チョン・ヘヨン『誘拐の日』- 韓国で話題沸騰の巻き込まれ型ミステリー!

  • URLをコピーしました!

この物語は、気弱な誘拐犯「ミョンジュン」と頭脳明晰な天才少女「ロヒ」の出会いから始まる。

ある日、娘の手術費用に困っていたミョンジュンは、誘拐を試みようとして一軒の豪邸に狙いを定めた。

しかし、目的地へ向かっている最中、豪邸から突如飛び出してきたロヒを車ではね、記憶を失わせてしまう始末に。

呆気にとられたミョンジュンはロヒに父親であると嘘をつくが、天才少女であるロヒは咄嗟に疑いの目を掛ける。

そんなやりとりの最中、ロヒが住んでいる豪邸から殺害された両親の遺体が発見され、ミョンジュンは殺害の疑いをかけられることに……。

ちょっと頼りない誘拐犯と天才少女のエンタメ要素抜群なやりとりを交えつつ、謎解き要素をふんだんに含んだ「​​巻き込まれミステリー」をお楽しみください。

目次

ミステリー小説に組み込まれたエンタメ描写

この本の主人公は「誘拐犯」であり、殺人事件の真相にじわじわと迫っていく正真正銘のミステリー小説です。

主人公のミョンジュンは物語の開始早々、殺人事件の現場に遭遇し、自分自身が疑いの目を向けられるという理不尽な展開に陥ってしまいます。

ミョンジュンの心境を考えてみると、「お先真っ暗」といった感じでしょうか。

このような重い空気の状態から物語が始まり、事件を爽快スカッと解決していくところに、ミステリー小説ならではの面白さを感じる方も多いことでしょう。

しかし「誘拐の日」の見所は「ミステリー小説らしさ」だけではありません。

ミステリアスな要素が絡められている点も面白いですが、誘拐犯ミョンジュンと天才少女ロヒのコメディタッチな会話もまた、癖になります。

「ミステリー × エンタメ」という意外性抜群の組み合わせが化学反応を起こした結果、事件モノ特有の暗い雰囲気を漂わせながらも、クスッと笑える要素がふんだんに盛り込まれた小説になっているかと思います。

ミステリー小説が好きな方はもちろん、「事件モノは怖くてちょっと苦手……」という理由で食わず嫌いをしていた方にもおすすめしたい1冊です。

 韓国の社会問題を取り入れた描写から得られる没入感

本章は次々と巻き起こるミステリー事件と、個性豊かなキャラクターのやりとりが交互に組み合わさることで、つい一気読みしてしまうような中毒性を持ち合わせています。

ミステリー小説ならではの面白さは、「現実世界では頻繁に起こらないような事件」や「鋭い洞察力をもとに、最速で事件解決に迫っていく過程」があるからこそ、生まれてくるのでしょう。

こうした背景から、ミステリー小説に対しては現実感を持って読み進める方はそこまで多くないのではないでしょうか。

しかし「誘拐の日」の作品では、韓国の社会問題が情景に浮かぶ要素が散りばめられており、フィクション小説でありながらも、どこか現実味を帯びたあらすじになっているのが興味深い点です。

頭では架空の話であると分かっていても、「格差社会」などのノンフィクションな描写がされているため、主人公に感情移入してしまいそうになります。

非現実的でドラスティックなストーリーを楽しめることも本作品の醍醐味の1つですが、ふとした瞬間に物語の当事者になったような緊張感や没入感を得られる点も、この本の魅力といえるでしょう。

 次々と立ち現れる予想外の展開にドキドキが止まらない!

この作品は長編ミステリー小説ですが、謎解き要素満載で読み応えがあり、最後までストレスなく読み進められることで好評です。

チョンさんは、電子連載コンテストの「事件と真実」部門で大賞受賞、「CJ E&M」「カカオページ」共同主催の推理・ミステリー小説コンテストで金賞受賞などの成績も残しており、ミステリー作家としての実力は本物といえます。

そんな実力者が出版した「誘拐の日」の評判はますます広がり続け、人気ドラマ「キングダム」や「アイリス」などの制作を手掛けた企業であるASTORYによって、ドラマ化も決定しているほどです。

物語の楽しみ方は様々ですが、たとえば、原作小説を読むことなく、最初からドラマを見ることでも十分に楽しめるかと思います。

ですが、個性的な登場人物の心情や人間味溢れる会話などの細やかな描写が盛り込まれた原作は、ドラマだけでは伝えきれない深みのあるストーリーを味わえるのが特徴です。

「原作とドラマのどちらにも興味がある!」という方は、まずは原作を読むことで物語の情景を膨らませた後に、ドラマを通じて新しい発見を楽しむのも良いでしょう。

また、本作は格差社会を代表とする社会問題の描写もされており、緊張感のある物語が進行していきます。

ですがこうした現実的な生々しさを物語に取り入れつつも、キャッチーかつ面白みのある展開が盛り沢山のため、国籍や性別、年齢に関係なく、誰もが楽しめる作品になっています。

二転三転とストーリーが展開していくミステリー小説を求めている方はもちろん、個性的なキャラクター達の軽快なやりとりに感情移入したい方も、ぜひ読んでみていただきたい作品です。

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

目次