ドジっ子プロデューサーの幸良には、もう次がなかった。
今回任されたゴールデンタイムの2時間特番バラエティ、ここで失敗すると、今後は制作から降ろされてしまうのだ。
幸良にとっては、絶対にコケるわけにはいかない、命運のかかった番組。
幸い大物俳優の勇崎が出演することになっているため、視聴率は稼げそうだった。
ところが当の勇崎が、番組開始直前になっても姿を現さず、連絡しても全く繋がらない。
このピンチに慌てふためいた幸良は、いつものドジが派手に炸裂し、スタジオの隅に置かれていた大きな箱を倒してしまう。
するとその中に、なんと腹を刺された勇崎の死体が!
さらに殺人犯からのメッセージもあり、「死体を隠したまま番組を放送しなければ、スタジオを爆破する」という脅しまでかけられる。
かくして幸良は、他の出演者に勇崎の死を隠したまま、生放送を進行させることになり―!?
生放送前にまさかの連続ハプニング
『なんで死体がスタジオに!?』は、生放送のバラエティ番組「ゴシップ人狼」を舞台としたサスペンス・ミステリーです。
主人公は、崖っぷちプロデューサーの幸良涙花。
番組を成功させなければならないのに、軸である大物俳優・勇崎が何者かに殺された上、それを隠して番組を進めなければスタジオを爆破すると犯人に脅されます。
しかも番組の台本は犯人に用意されており、従わなければなりません。
この無茶振りの中、番組進行のために幸良が四苦八苦する様子が、作品の見どころです。
オンエア中は、とにかくハプニングだらけで幸良はヒヤヒヤし通し!
出演者たちはもちろん勇崎の死を知らないので、番組が本来とは異なる流れになっていることを不審がります。
「きっと裏方で何かあったんだろう」と勘繰りつつ、番組内のトークでそれとなく探りを入れてくるので、きわどいワードを聞くたび幸良は心臓ドッキン。
テンパるあまりドジなミスを多発してしまうものだから、舞台裏はてんやわんやです。
事情を知っているAD(アシスタント・ディレクター)の次郎丸があれこれフォローしてくれますが、それでも事態が収束するわけではなく、幸良は気が気じゃありません。
そしてこの次郎丸も、何か事情を抱えているようで…?
幸良は無事に生放送を乗り切れるのか、爆破を防げるのか、そもそも犯人は一体誰で、目的は何なのか。
畳みかけてくるようなハラハラ感が、読者を興奮の渦へと引き込みます!
制作側と出演者と視聴者の視点
『なんで死体がスタジオに!?』には、視点人物が合計四人います。
一人は幸良で、残り三人のうち二人は、出演者の一発屋芸人・仁礼左馬と、ギャルタレント・京極バンビ。
二人とも個性的でクセのあるキャラクターですし、制作側の幸良とはまた違った見方でストーリーが語られるので、興味深いですよ。
そもそも番組「ゴシップ人狼」自体が面白い!
「ゴシップ人狼」とは、知的ゲームの人狼をベースとしたバラエティ。
出演者である芸能人たちは、順番にゴシップを暴露しまくるのですが、その中に一人だけ嘘のゴシップを言う「人狼」役が混ざっています。
それが一体誰なのか、トークをしながら嘘を見抜いて言い当てるという、芸能界ならではのゲームなのです。
視聴者にしてみればゴシップ暴露だけでも楽しいのに、その上心理戦まで加わるので、一層ワクワク。
さらに読者の場合、勇崎の死による裏事情も加わって、もっとワクワク!
特に語り手の京極は、人狼役なので、スリリングな展開を見せてくれます。
他の出演者たちにバレないように、巧みに嘘を織り交ぜながら語る様子には、読者まで手に汗握ってしまいます。
一方仁礼は、ある特殊なスキルを持っており、それを使いながら人狼役と番組の裏事情とを見抜こうとしており、これまたスリリング。
そして要所要所に、裏方でアワアワと奮闘する幸良の様子が挟まれるので、読者はノンストップのワクテカ展開を楽しめますよ。
そして残る一人の語り手は、番組の視聴者らしき人物です。
一体誰なのか、物語にどうかかわってくるのか、ここも興味深いところですね。
終盤には、予想外にドロドロな展開と特大サプライズが待っていますし、最後まで気が抜けませんよ。
発売前から話題を集めた傑作
『なんで死体がスタジオに!?』は、『ノウイットオール あなただけが知っている』で松本清張賞を受賞した新鋭作家・森バジルさんの、受賞後第一作です。
この作品、なんと発売前から話題沸騰となり、重版が決定したそうです。
もちろん発売後はさらに注目を集め、全国の書店からの熱いコメントが続々と届いたとか。
これほどの人気の理由は、森 バジルさんのネームバリューもさることながら、なんといってもテンポが良くてスピーディなハラハラ展開でしょう。
立場のヤバいプロデューサーに、スタジオに転がる大御所俳優の遺体に、犯人からの爆破予告にと、スリルに次ぐスリルが読者にページをめくらせ続けます。
それでいて決してダークな雰囲気ではなく、ちょくちょくユーモラスな展開が入るため、ついクスッとしてしまうことが多いです。
個人的には、番組中での芸能人同士のトークが魅力的でした。
ウィットに富んだジョークや絶妙なタイミングの合いの手など、芸能人らしい可笑しみたっぷりの会話が、なんとも心地よい!
こういった部分が、読者を退屈させることなく物語に一層没頭させてくれるのですよね。
また、実在の芸能人や番組名が多く登場するところも、この作品の特徴です。
誰もが知るメジャーな芸能人から、知る人ぞ知る番組まで様々な名前が出てくるので、作品のリアリティがグッとアップしています。
芸能ネタに詳しい読者であれば、ニヤリとせずにはいられないと思います。
そして、後半に登場する探偵の正体がまた見事!
まさかこの人物が探偵だったなんて、と予想外の登場に、度肝を抜かされますよ。
事件の決着の付け方にも意外性があり、読後感もスッキリ!
パワフルでコミカルなミステリーを読みたい方は、ぜひお手に取ってみてくださいね〜(๑>◡<๑)