名探偵シャーロック・ホームズ。
この名前を知らない人は、まずいないだろう。
ロンドンのベイカー街221Bに住み、異常なまでの観察力と論理力で事件を解決していくこの男は、19世紀に生まれたキャラクターでありながら、いまなお世界中で愛され続けている。
ただ、いざ原作を読もうと思って調べると、長編あり短編集あり、全60作以上という膨大なボリュームに面食らう人も多いはずだ。
「最初はどこから手をつけるべき?」
「初登場作ってどれ?」
「ワトスンとの出会いは?」
「物語の時系列ってバラバラじゃない?」
そんな疑問を抱いたまま、「まあそのうちでいいか」と読む機会を逃してきた人も多いと思う。
というわけで今回は、これからホームズ作品を読み始めたい人に向けて、「初めてでも楽しめるおすすめの読む順番」をわかりやすく紹介していく。
さて、さっそくだが、結論はこちらである。
①『シャーロック・ホームズの冒険』(短編集)
②『シャーロック・ホームズの思い出』(短編集)
③『シャーロック・ホームズの帰還』(短編集)
④『緋色の研究』(長編)
⑤『四つの署名』(長編)
⑥『バスカヴィル家の犬』(長編)
⑦『恐怖の谷』(長編)
⑧『シャーロック・ホームズの最後の挨拶』(短編集)
⑨『シャーロック・ホームズの事件簿』(短編集)
⑩『シャーロック・ホームズの叡智』(短編集)
この順番は、「発表順」「物語内の時系列」「読者の読みやすさ」などを総合的に考慮して組んである。
ここから先は、それぞれの巻の特徴や見どころを簡単に紹介していくので、「どれから読むか迷っていた」人は、この順番をひとつの参考にしてほしい。
1.『シャーロック・ホームズの冒険』
まだホームズ作品を読んだことがないという人に、最初におすすめするのがこの一冊。
『シャーロック・ホームズの冒険』。
シリーズ初の短編集であり、名探偵ホームズの魅力がギュッと詰まったエントリーポイントである。
舞台は、ガス灯揺れる19世紀末のロンドン。ホームズと相棒ワトソンが、次々と舞い込む難事件に挑んでいく。
収録されている短編はどれも粒ぞろい。
たとえば、
- ボヘミア国王から持ち込まれる国家的スキャンダル案件(『ボヘミアの醜聞』)
- 赤毛の男が妙な組合に入れられるという珍妙な事件(『赤毛連盟』)
- 「まだらの紐」の謎に命をかけて挑むスリリングな一編(『まだらの紐』)
いずれも、観察眼×論理思考×変人っぷりという、ホームズ三大美点がよく出ている。
各短編は独立していて読みやすいが、シリーズを通して読むと、ホームズの人物像やワトソンとの友情、そしてヴィクトリア朝のロンドンの活気が、じわじわと立ち上がってくる。
短編から読む最大のメリットは、「いろんなホームズの顔が一気に見られること」だ。ユーモアあり、スリルあり、心理戦あり。短編ごとに味が違うから飽きないし、「自分はこういうタイプのホームズ話が好きなんだな」ってのが掴めてくる。
とにかく、この一冊から始めれば、絶対に間違いない。
ホームズにハマるかどうかは、この短編集で決まると言ってもいい。
短編ならではの多彩な事件と鮮やかな解決
『シャーロック・ホームズの冒険』は、シリーズ最初の短編集として、ホームズの世界観をギュッと詰め込んだような一冊だ。
短編ならではのテンポの良さとバリエーション豊かな事件群で、「ホームズってどんな探偵?」という疑問に全力で答えてくれる入門書でもある。
たとえば、
◆「ボヘミアの醜聞」
ホームズが唯一「彼女」と呼んで一目置いた女性、アイリーン・アドラーが登場することで有名な一編。
理詰めの天才ホームズに、ちょっとだけ人間味がにじむ瞬間が見える、シリーズ屈指の“余韻ある”話である。
◆「赤毛連盟」
“赤毛の男たちのための謎の組合”という奇妙な依頼が舞い込む。
思わずホームズとワトソンが笑ってしまうようなユーモラスな導入から、実は恐ろしく緻密な計画が隠れていたという展開が見事。
コミカルとサスペンスが絶妙に融合した好編だ。
◆「まだらの紐」
ホームズ短編の中でも屈指の人気作。
薄暗く不穏な空気、命の危機に瀕する依頼人、そして最後に待ち受ける衝撃の真相。
読み終えた後に「うわっ」と声が出るタイプの、緊張感たっぷりなサスペンスミステリである。
◆「青い紅玉」
クリスマスを舞台にした、ちょっと気楽で軽やかな一編。
宝石泥棒をめぐる小さな事件の中にも、ちゃんとホームズの観察力と推理力が炸裂する。
こういう話もきっちり面白いのが、ホームズシリーズの底力だ。
などなど。
この短編集でドイルはすでに、ホームズ物語の基本フォーマット「謎の提示 → 観察&聞き込み → 一瞬のひらめき → 見事な解決」という流れをほぼ確立している。そして何より、シャーロック・ホームズとジョン・ワトソンという黄金のコンビが、ここで完全に完成する。
ホームズの超人的な推理は、ワトソンという語り手がいてこそ引き立つ。ワトソンの誠実さと常識人ぶりが、ホームズの変人っぷりや非人間的な一面を、ちょうどよく中和してくれているのだ。
しかも二人の関係性がただの主役と相棒にとどまらず、ウィットの効いた会話や、さりげない気遣い、事件に挑むパートナーとしての信頼感など、読めば読むほど「この二人じゃなきゃダメだな」と思わされる。
事件そのものの面白さはもちろん、ホームズ&ワトソンという物語そのものの魅力が、最初からここまで完成されていたという事実に驚かされるはずだ。

ホームズが唯一意識した女性アイリーン・アドラーの登場する「ボヘミアの醜聞」をはじめ、赤毛の男に便宜を図る不思議な団体「赤毛組合」の話、アヘン窟から話が始まる「唇のねじれた男」、ダイイングメッセージもの「まだらの紐」など、最初の短編12編を収録。
2.『シャーロック・ホームズの思い出』
名探偵シャーロック・ホームズの初期の事件から、彼の名を不滅のものとした数々の冒険、そして彼のキャリアにおいて最大の敵と目されるジェームズ・モリアーティ教授との運命的な対決に至るまでを、盟友ジョン・H・ワトソンの筆を通して描いた第二短編集。
ホームズが大学在学中に初めて手掛け、彼を探偵の道へと決定的に導いた「グロリア・スコット号」の事件、ホームズの実兄であり、彼自身がその推理力を認めるマイクロフト・ホームズが初登場する「ギリシャ語通訳」。
そして、ヨーロッパ全土にその犯罪網を広げるモリアーティ教授との知力の限りを尽くした死闘の果て、ライヘンバッハの滝壺へと姿を消すまでを克明に記した「最後の事件」など、ホームズの探偵としての軌跡における重要な転換点が鮮やかに語られる。
宿命の対決!モリアーティ教授の登場と「最後の事件」
『シャーロック・ホームズの思い出』の中でも、絶対に外せないのが、やはり「最後の事件」だろう。
ホームズと宿敵モリアーティ教授がついに直接対決する一編で、シリーズ全体を見渡しても、間違いなく最大級のクライマックスである。
モリアーティは、ホームズが「未解決事件のほとんどは彼の仕業」と断言するほどの黒幕中の黒幕。犯罪界のナポレオン、天才にして博学、抽象的思考すら軽々とこなす知能犯――つまり、ホームズが「自分の影」として認めた数少ない存在だ。
この“究極の悪”を追い詰めるために、ホームズはロンドンを離れ、ヨーロッパ各地を転々とするスパイ映画ばりの追跡劇を展開する。
そして最後にたどり着いたのが、スイス・ライヘンバッハの滝。
ここで描かれるふたりの直接対決は、探偵小説史上でも屈指の名場面だ。読んだ人なら誰もが、「えっ……ここで終わりなの?」と一度は固まったはず。文字通りの“最後の事件”というインパクトと、ホームズという存在の大きさを読者に突きつけてくる一編である。
もちろん、面白いのは「最後の事件」だけではない。
たとえば『グロリア・スコット号』では、ホームズが大学生時代に初めて解いた事件が描かれる。いわば、探偵ホームズ誕生の物語とも言える貴重な一編だ。
彼が持つ観察力や推理力が、どのように自覚され、職業としての「探偵」へと結びついていったのか。これはホームズファンなら絶対に見逃せない。
ちなみに、『最後の事件』のあと、ドイルは本気でホームズを“殺した”つもりだった。当時の読者にしてみれば、「ホームズが死んだ」と聞いて激昂する者が続出したらしい。
新聞社に抗議が殺到し、黒い腕章をつけて抗議デモまで起こったとか。そのレベルで、ホームズとワトソンのコンビは、当時すでに世界的に愛されすぎていたのである。
だからこそ、この短編集は「ホームズの絶頂」と「終焉」を同時に体験できる、ものすごく濃厚な一冊と言っていい。
宿敵モリアーティとの緊迫感あふれる対決を描いた傑作短篇「最後の事件」をはじめ、学生時代のホームズや探偵初期のエピソードなど、さまざまな物語でその魅力を描いた、第二短編集。
3.『シャーロック・ホームズの帰還』
スイス、ライヘンバッハの滝壺にて宿敵モリアーティ教授と共にその姿を消し、世間から死亡したものと思われていた名探偵シャーロック・ホームズが、約三年の空白期間を経て、突如としてロンドンに劇的な帰還を果たす。
彼の最も忠実な友人であり記録者でもあるジョン・H・ワトソン医師の前に、巧妙な変装を解いて再び姿を現したホームズは、死を偽装していた間の驚くべき世界各地での冒険譚を語る。
そして、かつての拠点ベーカー街221Bに戻り、再びワトソンを相棒として、次々と舞い込む難事件の捜査に乗り出すのである。帰還後最初の事件となる「空き家の冒険」では、モリアーティ教授一味の残党で最も危険な狙撃手セバスチャン・モラン大佐との息詰まる対決が描かれる。
その他、ノーフォーク州の旧家で起こる「踊る人形」の暗号に隠された悲劇や、連続して破壊される石膏像の謎を追う「六つのナポレオン」など、ホームズの推理は以前にも増して冴え渡り、読者を魅了する。
伝説の復活!「空き家の冒険」の衝撃
この短編集の最大の目玉は、なんといっても「空き家の冒険」である。あのライヘンバッハの滝で死んだはずのホームズが、まさかの復活を遂げ、ワトソンの前に姿を現す衝撃の一編だ。
もともとホームズを「殺した」のは作者ドイル自身だったが、あまりの人気と読者からの執拗な復活希望に押され、ついに“帰還”が実現。しかもその復活劇がめちゃくちゃドラマチックなのだ。
古本屋の老人に変装したホームズが、ワトソンの部屋で正体を明かすあの場面。驚愕、怒り、歓喜、放心と、ワトソンの感情がぐるぐる回る様子に、読んでるこちらもつい身を乗り出してしまう。再会の喜びが、そのまま読者の喜びにも重なる、まさにシリーズ屈指の名場面である。
そしてこのエピソードでは、モリアーティの後継者とも言えるセバスチャン・モラン大佐が登場。スナイパーのごとき暗殺計画を仕掛けてくるモランとの対決も、「生還したホームズは、ただじゃ済まさないぜ」感があって最高だ。
『帰還』には他にも、ホームズの知性が冴えまくるエピソードが詰まっている。
◆「踊る人形」
可愛らしいイラストみたいな人形の絵が、実は命に関わる暗号メッセージだったという一編。ホームズがこの奇妙な絵を見てガチの分析モードに入る様子は、まさに「脳内探偵マシーン発動」という感じで、超がつくほど理詰めで解読していく過程がたまらない。
◆「六つのナポレオン」
なぜ誰かがナポレオンの石膏像を次々に叩き割っていくのか、という、最初は悪質ないたずらか?と思わせる謎が、実は意外なアイテムと殺人事件に繋がっていた、という話。こういう“なんでもなさそうな日常のズレ”から大きな事件に迫るホームズの嗅覚、さすがである。
帰還後のホームズは、ただの観察&推理だけでは終わらない。自ら行動し、危険を冒し、時にはかなり肉体派な立ち回りも見せる。明らかに初期ホームズとは戦い方が違ってきているのだ。
これはドイルが、物語を新たな段階に引き上げたということでもある。「もう推理だけじゃ満足できない読者」に向けて、アクションやサスペンスの比重を少し増やした印象すらある。
ホームズの復活は、ただのファンサービスではなく、これからさらに深くて面白い事件が待ってるぞ、という宣言でもあったのだ。
自ら歴史小説家と称していたドイルは『最後の事件』をもってホームズ物語を終了しようとした。しかし読者からの強い要望に応え、巧妙なトリックを用いて、滝壼に転落死したはずのホームズを“帰還”させたのである。
4.『緋色の研究』
アフガニスタンでの従軍中に負傷し、イギリスへ送還された元軍医ジョン・H・ワトソンは、ロンドンでの新たな生活に苦慮していた。そんな折、旧友スタンフォードの紹介により、風変わりで謎めいた男シャーロック・ホームズと出会う。
科学的な探求心と特異な知識を持つホームズに興味を抱いたワトソンは、彼とベーカー街221Bの部屋を共同で借りることを決める。共同生活が始まって間もなく、ブリクストン街の空き家でアメリカ人のイーノック・ドレッバーが殺害されるという奇怪な事件が発生する。
被害者に外傷はなく、部屋の壁には血で「RACHE」(ドイツ語で「復讐」の意)という文字が残されていた。
スコットランドヤードのグレグスン警部とレストレード警部が捜査に難航する中、ホームズは独自の観察と推理を展開し、ワトソンを伴って事件の真相究明に乗り出す。
名探偵と名記録者の歴史的出会い
いよいよ長編パートに突入である。その第一作が、『緋色の研究』。
この作品の最大の意義は言うまでもなく、ホームズとワトソンが初めて出会う物語である、という点に尽きる。
ロンドンに戻ってきたものの、戦争の傷を負い、行き場を失っていた元軍医ワトソン。一方、風変わりな化学実験に夢中で、常人とはどこかズレた天才ホームズ。
そんな二人がルームシェアを始めるという、やや強引なようでいて、後の展開を思えば“歴史的必然”としか思えない出会いから物語は動き出す。
読者の誰もが驚かされるのは、出会って早々にホームズがワトソンの過去(アフガニスタン帰還兵であることなど)をピタリと言い当てるあの場面。これぞホームズ、これぞ観察と演繹の魔術師!という鮮烈なデビュー戦である。
この出会いがなければ、ベイカー街221Bの名も、数々の難事件も、そして何よりワトソンの語りによる“あの空気感”も存在しなかった。
まさに、すべてはここから始まったのだ。
この作品では、ホームズというキャラクターの特異性もあらためて強調される。ワトソンが彼の知識領域をリストアップして驚くくだりは有名だ。文学・哲学・天文学には驚くほど無知なのに、化学・法医学・解剖学・毒物学・犯罪史には異常なまでに詳しい。
この「専門バカ」っぷりがホームズのアイデンティティだし、逆にその偏りが彼の魅力を際立たせてもいる。知識の使い方があまりにも実用一点突破で、無駄な情報は記憶にすら残そうとしないというのも、常人離れしていて面白い。
しかも、ホームズの捜査スタイルはこの時点ですでに科学的だ。血痕の経過時間を判別する薬品を自作したりと、当時としてはかなりリアル志向な探偵像が提示されている。この路線が、のちの推理小説に与えた影響は計り知れない。
……さて、「シリーズ一作目なのに、なぜ最初に読まないのか?」と思った人もいるかもしれない。
その理由はシンプル。いきなり長編から入ると、ちょっと重く感じる人が多いからだ。
まずは短編集『冒険』や『思い出』でホームズのスタイルやキャラクターに慣れたあと、この『緋色の研究』でルーツに立ち返ると、キャラが“立った状態”で読めるので断然面白くなる。
短編集でホームズが好きになったあなたなら、今ならもう大丈夫。
この長編で、名コンビの物語がどう始まったのかをしっかり味わってほしい。
文学の知識―皆無、哲学の知識―皆無。毒物に通暁し、古今の犯罪を知悉し、ヴァイオリンを巧みに奏する特異な人物シャーロック・ホームズが初めて世に出た、探偵小説の記念碑的作品。
5.『四つの署名』
霧深い夜、美しくも憂いを秘めたメアリー・モースタン嬢がシャーロック・ホームズを訪れる。彼女は十年前に失踪した父アーサー・モースタン大尉の消息と、六年前から毎年匿名で送られてくる真珠の謎を調査してほしいと依頼する。
その日、彼女のもとに差出人不明の手紙が届き、指定された会合の場へ向かうことになる。ホームズとワトソンが同行すると、彼らを待っていたのは大尉の同僚ショルトー少佐の息子、サディアス・ショルトーであった。
彼は父の遺言と、インドの秘宝「アグラの財宝」を巡る陰謀、そして「四つの署名」と名乗る謎の集団の存在を明かす。だが直後、兄バーソロミューが密室で殺害され、財宝は奪われてしまう。
ホームズは嗅覚犬トビーを使い、テムズ川での追跡劇を経て、事件の真相と財宝の行方を明らかにしていくのである。
秘宝を巡る冒険活劇と異国情緒
『四つの署名』は、ホームズの天才的な推理と、インド植民地時代の陰謀を巡る冒険活劇が融合した、シリーズ前半のハイライトとも言える一作である。
ただの論理パズルじゃない。財宝、裏切り、追跡、そして銃撃戦。読みどころ満載のエンタメ作品なのだ。
物語の中心にあるのは、「アグラの財宝」と呼ばれる失われた秘宝。その背景には、かつてインドで交わされたある血塗られた契約が横たわっていて、謎解きはこの植民地時代の因縁へとつながっていく。
見どころはたくさんある。たとえば、
・捜査犬トビーの活躍
ホームズがトビーという名の犬を使って、犯人のにおいを辿らせる場面は、まさにアナログ探偵術の極み。鼻とロジックで事件を追うその様子は、思わずニヤリとしたくなる。
・テムズ川の蒸気船チェイス
夜のロンドンを舞台に、蒸気船でのスリリングなカーチェイス(いやボートチェイス)が繰り広げられる。ホームズがボートで犯人を追い詰めるシーンは、アクション映画さながらの手に汗握る展開だ。
・トンガの存在感
アンダマン島出身のトンガという特異なキャラクターが登場するのも特徴的。彼の描写には時代背景(当時の人種観)ゆえの問題もあるが、物語にエキゾチックな色と不気味さを加えていることは確かである。
そして、この作品でもう一つ忘れちゃいけないのが、あの超有名なホームズの“信条”が登場する点だ。
「ありえないことをすべて除外していけば、残ったものが、たとえどれほど信じがたくても、それが真実なんだ」
この一節は、ホームズの推理哲学の核心であり、のちのミステリ界全体に与えた影響は計り知れない。この言葉にぐっと来た人は、もう立派なホームズ沼住人である。
また、物語の冒頭でホームズがコカインを打っている描写も見逃せない。今の視点で見るとショッキングだが、当時のイギリスではそこまでタブー視されていなかった。
とはいえ、退屈すぎて薬物に逃げる探偵という設定はかなり異色で、ホームズの影の部分、人間臭さがしっかりと描かれていて興味深い。
『四つの署名』は、ただの謎解きでは終わらない。事件の裏に歴史があり、登場人物には業があり、ホームズ自身にも空白と狂気のにおいが漂っている。
だからこそ、この長編は単発の物語以上に、ホームズという人物を知るための一冊としても非常に価値があるのだ。
ある日、ベーカー街を訪れた若く美しい婦人。父がインドの連隊から帰国したまま消息を断って十年になるが、この数年、きまった日に高価な真珠が送られてくるという……。
6.『バスカヴィル家の犬』
イングランド南西部デヴォン州、荒涼たるダートムアに建つ旧家バスカヴィル家には、当主を祟り殺すという魔犬の伝説が代々語り継がれていた。その伝説を裏付けるかのように、当主チャールズ・バスカヴィル卿が邸の庭で謎の死を遂げ、そばには巨大な犬の足跡が残されていたという。
顧問医モーティマー医師は、新たに当主を継ぐヘンリー・バスカヴィル卿の身を案じ、名探偵シャーロック・ホームズに調査を依頼する。ホームズはワトソン医師をヘンリー卿と共に現地へ派遣し、ムーアに潜む真相の探索を命じる。
ワトソンは陰鬱な地で怪しげな隣人や不可解な出来事に遭遇しながら、伝説の背後にある謎を追う。やがて密かに現地入りしていたホームズの推理が、恐怖の伝説の裏に潜む巧妙な人間の企みを暴き出すのであった。
ゴシックホラーと本格ミステリーの融合
『バスカヴィル家の犬』は、ホームズシリーズの中でも異色かつ超人気の長編である。
ゴシックホラーと本格ミステリの見事な融合。これこそ、ホラー好きにもミステリ好きにも激推しできる作品だ。
舞台は、イングランド南西部・ダートムアの湿原地帯。霧が立ち込める荒野、獣のような遠吠え、古代遺跡に囲まれたバスカヴィル館。
この舞台設定がもう完璧すぎる。ページをめくるだけでじっとり湿った闇が広がってくるような、そんな不穏な空気感に包まれている。
この物語のキモは、なんといっても“魔犬の伝説”だ。
バスカヴィル家に代々取り憑いているという、地獄の番犬じみた怪物。それが夜な夜な沼地から姿を現し、一族を死に追いやる。そんなおどろおどろしい伝承が、登場人物たちの心を支配している。
でも、もちろんホームズはそう簡単にオカルトを信じたりしない。むしろ「おもしろくなってきたな」という顔で、どこまでも冷静に、どこまでも論理的に、その超常の影を切り裂いていく。
犯人はこの伝説を逆手に取り、計画を練り上げている。一見すると魔犬の仕業。でも実際は、人間の冷酷な意志と科学的トリックの結晶である。
この「いかにも超常現象っぽいけど、ちゃんと仕掛けがある」って構造が、まさにミステリ的快感なのだ。
しかも、読者も登場人物も思いっきりミスリードされる。「こいつ怪しい」と思ったヤツがまんまと外れ、「まさか」と思ってたヤツがとんでもない動機を持っている。
終盤に明かされる真相は、ちょっと鳥肌が立つくらい衝撃的である。しかもそれが、序盤から丁寧に張られていた伏線ときっちり繋がるからこそ、興奮が倍増するのだ。
幻想と論理、伝説と現実、恐怖と真相。
それらが絶妙に重なり合って、これぞシャーロック・ホームズ作品の進化形!と言える完成度を叩き出している。
論理で恐怖をぶっ壊すホームズの姿が、これほどカッコよく決まる作品はそう多くない。
だからこそ、『バスカヴィル家の犬』はシリーズの中でも一際人気が高く、「初めて読む長編」としてもよく推されているのだ。
深夜、銀幕のような濃霧のたちこめた西部イングランドの荒野に、忽然と姿を現わした怪物。らんらんと光る双眼、火を吐く口、全身を青い炎で燃やす伝説にまつわる魔の犬は、名家バスカヴィル家の当主ヘンリ卿を目がけて、矢のように走る――。
7.『恐怖の谷』
イギリス南部サセックス州の片田舎にある古い館で、主人ジョン・ダグラスが奇怪な状況下で殺害される。顔面は至近距離から散弾銃で撃ち抜かれ、原形を留めていなかった。現場には結婚指輪の消失、外部侵入の形跡のない開いた窓、被害者の胸に押された謎の焼印など、不可解な点が残されていた。
シャーロック・ホームズはマクドナルド警部の依頼を受けて捜査に乗り出し、背後に宿敵モリアーティ教授の影を感じ取る。
物語は二部構成で、後半では二十数年前のアメリカ・ペンシルベニア州の炭鉱町「恐怖の谷」へ舞台を移す。二つの時代が交錯し、やがてイギリスでの殺人事件の驚くべき真相が明らかにされる壮大なミステリー。
二つの舞台、二つの物語が織りなす重層的ミステリー
『恐怖の谷』は、ホームズシリーズの最後の長編である。
タイトルの通り、内容はかなりダーク。しかも全体が二部構成になっているという、ちょっと変則的な作りだ。
まず前半(第一部)は、イギリスの片田舎、典型的なカントリーハウスで起きた殺人事件。ある屋敷で男が頭を撃ち抜かれ、死体は部屋の中――いわゆる密室ものっぽい展開から始まる。
ホームズが登場し、現場の不自然な状況から少しずつ真相に迫っていく展開は、まさにクラシックな本格ミステリの王道である。論理で捻じ伏せる快感、ここにあり。
ところが後半(第二部)になると、いきなり舞台はアメリカへワープする。しかも時代は少しさかのぼり、場所は19世紀後半のペンシルベニア州。炭鉱地帯の荒れた町で、秘密結社「スコウラーズ」が暴力と脅迫で支配する世界が描かれる。
ここの描写がすごい。ギャング映画+西部劇みたいなノリだ。拳銃、密告、裏切り、潜入捜査……なんだこれめっちゃハードボイルドやん、という展開が続く。
一見まったく別の話に思えるこのアメリカ編が、最終的にイギリスの事件とぴったり繋がる。この「二つの物語が一つになる」構成の妙こそが、本作最大の魅力と言っていい。
この作品の背後には、実在の秘密結社「モリー・マグワイアズ」からの影響があるとも言われている。ドイルの筆は、単なる娯楽ミステリを超えて、社会と暴力、正義と復讐といった重たいテーマへと踏み込んでいく。
そして忘れてはいけないのが、モリアーティの存在だ。
今回、彼自身は出てこない。しかし、事件の裏に潜む“見えざる手”としてその名がちらつく。ホームズは、ダグラス殺害未遂の黒幕に彼が関わっていると察知し、物語終盤で警告を発する。
まさに“嵐の前の静けさ”。『最後の事件』への前哨戦とも言える内容である。
『恐怖の谷』は、過去から逃れられない男の運命と、巨大な組織犯罪のしつこさ、そして“正義”が何によって形作られるのか、というテーマを突きつけてくる。
他の長編とは一線を画す、闇の濃さを持った一冊だ。
ホームズのもとに届いた暗号の手紙。時を同じくして起きた暗号どおりの殺人事件。サセックス州の小村にある古い館の主人が、散弾銃で顔を撃たれたというのだ。
8.『シャーロック・ホームズの最後の挨拶』
第一次世界大戦勃発前夜の緊迫した国際情勢を背景に、名探偵シャーロック・ホームズが様々な事件に挑む姿を描いた短編集。
表題作「最後の挨拶」では、長年の探偵業から引退し、サセックス州の田舎で養蜂を営みながら隠遁生活を送っていたホームズが、イギリス政府からの極秘の依頼を受け、ドイツの諜報網の摘発という国家の命運を左右する重大な任務に、最後の力を振り絞って挑む姿が描かれる。
この作品集には他にも、南米の独裁者がらみの陰惨な事件「ウィステリア荘」、ホームズの兄マイクロフトが登場し、盗まれた潜水艦の設計図の行方を追う「ブルース・パーティントン設計書」、正体不明の下宿人の謎に迫る「赤い輪」、そしてホームズ自身が重病を装い、ワトソンの友情を試すかのような行動をとる「瀕死の探偵」など、バラエティに富んだ7つの短編が収録されている。
戦争前夜の緊迫感とホームズの愛国心
この短編集『最後の挨拶』の目玉は、やはり表題作「最後の挨拶」だろう。探偵を引退して田舎で養蜂三昧だったホームズが、祖国イギリスのためにスパイ活動に身を投じるという、シリーズ屈指の異色作である。
舞台は1914年、第一次世界大戦開戦直前。ホームズは“アルタモント”というアメリカ人に成りすまし、ドイツのスパイ組織に潜入。裏で糸を引く大物・フォン・ボルクをまんまと欺き、イギリス側に決定的な情報をもたらす。
これはもう探偵というより完全に諜報員である。だが、ここで描かれるのは、ホームズのもう一つの顔――愛国者としての覚悟と矜持だ。
この作品でホームズは拳銃ではなく情報を武器にし、犯罪者ではなく国家の敵と闘う。探偵業とはまったく別のフィールドで、やはり彼は「頭脳で勝つ男」なのだ。
バリエーション豊かな収録作も魅力
この短編集には、「最後の挨拶」以外にも名編が揃っている。
たとえば、「ブルース・パーティントン設計書」。ホームズの兄・マイクロフトが再登場し、軍事機密の設計図が盗まれるという国家レベルの事件に兄弟タッグで挑む。ここでのホームズはいつもより政治的だが、推理のキレは健在。兄貴との掛け合いも地味に好きだ。
そして「瀕死の探偵」も見逃せない。ホームズが致命的な熱病に倒れた……と見せかけて、実はすべて犯人を釣り上げるための芝居だったという一編。ワトソンの涙ぐましい献身ぶりと、ホームズの冷徹な計算と演技力が光る、これまた変化球な一作だ。
友情の最終形態、そこにある静かな感動
この短編集は、事件そのものよりも、ホームズとワトソンの関係性がぐっと味わい深くなっている点がポイントだ。中でも「瀕死の探偵」で、ワトソンが本気で取り乱し、ホームズの命を救おうと必死になる姿には、グッとくる。
そして極めつけは「最後の挨拶」のラスト。
大戦が間近に迫る中、ベイカー街の窓辺でこれから吹くであろう東風について語り合う、ホームズとワトソンの静かな時間。この場面は、長年のパートナーシップの終着点としても、時代の変わり目の象徴としても、シリーズ屈指の名シーンだと思っている。
探偵ホームズの終幕というより、一人の英国紳士としてのホームズを描いた作品集だ。
政治、友情、戦争、老い、そして知性。
あらゆる角度から、ホームズという男の「人間味」を浮かび上がらせる一冊である。
引退して田舎に引籠っていたホームズが、ドイツのスパイ逮捕に力を貸す、シリーズ中の異色作「最後の挨拶」。
9.『シャーロック・ホームズの事件簿』
シャーロック・ホームズシリーズの最後を飾るこの短編集は、円熟期を迎えた名探偵ホームズが、長年の相棒であるワトソン医師と共に、あるいは時には自身の視点から事件を語りつつ、奇怪な謎や複雑な人間関係が絡み合う数々の難事件に挑む姿を描いている。
「高名な依頼人」では、ある高貴な女性の結婚を阻止すべく、危険な恐喝犯に立ち向かう。サセックス州の田舎で起こる「サセックスの吸血鬼」騒動では、迷信と人間の愛憎が絡み合う事件の真相を暴き出す。
また、「白面の兵士」や「ライオンのたてがみ」といった作品では、従来のワトソンによる記述ではなく、ホームズ自身が事件の語り手を務め、彼の内面や事件に対する独自の考察がより直接的に読者に示される点が特徴的である。
他にも、「三人ガリデブ」の奇妙な遺言相続の謎 、「這う男」の老教授の不可解な若返りと奇行など、バラエティに富んだ全12編の事件が収録されている。
円熟期のホームズとワトソンの変わらぬ絆
ホームズ・シリーズのラストを飾る短編集、『事件簿』。
ここにきてなんと、ホームズ本人が語り手を務める作品が登場する。「白面の兵士」と「ライオンのたてがみ」だ。
これがまあ新鮮。いままでずっとワトソンの温かくてちょっとユーモラスな語りに慣れていた分、ホームズの一人称はめっちゃクール。分析的で、合理的で、感情があるんだかないんだかギリギリのラインを攻めてくる。
でも逆にそこがいい。「こいつ、やっぱり天才なんだな……」ってのが、ワトソン越しじゃなく直に伝わってくる。たまに感情をチラッと漏らす描写があって、そこがまたグッとくるポイントだったりもする。
友情も推理も、すでに円熟の域
本短編集は、ホームズとワトソンの関係性が最終形態に近づいている。若い頃のツンケンした感じがすっかり抜けて、お互いを信頼しきってるのがわかる。
たとえば「三人ガリデブ」。事件の真相はさておき、ワトソンが撃たれたときのホームズの反応がいい。普段あんなに冷静な男が、目に見えて動揺してるのだ。
あの瞬間、「あ、こいつやっぱワトソンのことめっちゃ好きなんだな」って読者全員が思ったはず。
証拠だけじゃ解けない、人間の謎
『事件簿』に収録されている事件は、ただの物的証拠の積み重ねでは解けないような心理的なトリックが多い。
「高名な依頼人」や「ソア橋」なんかは、人間関係の機微とか、社会的背景とか、もっと複雑な要素が絡んでくる。ホームズはそこに切り込んでいくわけだが、初期作品のようなシャープさとはまた違う、経験に裏打ちされた推理が感じられる。
時代は変わる。でも彼らは変わらない
あと注目すべきは、時代設定の変化だ。電話、自動車、電報、そういった技術の進歩が背景にちらほら出てくる。ヴィクトリア朝じゃなくて、もう20世紀なんだな……とふと気づかされる。
でも、そんな時代が変わっても、ホームズとワトソンは変わらない。
老いてもなお、彼らは事件に挑み、推理し、人を救おうとする。
その変わらなさが、このシリーズにとって何よりのご褒美だ。
『事件簿』は、ただの短編集じゃない。
探偵と記録者、天才と相棒、そして何より“シャーロック・ホームズ”という存在の、静かで確かな集大成なのだ。

端正で知的な顔の背後に地獄の残忍性を忍ばせた恐るべき犯罪貴族グルーナー男爵との対決を描く「高名な依頼人」。等身大の精巧な人形を用いて犯人の心理を攪乱させ、みごと、盗まれた王冠ダイヤを取戻す「マザリンの宝石」。
10.『シャーロック・ホームズの叡智』
本書『シャーロック・ホームズの叡智』は、アーサー・コナン・ドイル自身が編纂した作品集ではなく、日本の新潮文庫が、他のシャーロック・ホームズシリーズの短編集を文庫化する際にページ数の都合などで収録しきれなかった作品を、独自に集めて一冊にまとめたもの。
そのため、ホームズのキャリアにおける特定の時期を代表するというよりは、様々な時期の珠玉の短編が収められている。
収録作には、ある朝ワトスン医師のもとに親指を無残に切断された水力技師が駆け込んでくる衝撃的な事件「技師の親指」、国家的な価値を持つ緑柱石の宝冠が盗まれ、銀行頭取の息子に盗難の嫌疑がかかる「緑柱石の宝冠」、そしてホームズが過労で倒れ、療養先のライゲートで遭遇する殺人事件「ライゲートの大地主」など、初期から中期にかけて書かれたとされる魅力的な8編の物語が含まれている。
新潮文庫独自編集による珠玉の短編集
『シャーロック・ホームズの叡智』というタイトル、実はドイルの原典には存在しない。
これは、新潮文庫で翻訳を担当した延原謙氏が、日本独自に名づけた一冊である。
じゃあこれは何かというと、他の短編集に収まりきらなかった短編たちを、ページ数や収録バランスの都合でまとめた、いわば「ホームズ拾遺集」のような構成になっている。
だからこそ、ドイルが意図的に編んだ他の短編集とは少し雰囲気が違う。発表時期もテイストもバラバラ。だけどそこがまた良い。
「あ、こんな事件もあったな」と振り返るような趣があって、長く付き合ってきた読者にとっては、最後のボーナストラックみたいな位置づけになる。
謎のバリエーション、ここに極まれり
この一冊、収録されている事件のタイプが実に多彩だ。
たとえば、
- 「技師の親指」
機械職人の青年が、血だらけになってホームズの元へ駆け込むという、ホラーテイスト強めの一編。親指がないというインパクトだけで記憶に残る人も多い。 - 「スリー・クォーターの失踪」
名門ラグビーチームのスター選手が試合前に失踪。スポーツ×探偵というちょっと珍しい展開。 - 「三人の学生」
試験問題盗難事件。大学が舞台で、ちょっと日常の謎寄りの雰囲気もあって楽しい。 - 「ショスコム荘」
名家の屋敷を舞台に、馬主の影に潜む犯罪と血の気配。ラストの展開はまるでゴシック。 - 「隠居絵具屋」
絵具屋の妻が失踪? ありふれた事件に見えて、蓋を開ければ意外と奥深い。ホームズの推理が光る佳品。
これらの物語に共通しているのは、ホームズの観察眼と論理の冴えだ。どんなに日常っぽい事件でも、奇抜な舞台でも、必ずそこにロジックの美しさがある。
拾遺集が教えてくれる、ホームズの多面性
本家のドイルがまとめたわけじゃないとはいえ、この一冊を読むことで、ホームズという探偵の持つ懐の深さがよくわかる。
どんな時代、どんな相手、どんな場所でも、彼は常に“観察”し、“推理”し、“突破口”を見つける。これはもう、探偵じゃなくても学びたいレベルの叡智である。
日本独自の編集だからこそ生まれた、日本人のためのホームズ。
タイトル通り、そこにはシャーロック・ホームズの叡智が詰まっている。
ある朝はやく、ワトスン博士はメイドにたたき起された。急患が来ているという。診察室に入ったワトスンが目にしたのは、片手に血だらけのハンカチをまきつけている若い技師だった。
これが決定版!ホームズシリーズのおすすめ読む順
というわけで、自分がすすめるシャーロック・ホームズシリーズの読む順番は、以下の通りである。
①『シャーロック・ホームズの冒険』(短編集)
②『シャーロック・ホームズの思い出』(短編集)
③『シャーロック・ホームズの帰還』(短編集)
④『緋色の研究』(長編)
⑤『四つの署名』(長編)
⑥『バスカヴィル家の犬』(長編)
⑦『恐怖の谷』(長編)
⑧『シャーロック・ホームズの最後の挨拶』(短編集)
⑨『シャーロック・ホームズの事件簿』(短編集)
⑩『シャーロック・ホームズの叡智』(短編集)
まずは読みやすい「短編集」でホームズシリーズの面白さをたくさん知ってほしい、というのが私の想いだ。
軽く読めてホームズの多彩な魅力を一気に体験できるし、ワトソンの語りがあることで、ホームズという人物の凄さも、クセの強さも、ぜんぶちょうどいい感じで伝わってくる。
特に『冒険』『思い出』『帰還』の3冊は、どこから読んでも間違いない名作揃いだ。
「自分はどうしても長編から攻めたい!」という人は、堂々とシリーズ第1作『緋色の研究』から入ってもOK。ホームズとワトソンの出会いを目撃できるっていう意味でも、原点にふさわしい一冊だ。
ただし、そのあとからはなるべくこの順番を守った方が、シリーズの流れやキャラの変化を楽しめると思う。
シャーロック・ホームズシリーズは、順に読めば読むほど面白い。
キャラの成長も、作風の変化も、時代の移り変わりも、ぜんぶ含めて「ホームズ世界」だ。
というわけで、この順番でじっくり味わってほしい。
ベーカー街221Bの扉は、いつでも開いている。