという形式で進んでいきます。

これにより勇者の人となりや活躍が見えてくるはず…、なのですが、不思議なことにインタビューの回答は、人によってまちまち。

たとえば市井の人々は、勇者を「剣も攻撃魔法も回復魔法も使える偉大な人」と讃えています。

ところが勇者のパーティメンバーとして一緒に戦っていた剣聖レオンが言うには、勇者は「平民で、成績は凡庸、風貌も冴えず、勇者になる資格がない男」とのこと。

同じく仲間の聖女マリアが言うには、「回復魔法の才能も信仰心もない人」らしいし、賢者ソロンに至っては「あいつはただの馬鹿だ」とか酷い言い様です。

世間では慕われているけれど、仲間には嫌われている?

あるいは勇者が世間に見せていたのは嘘の姿で、仲間が知っているのが真の姿?

このように、なんだか謎めいた勇者なので、インタビュアーである王女(と読者)は混乱します。

さらに勇者の死についても、ミステリアス。

なにしろ一緒に冒険したはずのレオンたちは、この件について皆一様に口を閉ざすのです。

そのため市井では、様々な予想が飛び交っています。

魔王を倒した以上、そこらへんの魔物に倒されるわけはないので、「仲間の誰かが殺したのでは?」とか「平民の出なのに勇者になったから、貴族の恨みを買ったのでは?」などなど。

どれも勝手な憶測ですが、一理あるような気もするので、王女も読者もますます混乱。

このように前半では、インタビューの回答にかなり振り回されます。

謎すぎる勇者と、死の原因。

読者としては真相が気になるし、インタビュー形式で読みやすいことも手伝って、先へ先へとどんどん読み進めたくなります。

真相は勇者本人によって明かされる

中盤になると、なんと勇者の独白パートが始まります。

そう、勇者が自ら真相を語ってくれるのです!

あまりに早い段階で真相が明かされるのですが、物語はここで終わりではなく、むしろここからが大きな見どころですよ。

まずわかってくるのは、勇者の人となり。

レオンに言わせれば勇者は「凡庸」で、剣の腕も魔法の才能もなかったのですが、そんな彼がどうして勇者になって、魔王を倒すことができたのか。

そこには、彼の異常なまでの執念がありました。

彼には、ある事情があって、どうしてもどうしても勇者になるしかなかったのです。

そのために来る日も来る日も、修行を続けました。

休みを一切とらず、眠ることもなく(体の限界が来て気絶するまで修行するので、自ら睡眠をとることはない)、ただひたすらに頑張り続ける壮絶な日々。

凡庸なのに、才能がないのに、そうまでして勇者にならなければならなかった彼の生き様は、あまりにも残酷で、だけれど眩しくて感動的です。

また、そんな彼と一緒に旅するレオンたちも素敵です。

彼らはそれぞれ剣や魔法のエキスパートであり、才能に溢れ、家柄も良くて、勇者とは比べ物にならない優れた人材。

そんな彼らが、愚直なまでに努力を続ける勇者を見て徐々に動かされていく様子が、もうとにかく尊くて、読み手の胸まで一緒に熱くなっていきます。

彼らが勇者の死について言葉を濁していた理由も、この段階に来ればわかります。

そして終盤になると、王女がなぜ自らインタビューをしていたのか、さらには世界の在り方までわかってきて、そのたびに読者はジーンと感動。

ラストシーンも、心がポッカポカに温かくなること請け合いです!

ラノベ歴代一位!全てのエピソードが胸を打つ

『誰が勇者を殺したか』は、もともとは小説投稿サイト「小説家になろう」で、作者の駄犬さんが連載していた作品です。

WEB上で注目を集めて書籍化され、ますます話題となり、重版に次ぐ重版で、あれよあれよという間に10万部を突破。

ライトノベル新作で歴代売上第一位という快挙を成し遂げました。

ジャンルとしてはファンタジー・ミステリーですが、どちらかというとヒューマンドラマとしての趣が強い作品です。

特に勇者の努力と執念は、感動だけでなく憐みや喜び、勇気など、様々な感情を読み手の心の中で湧き上がらせてくれます。

勇者を取り巻く仲間たちも、一人一人が個性的で魅力的!

個人的には、聖女マリアの二面性がツボでした。

この人はパッと見は清楚でおしとやかなのですが、実は色々とこじらせていて、インタビューで語る内容と、その後の独白とのギャップが凄すぎて、読んでいて吹きそうになったり頭を抱えたくなったりと(苦笑)、とにかく楽しませてくれました。

他にも、預言者の宿命や王女の結婚話、美味しいスイーツ店のことなどなど、見どころはたくさん!

そのどれもが胸を打つエピソードで、二度三度と読み返したくなるくらいです。

読了後には、「素敵な本に巡り会えた!」と嬉しい気持ちでいっぱいになるくらいの作品ですので、ぜひお手に取ってみてくださいね(*’▽’*)

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

目次