結城真一郎『やらなくてもいい宿題』- 天才少年を悩ませる、算数×ミステリーの難問

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数斗は、5年生にして数学オリンピックで優勝したスーパー小学生。

ある時、転校してきたミステリアスな美少女ナイトウさんに、算数の問題を出される。

中学受験で定番の特殊算・つるかめ算の問題だった。

算数大得意の数斗には、お茶の子さいさい。

ササッと解いて見せたが、ナイトウさんは解答を見て一言、「残念でした!」。

そんなわけはない、つるかめ算の解き方は、これでいいはずだ。

しかしその問題には、ある特殊な罠が施されていた。

算数的な解き方だけでは足りず、正解に辿り着くにはミステリー的思考も必要だったのだ。

諦めず、再度問題に挑戦する数斗。

それにしても彼女は、なぜこのように仕掛けのある問題を解かせるのだろうか?

彼女は何が目的で、一体何者なんだ?

目次

子供も大人も楽しめる算数ミステリー

『やらなくてもいい宿題』は、算数好きの5年生・数斗が、謎の転校生・ナイトウさんから出題される算数の難問にチャレンジするジュブナイル小説です。

児童向けですが、大人にも読み応えがたっぷり!

というのもナイトウさんの出す問題は、一見算数の文章題ですが、その中にいくつもの仕掛けが施されているからです。

公式や解法だけに頼るのではなく、頭を柔軟に働かせ、捻りを慎重に見極めることで、ようやく道筋が見えてきます。

推理好きの大人でも考え込んでしまう部分が多々あり、児童書と思ってナメてかかると手痛いしっぺ返しを食らいますよ〜。

それでいてイラストを使ったわかりやすい説明もあるので、高学年くらいの小学生にも楽しめます。

もちろん、問題を解くだけの物語ではないですよ。

事件は起こるし、冒険もあるし、時には人間関係がこじれたり、熱い友情が育まれたりと、ドラマ性もバッチリ!

ジュブナイルらしいドキドキ感やワクワク感を始め、甘酸っぱさやほろ苦さもある、ハートフルな作品です。

クセのある難問揃い

『やらなくてもいい宿題』は、全6編の連作短編集です。

各章で異なるジャンルの特殊算が出題されるので、様々な方向からの謎解きを飽きずに楽しめるようになっています。

しかもいずれも、中学受験特有のクセがある鉄板問題。

おそらく自分自身や子供が中学受験を経験した人でないと、見たこともなければ、解く取っ掛かりさえ掴めない難問です。

たとえば、1問目のつるかめ算。

鶴と亀の頭や足の数から、それぞれ何匹なのか計算する類の問題です。

中学の数学で習う連立方程式で解くことも可能ですが、算数としての立式で解かなければならないところがミソであり、厄介なポイント。

2問目は、旅人算。

2人が離れた場所からお互いに向かって歩いてきた時、何分後に出会うことになるのかを算出する、速度や距離の問題です。

出発時間にズレがあったり、歩くだけでなく電車やバスを使うこともあったりと、これもかなりクセがあります。

3問目は、現在の年齢差と数年後の年齢差から双方が何歳かを算出する、年齢算。

4問目は、川を下ったり遡ったりした時の所要時間から船の速度を算出する、流水算。

5問目は、複数の要素のうち片方が増えて片方が減るという状況で、特定の値を算出するニュートン算。

そしてラスト6問目は、ちょっと毛色が違っていて、特殊な暗号が登場します。

いかがですか?

どれも一筋縄ではいかないニオイがプンプンしますよね。

その上ナイトウさんがミステリー的な罠を巧妙に仕込んでいるのですから、太刀打ちするのはかなり厳しいです。

でも簡単には解かせてもらえないからこそ、解けた時にめちゃめちゃ嬉しいという、謎解きの妙味を味わえます。

算数の難問を解けた時には当然嬉しいし、ミステリーの謎解きができた時も嬉しいですけど、本書ではそれをダブルで堪能できるわけですね!

頭を柔軟に使う楽しさがわかる一冊

『やらなくてもいい宿題』は、新潮ミステリー大賞を受賞した新進気鋭のミステリー作家・結城真一郎さんの作品です。

結城さんの作品は、幾重にも重ねた謎とどんでん返しが魅力で、デビュー作『名もなき星の哀歌』を始め、『真相をお話しします』や『難問の多い料理店』にもその特徴がよくあらわれています。

ところが本書は、なんと算数をテーマとした児童書。

「あの結城さんが児童書を?」と面食らう方も多いかもしれません。

しかしご安心を。

本書はジュブナイルの体裁をとりつつも、れっきとしたミステリー。

常識に囚われていてはまず解けない難問奇問のオンパレードであり、結城ファンを裏切らない手の込んだ一冊となっています。

そもそも結城さんご自身が、日本屈指の偏差値を誇る名門・開成中学の出身であり、かつて中学受験時には多数の難問と向き合ってこられたとか。

そして勉強している時には、問題文に違和感を覚えることがままあったそうです。

「分速50メートルで歩く人が…って、どうして自分の速度を認識しているの?そもそもずっと同じ速度を保つなんてできるの?」

といった具合です。

そういった疑問の数々が積み上げられ、作家となった今、ミステリーとして昇華させたものが、『やらなくてもいい宿題』なのです。

そう考えると、本書はまるで結城さんの少年時代の思いの丈をギュッと詰め込んだような作品と言えますね!

ファンの方はもちろん、中学受験を考えている小学生やその親御さんも、一度読んでみてはいかがでしょうか。

頭を柔軟に使うことの楽しさに、目覚めさせてくれる一冊です。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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