本書は、明治時代から続く「右園死児(うぞの しにこ)」にまつわる非公式の報告体系である。
「右園死児」とは、国内の随所で漠然と確認されている謎の存在だ。
ある時は人間として、ある時は動物として、またある時は無機物として発現し、その正体は判明していない。
ただひとつはっきりしているのは、「右園死児」の名で呼ばれる存在が現れた時に、災厄が引き起こされるということだ。
その災厄あるいは怪事件についての調査報告や証言は、政府や軍を始め、捜査機関や探偵、果ては一般人に至るまで、数多くの場所から出されている。
これほどの事例が上がっているにもかかわらず、「右園死児」の現象や原理は未だ解明されていない。
生物なのか、物質なのか、病のようなものなのか、超常現象なのか。
この規格外の存在に、我々はどう対応していけば良いのだろう……。
前半は不気味な報告集
『右園死児報告』は、謎の存在「右園死児」に翻弄され、対峙する人々を描いたホラー小説です。
前半では、「右園死児」が引き起こした現象や災いについて、各所から寄せられた報告書が次々に紹介されます。
たとえば、ある復員兵が「右園死児」を名乗ったところ、付近の港町で足のない蛸が網にかかり始めた、という報告。
復員兵はその後、「右園死児」化しているものとして戸籍抹消の上、存在洗浄されました。
また、ある新興宗教の教祖が「右園死児」を名乗ると、200人余りの信者が殺し合いを始めたという報告もあります。
これらは「右園死児」を名乗ることで「右園死児」になった、という事例ですね。
名乗るだけでなく、呼ばれることで「右園死児」化した事例もあります。
学校で「右園死児」と呼ばれるようになった女子高生が、ある朝鏡を見ると、瞳が消失していたというのです。
瞳がなくなっても視力はあり、精神状態も安定していたことから、この女子高生は極めて軽度の「右園死児」化と判断され、軍の機関で看護教育されることになりました。
さらには、風景画や新彗星が「右園死児」化したという事例もあります。
いずれも、画家が油絵を胃に隠蔽して死んだり、新彗星を発表した海外メディア関係者が全員死亡したりと、惨事につながっています。
前半ではこのような報告がひたすら続くのですが、読めば読むほど「右園死児」が一体何なのか混乱してきます。
ホラー小説ですが、怖いというよりも理解不能で不条理な感じ。
何とか解明したくて、ヒント欲しさにどんどん読み進めてしまいます。
後半はド派手なSFバトル風
後半になると、前半での不気味で淡々とした報告集はどこへやら、物語はアクティブなSFバトル物に一変!
「右園死児」の厄災に関わってきた人々が「敵」に立ち向かい、知恵や技術で徹底抗戦するという激アツ展開が始まるのです。
ここからはますますページをめくる手が止められなくなります。
1ページ先ですら、どうなるのか予測がつかないくらい!
特に激しいのが、「右園死児」研究対策の最高責任者・三田倉とのバトル。
三田倉は前半の報告パートでも登場しています。
研究が非合法的だったため政府から追放されたのですが、その後なぜか自ら「右園死児」と名乗って行方をくらまし、どういうわけか青森県の浜に打ち上げられたクジラの死骸の中から発見された、というのが報告内容です。
後半ではこの三田倉が、「右園死児」化して暴走します。
元研究の最高責任者という頭脳と知識とを持つ上、非合法をも辞さない性格ですから、三田村がもたらす被害は甚大!
しかも前半で出てきた蛸や家畜といった要素を使った攻撃をしてくるものだから(蛸のように体を滑らせて、素早く人の腹に手を突っ込んで内臓をかき出したり)、とにかく手に負えません。
さらに厄介なことに、研究者の中には、三田倉の能力、つまり「右園死児」の力を、兵器利用しようと考える者まで出始めます。
やがて数々の「兵器」が集結し、「エツランシャ」と呼ばれる敵と戦うことになるのですが、ここでの盛り上がりは本書最大の見どころです。
凄まじい激闘が繰り広げられ、数多の人間ドラマが交錯し、決着シーンは感動の嵐!
ぜひ「右園死児」がどうなったのか、人類が何を選んだのか、震えがくるほどの結末を見届けてください!
X初の画期的なSFホラー傑作
『右園死児報告』は、アマチュア小説投稿サイト「小説家になろう」でデビューした真島文吉さんの作品です。
真島さんは、いわゆる「なろう系作家」であり、WEB上で絶大な人気を誇っています。
本書『右園死児報告』も、元々はWEBで発表された作品でした。
最初はX(旧Twitter)で画像として連載されていたのですが、その後「カクヨム」での連載が始まり、画期的なアイデアやストーリー展開が注目を集め、めでたく書籍化されたのです。
しかも発売前から重版が決定しており、その後も重版が続き、発売後2ヶ月の時点で6回目の重版を迎えるという、すごすぎる快挙を成し遂げました。
書籍版には、X版にはなかった追加要素(新たな報告書など)もあるため、そのあたりも重版の理由になっていると思います。
とにかく『右園死児報告』は、WEB版も書籍版も大人気の作品!
個人的には、前半と後半のテイストの違いに圧倒されました。
前半が報告書という形式ばった雰囲気を出しているからこそ、後半のぶっ飛んだ熱血バトルが映えるのです。
登場人物も、前半と後半の対比が絶妙です。
報告書内で名前だけが紹介されていた人物が、熱い意志を持って死闘を繰り広げる様子は、まさに鳥肌モノ。
たとえば歴史の教科書で名前だけ出てきた人が、大河ドラマなどの映像で生き生きと動いていると、見ていてテンションが上がりますが、それに近い感じです。
「あの人物に、こんなにも熱い血潮があったのか!」と感動せずにいられないのです。
とにかく前半と後半、テイストが異なるからこそ、それぞれの魅力が際立って感じられました。
読めばどんどん引き込まれていくこと請け合いの傑作です。
ぜひご堪能あれ!