『卵の中の刺殺体 世界最小の密室』- 不完全が引き起こす本格派ミステリー

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龍神の卵の中には、白骨死体。

そして、無惨にも解体され人間テーブルにされた若者。

宮村は、店舗設定を任せられているコルバカフェのオーナー神谷から龍神池近くの別荘に他のコルバカフェの社員たちと共に招待された。

しかし、帰り道である道路に繋がる吊り橋が斜面の崩落によって落ちてしまう。

はじめは、動揺していた社員たちだが、山道を迂回すれば戻れることを知ってから落ち着きを取り戻した。

無事コルバ館にたどり着いた社員たちは、その日の深夜。

密室状態の部屋で、社長の神谷が殺されているのを発見する。

このトリックを解き明かすことができるのは、名探偵・蜘蛛手啓司だけ。

不完全の密室の謎や読者への挑戦状。

そして、最後には作者の罠にハマっていたことに気づく。

ロジカルに組み立てていく、奇抜な現象の真骨頂をお楽しみください。

目次

胃もたれするほどの奇抜な現象&トリック

作者の門前典之氏が求める目標は、「理性においても感性においても、あっと驚かせる本格推理小説を書く」ことです。

そのため、門前典之氏のシリーズは「ここまで、ぶっ飛んだトリックなんてあるのか」とびっくりさせられる作品が多いことが特徴。

今作の「卵の中の刺殺体 世界最小の密室」では、名探偵・蜘蛛手啓司シリーズの6作目となります。

今回は蜘蛛手が、卵型のコンクリートの中に入っていた刺殺体の謎と、別荘の密室状態の部屋で社長が殺される。

また、翌年には、似た状態で新社長が殺された事件の謎を解き明かし犯人を指摘していく内容です。

今作の面白いところは、「胃もたれするほどのトリックの数々」「密室」です。

今作のトリックは「時間トリック」を利用したもの。

2005年から2010年の間の5年間のトキを経て事件が動き出していきます。

また、あらすじでもあったように、コルバ館に向かう途中で吊り橋が斜面の崩落によって落ちてしまいます。

しかし、吊り橋は落ちても別ルートでコルバ館にたどり着けるため「不完全なクロースドサークル」に。

また、密室までも「不完全密室」となっています。

「不完全なクロースドサークル」と「不完全密室」で織り出される、胃もたれするほどのトリックを楽しみたい方にオススメしたい一冊です。

罠にハマったら最後。読者への挑戦状

あなたは、一冊の本に付箋を貼りまくったことはありますか?

今作では、作者から今までのシリーズにはない「読者への挑戦状」が突きつけられます。

読者への挑戦状は以下の通りです。

①ここまで、この物語は以下の状況を満たしている

②次の問題の回答を導き出していただきたい

この問題を見るだけでも面白そうですが、②の問題を解いていくには内容を細かく見る必要があります。

そのために、付箋が必要なのです。

不可解なトリックの流れ、人物関係などを理解していないと解けない問題です。

また、ひとつひとつ細かく読み込んでいかないと作者の罠にハマっていきます。

その罠にハマったことに気づかず、読者への挑戦状に挑んでしまうと、まんまと作者の手のひらの上で踊らされてしまうのです。

そして、数多く繰り出されるトリックでさえ、作者の罠があるかもしれません。

読者とともに考察して真犯人を暴いていく、B級本格はミステリー。

ここまで、真剣に読み込むことができるミステリー小説は、なかなかありません。

時間トリックが好きな方に、オススメしたい一冊です。

倫理観が試されるミステリー小説

著者の門前典之さんは、1957年生まれで、熊本大学の工学部建築学科を卒業しています。

門前典之さんの最初の作品は、舞子悦司名義で投稿し、第7回鮎川哲也賞最終候補になった本格推理長編「啞吼の輪廻」(あくのりんね)で選考委員の鮎川哲也さんにこの作品を1位に推されていました。

そのときは、他の選考委員からの賛同が得られず受賞することはありませんでした。

しかし、1997年九月。

「啞吼の輪廻」(あくのりんね)を「死の命題」と改題して自主出版しました。

また、次の作品「人を喰らう建物」では、第11回鮎川哲也賞受賞を果たしました。

※2001年に「建築屍材」と改題しています。

今回、ご紹介した「卵の中の刺殺体」は、『建築屍材』『浮遊封館』『屍の命題』『首なし男と踊る生首』『エンデンジャード・トリック』の第6作目になるシリーズものです。

もちろん、前5作を読まなくても楽しめますが、門前典之シリーズの「奇抜な数々のトリック」を味わいたいなら、全て読むことがオススメです。

門前典之シリーズは、別名「人間冒涜ミステリーシリーズ」とも呼ばれています。

人間冒涜ミステリーとは、推理・解決の過程において人間を道具のように取り扱うミステリーという意味です。

人間冒涜ミステリーシリーズと呼ばれている理由は、トリックの構築に人体を利用することが多いためです。

今作も死体が解体されて、人間テーブルが完成しています。

このように、過剰な程に繰り返される人体トリックは、読み進めるほど、私たちの倫理を犯し、大切な何かを麻痺させていくのです。

あっと驚くトリックを楽しみたい方は、門前典之ワールドに足を踏み入れてください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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