『スクイッド荘の殺人』- 断崖絶壁の閉鎖空間で忍び寄る殺人者!烏賊川市シリーズ13年ぶりの長編

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暇を持て余していた私立探偵・鵜飼杜夫のもとに久しぶりに依頼が来た。

有力企業の社長・小峰が「脅迫状が届いたためボディガードをしてほしい」というのだ。

鵜飼は喜んで引き受け、小峰がクリスマスに過ごす予定の高級宿泊施設「スクイッド荘」に、助手の流平とともに同行する。

宿泊費用は小峰持ちなので、温泉や酒や料理を堪能する鵜飼たち。

しかし大雪が襲い、スクイッド荘はすっかり覆われ、クローズド・サークル状態になってしまった。

しかもそんな中で殺人事件まで起こり―。

「烏賊川市シリーズ」待望の長編が、13年ぶりに登場!

目次

いかがわしい館と胡散臭い人々

「烏賊川市(いかがわし)シリーズ」は、いかがわしい場所で起こったいかがわしい事件を、コメディタッチで描くミステリー小説シリーズです。

ユーモアたっぷりでありながら、伏線やトリックもふんだんに練り込まれており、推理マニアでも一筋縄ではいかない本格派。

作品ごとにメインとなる人物が変わるのですが、第9弾の本書『スクイッド荘の殺人』で主役を張るのは、私立探偵・鵜飼杜夫です。

鵜飼と言えば、寒いギャグがおなじみの名(迷?)探偵。

彼の閑古鳥さえ寄り付かないという事務所に、久々に依頼人が来るところから物語は始まります。

さて、どんな事件が起こり、鵜飼がどう面白く捌いてくれるのでしょうか?

今回の依頼内容は、ボディガード。

有力企業の社長・小峰のもとに脅迫状が届いたため、彼がクリスマス休暇を「スクイッド荘」で過ごす間、身辺を警護する仕事です。

こう書くとまともな仕事のようですが、このシリーズでしかも鵜飼が関わる以上、当然のごとくおかしな流れになっていきます。

まず行き先の「スクイッド荘」ですが、これはその名の通りスクイッド(イカ)のような形状をしている宿泊施設です。

母屋からイカの足のように10本の通路が出ており、それぞれの先にコテージがあるのです。

しかもゲソ岬と呼ばれる断崖絶壁に建っているという、その名に負けないイカがわしさ。

他の宿泊客たちも何やら胡散臭く、いかにも何かが起こりそうな雰囲気!

にもかかわらず鵜飼は、宿泊費が小峰持ち(つまりタダ)なのをいいことに有頂天になり、助手の流平と飲めや歌えやの大騒ぎ。

そんな中、ゲソ岬は大雪で孤立して、一同はスクイッド荘から出られなくなります。

そしてクローズド・サークル化したところで、お約束のように殺人事件が起こるのです。

二つの事件を同時進行で

雪で閉ざされた館で殺人事件と来れば、ミステリー好きの方ならいわゆる「館モノ」と思うことでしょう。

ところがさすがは「烏賊川市シリーズ」、いい意味で読者の予想を裏切ってくれます。

単なる「館モノ」では終わらず、「20年前に起こったバラバラ殺人」も関わってくるのです。

体の各部位が、空き家でダンボール詰めにされた状態で発見されたというこの事件、担当するのはシリーズおなじみの砂川警部と志木刑事です。

鵜飼と流平の物語かと思いきや、この二人も途中から参戦するので、ファンには嬉しい展開ですね!

砂川警部らが調べたところ、バラバラになった遺体は小峰の血縁者だとわかりました。

そこで小峰に連絡を取ろうとしたところ、あいにくスクイッド荘は雪で閉ざされており、クローズド・サークル状態に。

しかも殺人事件まで起きていたのですから大変です。

しかし幸い現場には、顔なじみで相互協力もたびたびしてきた鵜飼と流平がいました。

ここで物語は、二つに分かれます。

・スクイッド荘内:館モノ(鵜飼と流平が調査)

・スクイッド荘外:バラバラ殺人モノ(砂川と志木が担当)

この二つが同時進行し、それぞれを解決に導いていくのです。

このように『スクイッド荘の殺人』は、大きな柱が2本ある物語です。

過去の作品と比べるとスケールが大きく複雑ですし、しかもそれぞれのパートを担うのは、過去の作品で主役を張っていた鵜飼&流平コンビと、砂川&志木コンビ。

どちらもおちゃらけながらも、最後にはビシッとカッコよく決めてくれます。

オールスター的な魅力もある、贅沢で読み応えたっぷりの一冊です。

盛りに盛った記念作品

『スクイッド荘の殺人』は、作者の東川篤哉さんのデビュー20周年記念作品です。

加えて、近年では短編が続いていた「烏賊川市シリーズ」において、本書はなんと13年ぶりとなる長編です。

20周年というだけでも話題になるのに、13年ぶりという要素までプラスされたため、『スクイッド荘の殺人』は、東川さんの作品の中でもとりわけ注目を集めています。

もちろん内容も充実しており、特に「二つの事件の捜査を同時進行」という構成が素晴らしい!

それぞれの事件のジャンルが異なっているので、一粒で二度おいしい作品と言えます。

また、鵜飼と砂川の両コンビが活躍するので、どちらのファンでも満足できるところもいいですね。

「20周年&13年ぶり」を飾る作品として相応しい、盛りに盛った一冊だと思います。

もちろん、このシリーズが初めてという方も面白く読めます。

なにしろ、各キャラクターの個性が際立っているので馴染みやすく、随所にギャグが散りばめられていてテンポも抜群!

難解なトリックや蘊蓄だらけの推理もないので、ミステリーの初心者にもおすすめできる作品です。

それでいて、ちょっとした軽口の中に伏線があったりするので、油断はできません。

特に鵜飼の発言は、ズッコケてしまうような内容でも重要な鍵が仕込まれていることがあり、こういうギミックには、ミステリーマニアの方もビビッと痺れてしまうのでは?

とにかく誰が読んでも楽しめる作品でしょう。

コメディタッチでありながらも本格的で贅沢なミステリーを、ぜひお楽しみください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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