東京都町田市で、ドラム缶の中から男性の焼死体が見つかった。
町田署の女性刑事・真萩は、警視庁捜査一課の刑事・南条と共に捜査を始めるが、手掛かりすら見つけることができない。
ほどなくして第二の事件が発生。
今度の被害者は女性で、アルカリの棒で貫かれて死んでいた。
捜査を急ぐ真萩だが、南条から聞いたネット上の噂が気になった。
《ドラゴンズ・グレイブ》というネットゲームのイベント内容が、これらの事件に類似しているらしいのだ。
それによると、ゲーム内では一人目が炎の魔法で焼かれ、二人目は光の魔法で貫かれたという。
確かに似てはいるが、偶然の可能性も否めない。
しかし第三の事件まで発生し、焦る真萩は、かつての同僚に協力を仰ぐことにした。
自宅に引きこもり、ゲーム漬けの日々を過ごしている元刑事・瀧川に。
ゲームに酷似した連続殺人事件
『龍の墓』は、連続殺人事件の解決のために、現実世界とゲームの両方からアプローチしていく、新感覚の本格ミステリーです。
現実世界では刑事の真萩と南条が事件を追い、ゲームでは元刑事の瀧川が追うという、二つの視点で物語が進行していきます。
ゲームの名は《ドラゴンズ・グレイブ》。
ファンタジーRPGですが、ゲーム内に本格ミステリー的なイベントがあり、人が魔法で焼き殺されたり貫かれたりといった連続殺人事件が起こります。
そして奇妙なことに、それを模したような事件が現実世界でも発生します。
人がドラム缶で焼かれたり、アクリル棒で串刺しになったりと、見れば見るほどソックリ。
しかもなんと事件現場では、ゲーム内と同じ遺留品が発見されます。
これはさすがに偶然とは思えない、ということで、刑事とゲーマーとが手を組んで捜査していくわけです。
現実とゲームの殺人事件をリンクさせるという発想が、まず面白いですね!
また刑事とゲーマー(しかも引きこもり)が協力し合うという構図も斬新。
犯人は人を殺すにあたって、一体なぜゲームを模したのか、そこにどんなメリットがあったのか。
トリッキーな設定と展開に、目が離せなくなります。
捜査と操作で謎を解き明かす
刑事視点とゲーマー視点に分かれている『龍の墓』ですが、特に興味深いのが後者。
これがなんと、まるでゲームの実況中継なのです。
瀧川が《ドラゴンズ・グレイブ》の連続殺人イベントをプレイしながら、その中で見つけたもの、気付いたことなどをリアルタイムで喋る感じです。
画面内の様子はもちろんキャラクターのアクションもつぶさに語られ、しかもハイテンションなので、臨場感がすごくて、自分も一緒にプレイしている気分になってくるところが良き!
一方真萩と南条の刑事コンビは、足を使って捜査を進めていきます。
現場検証や聞き込み調査など、「これぞ刑事!」という正統派な方法で地道に調べていくので、瀧川との対比がこれまた面白いです。
実際の「捜査」とゲームの「操作」、片や体を張って駆けずり回り、片や家の中で架空の世界を駆けずり回る。
こんなにも違いがハッキリしているのに、後半になると、それぞれの見つけたヒントがどんどん繋がっていき、それがまた爽快!
被害者の共通点、ゲームと関連する部分、果てはSNSの闇まで絡んできて、それらが謎だらけだった事件の穴を次々に埋めていくのです。
最終的にどのような真相が明らかになるのか、ラストには超ビックリのどんでん返しもあるので、もう最高。
ゲームもドラマも楽しめるミステリー
『龍の墓』は、貫井 徳郎さんが作家デビュー30周年という節目に世に出した、記念となる作品です。
貫井さんと言えば、『愚行録』『乱反射』といった含蓄のある社会派ミステリーで名を馳せている作家さんですが、本作はゲームが重大要素であることからもわかるように、ライトなテイストのミステリー。
なんせ全体の約半分が、瀧川の実況中継を含むゲームパートですからね。ゲーム半分、ミステリー半分という感じで、楽しくテンポよく読むことができます。
それでいてヒューマンドラマ要素もあり、特に瀧川が警察を辞めてゲーマーになった理由は印象的。
瀧川は低俗な悪意を向けられ、いわれのない非難を受け続けたことで、すっかり人間不信になり、現実世界から目を背けるようになったのです。
これは決して他人事ではなく、組織や集団の中で生きていれば誰しも陥る可能性のある、社会の闇とも言える問題です。
つまり『龍の墓』は、決して軽さだけの作品ではないということですね。
さらに『龍の墓』は、貫井さんにとっては20年ぶりの本格ミステリーでもあります。
実は貫井さんは、本当は「本格を書き手になりたかった」のだそうです。
その願いを、20年を経て、本作で改めて成就できたわけですね。
このように『龍の墓』は、貫井さんの作品の中ではレアであり、注目すべき一冊と言えます。
ミステリー、ゲーム、ドラマと、様々な魅力が詰まっているので、ぜひ多くの方に読んでいただきたいです!