貴志祐介『梅雨物語』- 終わりの見えない報いを受け続ける人々を描いたホラーミステリー

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元中学教師で俳句部の顧問を務めていた作田のもとに、かつての教え子・萩原菜央が訪ねてくる。

話を聞くと、どうやら双子の兄の龍太郎が、自費出版した俳句集を残して自殺したらしい。

菜央は兄が詠んだ俳句の意味を知りたくて、作田に解釈を頼みに来たのだった。

さっそく目を通してみる作田だったが、どうにも違和感があった。

一見ありきたりな情景が表現されているようで、解釈の仕方によっては全く異なる景色が見えてくるのだ。

やがて作田は、句の中にあまりにも衝撃的でおぞましい真実が潜んでいることに気が付いて―。

『秋雨物語』に続く、めくるめく悪夢のようなホラーミステリー中編集!

目次

怖くても真相を探らずにいられない

『梅雨物語』は、ホラーとミステリーとを掛け合わせた中編集で、全三篇が収録されています。

鳥肌が立つような不気味な展開で読者を怖がらせた上で、衝撃的な真相を一気に明かしてビックリさせるタイプの物語ですね。

人間って、すごく怖い時でも、目の前に謎があるとつい真相を知りたくなって探ってしまいますよね。

『梅雨物語』は、そんな心理をうまく突いた、「怖いのに読まずにいられない~!」という作品です。

恐怖と驚愕の見事な合わせ技であり、背筋が凍りついたり心拍数が爆上がりしたりの極めてエキサイティングな読書体験ができます!

また各話とも「罪」がテーマとなっており、罪を犯した者が手痛い報いを受け、やがて破滅していくという流れになっていることも、本書の特徴です。

おどろおどろしい物語ではありますが、悪が成敗されることで、意外とスッキリとした読後感が得られます。

各話のあらすじと見どころ

『皐月闇』

自殺した元教え子が遺した句集「皐月闇」の中に、意味ありげな俳句が13句ありました。

そこにどのような意図が秘められているのか、元教員の作田が解き明かしていく物語です。

どれも季節の風景を感じさせる普通の俳句に見えるのに、読み解けば読み解くほど恐ろしい真実がどんどん見えてくるところが面白い!

作田は結構な老齢で、昔の記憶がところどころ曖昧になっているのですが、それが俳句を読み解くことで蘇ってくるのですよ。

かつて何があったのか、自分が何をしてしまったのかを徐々に思い出していく過程が、ジワジワと首を絞めていくようで緊迫感があります。

一番恐ろしいのは、ラスト!

陰湿な罠がずっとずっとずーっと仕掛けられていたことがわかり、あまりの根の深さに背筋に冷たいものが走ります。

『ぼくとう奇譚』

遊び人の男が、夜な夜な奇妙な夢を見ます。

遊郭で不気味な女たちに取り囲まれたり、巨大な毛虫に襲われたり、黒い蝶が出てきたり。

高名な僧によると、この夢には意味があり、謎を解明しなければ命が危険になるらしく……。

ホラー色の強さでは、三篇中ダントツのトップです。

昭和初期のレトロで陰気な雰囲気が行間から漂っていて、めちゃめちゃ怖い!

描写が丁寧なので、読みながら絵的なイメージがものすごく浮かんできて、何度も目を背けたくなりました。

怨念の怖さとグロ系の怖さとが合わさって、主人公だけでなく読者の心をもドロドロに蝕んでいく感じです。

こんな恐ろしいものを見せられたら、もう絶対に悪事なんて働けませんね……。

『くさびら』

妻子が家を出たため一人で暮らしている男が、庭に不気味なキノコが生えていることに気付きます。

恐ろしい勢いで増殖していくので、シャベルで除去しようとしたところ、従兄弟がその様子を見てビックリ。

キノコなんて、どこにも生えていないからです。

従兄弟は、男が精神病ではないかと疑うのですが―。

一体このキノコは何なのか、男は本当に精神病なのか、そもそも妻子はどこに行ったのか。

その全てにおいて意外すぎる真相が待っており、終盤は怖さと驚きとで息をするのも忘れてしまうほどのめり込んで読んでしまいます!

一番衝撃的だったのは、クライマックスのキノコ。

怖い物語なのに、つい感傷に浸ってしまう切ないラストも秀逸です。

いつ終わるのかわからない報い

貴志 祐介さんの『梅雨物語』は、2022年に刊行された話題作『秋雨物語』の続編です。

『秋雨物語』では抗えない運命に翻弄されることがテーマでしたが、今作『梅雨物語』では、罪を犯した人が受ける報いがテーマとなっています。

しかもその報いが、ドカンと来るものではなく、ジワジワ~ッと執拗に襲い掛かってくるので、もう読みながらハラハラドキドキ!

それこそ梅雨のように止む気配がなく延々と続き、報いを受ける者が心身ともにみるみる疲弊していく様子が描かれているため、読者は読めば読むほど空恐ろしくなってきます。

さらに各話ともミステリー要素もふんだんに詰まっているものだから、真相が気になるあまり、怖いのに読む手を止められなくなるところもポイント!

特に『皐月闇』は、ホラーとしてもミステリーとしても秀逸で、ラストで真相がわかった後、二度三度と読み返したくなる傑作です。

繰り返し読んでいると、あちこちに伏線が張り巡らされていることに気付き、これがまた面白いのですよ。

闇が想像よりももっと深かったことがわかって、しかも今後もずっと続くことが予想できるので、改めてゾクゾクさせられます。

他の二篇もそれぞれに恐ろしく、「梅雨」とはよく言ったもので、夜な夜なの悪夢にしても増え続けるキノコにしても、いつ終わるのかわからない怖さがあります。

だからこそ早く真相を知ってスッキリしたい気持ちが高まって、次へ次へとどんどん読み進んでしまうのですよね。

ということで『梅雨物語』は、ジワる怖さを味わいたい方や、真相を知った時の驚きやスッキリ感を味わいたい方におすすめです。

ぜひ、どんよりと続く「梅雨」感を満喫してください!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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