渡辺優『私雨邸の殺人に関する各人の視点』- 複数の視点を組み合わせて真相を暴く新感覚ミステリー

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昭和初期に建てられ、かつて殺人事件が起こったという館・雨邸。

そこに所有者である昭吉と孫3人、大学のミステリ同好会のメンバー、雑誌編集者らが泊まることになった。

ところが嵐が来て雨邸は外界と閉ざされ、クローズドサークルに。

さらに昭吉が、密室の中で何者かに刺し殺されてしまった。

脱出することも警察を呼ぶこともできず探偵もいないこの状況で、残された面々はそれぞれに独自の推理を展開し、手探りで犯人を捜し始める。

この中の一体誰が正解に辿り着くことができるのか、そして犯人は誰で、動機は何なのか。

複数の視点から迫る、今までにない本格密室ミステリ!

目次

探偵ではない複数の人物が推理

『私雨邸の殺人に関する各人の視点』は、嵐の雨邸に閉じ込められた11名の物語です。

嵐、館、クローズドサークルと条件が揃い、お約束のように殺人事件が起こるので、ミステリ好きなら誰もが「本格ミステリが始まるのかな」と思いそうですが、本書はちょっと違っています。

本格ミステリに必須と言える探偵が、登場しないのです。

現場にいるのは、殺された昭吉の孫サクラと梗介と杏花、そして大学のミステリ同好会のメンバーである二ノ宮と一条、雑誌編集者や料理人などなど、いずれも推理の素人。

彼らが知識や経験がないなりに頑張って推理し、犯人探しをするのが『私雨邸の殺人に関する各人の視点』の大筋です。

と言っても皆でワイワイガヤガヤひとつの推理を進めていくのではなく、視点が3人に分かれ、3つの推理が同時進行します。

視点Aが、ミステリ同好会の二ノ宮。

視点Bが、雑誌編集者の牧。

視点Cが、昭吉の孫である梗介。

このABC3名の視点人物が、それぞれ見聞きした情報をもとに考えを巡らせていくのです。

当然3名とも出す意見は違っていますし、そもそも素人なので推理がハチャメチャだったりして、なかなか犯人が絞られないところがポイント。

しかも3人の視点が結構小刻みに切り替わるので、読者はその都度、彼らの主張に振り回されます。

誰が正しいことを言っているのか判断しにくく、だからこそ面白い!

言ってみれば、信頼できない語り手3人に引っ掻き回されながら本格ミステリに挑戦するようなものです。

このハードルの高さが『私雨邸の殺人に関する各人の視点』の魅力であり、従来の本格ミステリとは一味違うワクワクできる部分です。

ABCの視点以外に、視点Xも

視点人物3人がそれぞれ個性的なところも、『私雨邸の殺人に関する各人の視点』の魅力です。

まず視点Aの二ノ宮ですが、彼は日頃から「クローズドサークルを体験してみたいな~」とか「自分が犯人だったらどんなトリックにするかな~」とか妄想を膨らませている、ちょっと痛いタイプ。

なので実際に事件に巻き込まれてからも、ウキウキ気分で状況を満喫します。

視点Bの牧は、明るい二ノ宮と違ってダークでネガティブな思考の持ち主。

他の人物のことも内心で「オタクっぽい大学生」とか「ずうずうしく助けを求めてきた」とか毒づいている皮肉屋です。

実はある人物と知り合いだったのですが、整形しているためにバレていません。

視点Cの梗介は、金髪で無職の29歳。

昭吉のお金をアテにして働かずに楽しく暮らしていたので、「遺産狙いで殺害したのでは?」と疑われます。

でも昭吉の死は彼なりにショックだったようで、推理を楽しむ面々を苦々しく思っています。

このように、立場も気持ちも三者三様。

当然主張もバラバラなので、その中から正しい(と思われる)部分をうまく拾いながら繋げて推理するのは至難の業であり、考え甲斐があります。

しかもなんと視点ABCの他に、謎の視点Xまであったりします。

これがまた、読者のヒントになるようなことを言ってくれたかと思えば、かえって混乱させるようなことを言ったりもするので、やっぱり信用なりません。

でもABCの誰もが知りえなかった情景を見せてくれるため、読者の思考は一層深まりますし、その分物語をより楽しめるようになります。

信頼できない語り手ABC+Xに負けず、ぜひ真実を見抜いてみてくださいね。

この探偵のいない物語で、唯一探偵になれるのは読者かもしれません。

エンタメとしても楽しめる本格ミステリ

コテコテのクローズドサークル物なのに名探偵がおらず、素人探偵たちが素人らしい推理を繰り広げるという、一風変わった本格ミステリでした。

この穴だらけの推理に対して、他の登場人物たちがすかさずツッコミや指摘を入れるので、そのテンポの良さも魅力のひとつです。

おまけに視点人物がコロコロ切り替わるので、読み手を全く退屈させることなく、流れに乗って一気に読ませてくれます。

視点人物の多いクローズドサークル物といえば、ミステリ好きが真っ先に思い浮かぶのが、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』だと思います。

言わずと知れた古典ミステリーの代表格であり、こちらでは視点人物が10人もいる上、その中にフェイクやミスリードも混ぜ込んであるため、謎解きはかなり困難。

『私雨邸の殺人に関する各人の視点』も似た趣向ではありますが、キャラクターたちが一癖も二癖もある個性的な面々であり、推理もツッコミどころ満載であることから、エンタメ的な面白味もあります。

そのためミステリの初心者さんでも入りやすい作品だと思います。

もちろん舞台設定自体は完全に本格派なので、密室モノが好きな人や古典ミステリが好きな方にも嬉しい一冊。

ぜひ練りに練ったクローズドサークルの中に、素人探偵たちと一緒に迷い込んでみてください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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