米澤穂信『冬期限定ボンボンショコラ事件』-シリーズ最大の事件を描く、四部作掉尾を飾る冬の巻

  • URLをコピーしました!

小鳩と小佐内は、平穏無事な日々を過ごすために小市民を目指している高校3年生。

大学受験を控えた12月のある日、小鳩が轢き逃げに遭う。

小鳩は迫ってくる車から小佐内を体当たりで逃がし、自分が轢かれてしまったのだ。

脳震盪に全身打撲、右足の骨折に肋骨亀裂と、重症を負った小鳩。

すぐに手術を受けたが、その間に小佐内は「犯人をゆるさない」というメッセージを残し、一人で犯人を探しに行ってしまった。

約2ヶ月もの間入院することになった小鳩には、調査に同行することはできない。

小鳩は小佐内を心配しながら、過去に起こった出来事を思い出していた。

3年前、まだ中学生だった頃、クラスメートがやはり轢き逃げに遭った時のことだ。

あの時は……、そう、自分こそが犯人を突き止めてやろうと意気込んでいたが、行き着いたのはあまりにも予想外の結末。

けれど今回は―。

身動きのとれない小鳩は、小佐内が残したメッセージを頼りに推理を始める。

目次

なぜ小市民を?真の理由が明らかに!

『冬期限定ボンボンショコラ事件』は、アニメ化も決定している大人気青春ミステリー「小市民シリーズ」の第五弾です。

主人公の小鳩くんと小佐内さんが高校1年生の時に始まったシリーズですが、二人はもう高3。

さらに過去作が「春期」「夏期」「秋期」の流れとなっており、今作は「冬期」ですので、節目であり完結編ともなる重要な一冊です。

今までシリーズを追ってきたファンは必読!

しかも今作では、小鳩くんと小山内さんが「小市民」を目指していた理由が判明します。

二人は抜群の推理力や観察眼を持っていながらも、小市民として静かな日常を過ごしたいと願っているのですが、それは中学時代の「苦々しい過去」が発端となっています。

このことはシリーズ一作目からそれとなく示唆されていたものの、詳細は語られず。

それが、最終巻にしていよいよ明かされるのです!

一体どんな出来事があったのか、なぜ優れた能力を持っていながら、それを封じるような生き方を選んできたのか。

小鳩くんの轢き逃げ事件の真相を探る過程で、それらにも触れていくので、今作は現在編と過去編の実質二つのパートを楽しめるようになっていますよ。

二人の高校卒業後の進路についても描かれており、見どころ満載、ハラハラドキドキは不可避です!

カードやボンボンショコラで意思疎通

冒頭からいきなり轢き逃げで重傷を負ってしまう小鳩くん。

2ヶ月も入院することになり、大学入試はどうなってしまうのか、そもそも轢き逃げ犯は誰なのか、小佐内さんは無事でいられるのか、などなど気になることだらけの現代編です。

もうひとつ強烈に気になるのが、日坂くんが自殺したらしいという話。

日坂くんは小鳩くんの中学時代のクラスメートで、彼もかつて轢き逃げに遭いました。

優秀なバドミントン選手だったのに、この事故のせいで中学時代最後の試合に出場できなくなってしまいます。

気の毒に思った小鳩くんは、彼のために犯人探しを始めるのですが、なぜか当の本人に「鬱陶しい」と言われてしまいます。

日坂くんには、どうも「探られたくない事情」があったようです。

そしてその日坂くんが、どうやら自殺したらしい……。

こうして物語は、現代編と過去編とを行き来しながら展開していくことになります。

見どころは、なんといっても小佐内さんからのメッセージ。

病室で寝たきり状態になっている小鳩くんは、小佐内さんと直接話をすることが難しく、携帯も轢き逃げの時に壊れてしまったので、二人はお見舞いの品で意思の疎通を図ります。

基本的にはメッセージカードですが、他にもぬいぐるみやドライフラワー、そしてタイトルにもなっているボンボンショコラも使われます。

これがなんとも賢くて狡猾で、思いやりにも溢れており、二人らしい絶妙なやり取りなのです。

たとえ一緒に行動できなくても、二人の間にはしっかりと通ずるものがあり、それによって推理も調査もできてしまうのですね!

そして最終的には、事件の真相も明らかになります。

小鳩くんを轢いた犯人や日坂くんの思いなど、これまでの全ての謎が解け、その後はちょっぴりビターで、でもとびっきり甘いエンディングを拝めます。

20年を経て、ついにシリーズ完結!

ついに終わってしまいました、「小市民シリーズ」。

一作目の『春期限定いちごタルト事件』が2004年の刊行ですから、かれこれもう20年も経ったのですね。

作者の米澤穂信さんには、心から労いと感謝の言葉を贈りたいです!

さて完結編となった今作『冬期限定ボンボンショコラ事件』ですが、予想以上に様々なことが「完結」したと思います。

小鳩くんと小佐内さんがなぜ小市民を目指していたのか、二人が何のために互恵関係を結んでいたのか、今作は読者に本当の意味で理解させてくれました。

また、二人にとって小市民を目指すことは「本来の自分を封印すること」に他ならないのですが、今作では原因となった事件にケリがついたことで、「今後も小市民を目指すかどうか」という新たなテーマも出てきます。

これについても、二人は様々な経験や思いを経て、真に二人らしい結論を出すことになります。

このように様々な「答え」の出た今作ですが、その一方で気になる部分も残されています。

二人の高校卒業後のことです。

一応進路としては、小鳩くんと小佐内さんとでそれぞれ進む道が決まっています。

でも、もしかしてもしかすると、その先で二人の道が再び交わることがあるのかも?

なぜならラストで小佐内さんが、とっても意味深な言葉を残したから。

その言葉を見たら、もう二人のこの先の物語を期待せずにはいられなくなりますっ!

ということで、完結はしましたが、続編が出ることを待ちたいと思います。

アニメ化も決定しているので、ぜひ本書と併せてそちらも楽しんでみてくださいね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

目次