滝川さり『ゆうずどの結末』- 少しでも読んだら呪い殺される、禁忌のホラー小説

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大学の文芸サークルに所属する菊池と日下部は、メンバーの宮原が飛び降り自殺するところを目撃した。

血溜まりに沈んでいく彼女の遺体のそばには、ホラー小説『ゆうずど』が落ちていた。

彼女は最近、「紙の化け物が見える」と悩んでいたらしいが、それと何か関係があるのだろうか?

その翌週、今度は日下部が飛び降り自殺をする。

明るく楽観的な日下部が自殺するなんて、菊池には信じられなかった。

ただひとつ、思い当たるのは『ゆうずど』だ。

日下部は宮原が自殺したあの日、彼女の血が染み込んだ『ゆうずど』を興味本位で持ち帰り、読み始めたのだ。

そして宮原と同じように「紙の化け物が見える」と怯え出したという。

実は菊池も、『ゆうずど』を少しだけ読んでしまっていた。

宮原と日下部が『ゆうずど』を読んだことで自殺したのだとしたら、もしかしたら自分も…?

不安は的中し、やがて菊池の前にも紙の化け物が現れるようになり―。

目次

呪われたら紙の化け物が……

『ゆうずどの結末』は、「読むと死ぬ」と言われる本『ゆうずど』の呪いから逃れるべく、奔走する人々を描いたホラー小説です。

連作短編集となっており、第一章は菊池、第二章は牧野と、計四名の物語が収録されています。

「読むと死ぬ本」なんて、読書家にとって最悪の怖さですよね。

こちらまで呪われるのではないかと、もう序盤からドッキドキです!

実際、作中では宮原と日下部が『ゆうずど』を読んで、どちらも数日後に飛び降り自殺をしています。

過去には、文芸サークルの読書会で『ゆうずど』を回し読みした六人のメンバーが、全員死んだのだとか。

相当にヤバそうな呪いですね!

しかも『ゆうずど』は、最後まで読まなくても、内容を少し知っただけで呪いをかけてきます。

読み始めてしまったら、もう手遅れ。

現に菊池も、冒頭をちょっと読んだだけなのに、日下部の死後、紙の化け物が見えるようになります。

全身にドレスのように白い紙を貼り付けた、髪が長くて足が枯れ枝のような、なんとも薄気味悪い女の化け物が……。

いろんな場所で何度も何度も現れて、そのたびに金属的な気味の悪い声で、死の予告をしてきます。う~ん、怖い!

菊池はなんとか呪いから逃れようと努力しますが、でもネットで調べても、作者も自殺しているとか、読んだであろうブロガーがその後ブログを更新しなくなったとか(やはり呪われたのでしょうか…)、出てくるのは不吉な情報ばかり。

それでも頑張る菊池ですが、その先に待っていたのは……。

結末は、きっと皆さんの予想以上に残酷です。

黒い栞による余命宣告

『ゆうずど』に呪われた人は、恐ろしい怪奇現象に見舞われます。

紙の化け物が見えることもそうですが、他にも色々。

たとえば、『ゆうずど』を捨てても、なぜか手元に戻ってきます。

駅で捨てたのに、帰宅するとドアに立てかけてあったり、別の町のコインロッカーに入れて鍵をかけたのに、目が覚めると枕元にあったりするのです。

何より怖いのが、黒い栞。

『ゆうずど』には黒い栞が挟まれており、これが勝手に動くのですよ。

最初は冒頭に挟まれているのですが、時間の経過とともに65ページ、122ページと、ひとりでに進んでいくのが、もう怖くて!

おそらく最終ページに来た時が、文字通り「終わり」なのでしょう。

本の終わりであり、呪いの終わりでもあり、人生の終わりでもある……。

こんなの、余命宣告と同じですよね。

もちろん呪いを受けた人々も黙ってはおらず、菊池を始めとした各章の主人公は解呪を試みます。

人形供養で有名な寺に行ったり、呪いを他の人に被せようとしたり、親子二代で挑んだり。

それぞれに方法が違っており、その分様々な恐怖や葛藤、ドラマがあって、読者はページを追うごとにゾクゾク、ハラハラ。

でも、読者は最初のうちこそ、「どうやって呪いから逃れるのだろう」と心配しながら読むのですが、章が進むにつれて心配が絶望に代わり、「この人はどう殺されるのだろう」と、完全に死ぬことを前提として読むようになるのですよね。

自分の心がどんどん黒ずんでいく様が、また怖い……。

作中の恐怖をリアルに追体験

『ゆうずどの結末』の作者・滝川さりさんは、第39回横溝正史ミステリ&ホラー大賞で読者賞を受賞し、デビューした作家さんです。

滝川さんの作品はどれもホラーで、怖さ満点ですが、『ゆうずどの結末』は輪をかけて怖い!

なぜなら本書は、いわゆる「体験型ホラー」だからです。

読んだら呪い殺される本がテーマであり、実際に登場人物たちが次々に呪われていくので、読者はどんどん不安になってきます。

読者だって「読んでいる」わけですから、呪いに怯える彼らに同調してしまうわけです。

しかも本書にはある仕掛けが施されており、それが一層読者の恐怖をリアルに増幅させます。

見た瞬間、きっと「ヒエッ!」と縮み上がりますよ!

さらに『ゆうずどの結末』は角川ホラー文庫の本ですが、『ゆうずど』も同じく角川ホラー文庫の本、という設定です。

これがまた「実在している感」をアップさせていますね。

そして極めつけが、第四章が終わった後に出てくる最終章。

各章のタイトルは、第一章が菊池斗真、第二章が牧野伊織と、呪われた人々の名前になっているのですが、なんと最終章のタイトルは、滝川さり。

そう、本書の作者のお名前なのです!

これが一体何を意味するのか?

『ゆうずど』の作者は作中で既に自殺していますが、『ゆうずどの結末』の作者である滝川さんは、どうなのか。

意味深な「編集部注」まで入っており、これまた超リアルで、冷や汗が止まらなくなりますよ~。

本気で怖くなること請け合いですので、読書しながらホラー体験をしたい方は、ぜひ!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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