志駕晃『そしてあなたも騙される』- 心神喪失状態のシングルマザーが陥った借金地獄

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シングルマザーの貴代は、適応障害から退職して無職となり、その後3ヶ月アパートの家賃を滞納したため、退去を迫られていた。

まだ離婚が成立していないため母子手当をもらえず、実家も頼れない貴代は困り果て、ソフト闇金で20万円を借りる。

貸主の未奈美は親切で、審査なしで融資してくれた上、育児相談にも乗ってくれた。

すっかり心を許した貴代は、追加でお金を借り続け、額はみるみる増大。

これにより精神状態はますます悪化し、貴代は心身ともに追い詰められる。

一方ソフト闇金業者の沼尻は、「師匠」から貸し付けや取り立てのテクニックを学んでいた。

金銭的に困っている人にうまく突け入り、あの手この手で金を巻き上げるのだ。

要は人を騙す仕事だが、生活のためにはやむをえなかった。

騙される側と騙す側、二つの物語は交錯し、やがて衝撃の事態を引き起こす。

そしてその時、あなたは気付くだろう。自分までもが騙されていたことに―。

目次

騙され、堕ちてゆく物語

『そしてあなたも騙される』は、ソフト闇金をテーマとしたミステリー長編です。

ソフト闇金とは一種の高利貸しのことで、いわゆる闇金と比べると、対応や取り立てが比較的マイルドです。

でも金利が法外だという点では同じなので、返済が遅れるほど借金が異常なレベルで膨れ上がり、恐ろしいことになります。

『そしてあなたも騙される』は、このソフト闇金を利用する側(騙される側)と、利用させる側(騙す側)の二つの視点で語られる、二部構成の物語となっています。

第一部は「騙される側」の物語で、シングルマザーの貴代が主人公。

貴代はDV夫から逃げて、小2の娘と二人でアパートで暮らしています。

離婚前なので母子手当はなく、実家の母は認知症なので頼れず、その上心身を病んで退職したため家賃も払えなくなってしまいました。

やむなくソフト闇金に手を出したところ、スタッフの未奈美にそれはもう優しく接してもらえて、ついホロリ。

その上、大金をポンと簡単に貸してもらえたものだから、貴代はすっかりソフト闇金にハマってしまい、追加でお金を借り続け、あれよあれよという間に借金地獄に陥ります。

この過程、読んでいるとかなり恐ろしいです。

未奈美の甘い言葉で客を釣るテクニックもですが、それにまんまと引っ掛かり騙されていく貴代の愚かしさが、とにかく怖い!

心身が弱っていると、こうも正常な判断ができなくなるものなのでしょうか。

やがてどうしても借金を返せなくなった貴代は、未奈美にソフト闇金に勧誘されます。

つまり貴代にも、人を騙す側になって金を巻き上げろ、ということですね。

騙されたままでいるのか、騙す側に回るのか、さて貴代はどちらを選択するのでしょうか?

苦悩しつつも、騙す物語

第二部では、「騙す側」の視点で物語が進行します。

沼尻という人物が、師匠から騙しの手口を学びながら人をどんどん陥れていくのですが、この沼尻の正体がミソ。

性別や下の名前が明かされないので、ぱっと見は誰のことだかわからないようになっています。

でも読者には、第一部の流れから、「もしかしてあの人かな?」と思い当たる人物がいるはずです。

この人物が、生活のためとはいえ、人を騙す手口をどう学び、どう駆使していくのか。

客の中にはなかなか返済してくれない人もおり、そういう人にどう対応していくのか。

生きていくために必死なのは騙す側も騙される側も同じなので、そこには緊迫感あるドラマが生まれます。

どちらもひどく追い詰められているため、読者は騙される側を気の毒に思いつつも、騙す側のことも応援したくなり、二重にハラハラドキドキしながら読めるでしょう。

そして終盤に起こる事件、これが本書最大の見どころ!

騙す側と騙された側がどんな末路を辿るのか、ソフト闇金業者の正体は誰だったのか、衝撃の真相が明かされます。

強烈などんでん返しに、きっと多くの読者が度肝を抜かれ、慌ててページを大きく遡ると思います。

一体どこで自分がミスリードに引っ掛かったのかを確認するためです。

つまり、騙し騙されがテーマのこの作品、読者も立派な騙され役だったということですね。

『そしてあなたも騙される』というタイトルが、ここにきて回収されるわけです。

いや~、鮮やかですね!

清々しいほどのどんでん返しを楽しめる

『そしてあなたも騙される』は、『スマホを落としただけなのに』で知られる志駕晃さんの作品です。

『スマホを~』は、どんでん返しに次ぐどんでん返しが注目を集め、映画化もされた傑作ミステリーです。

そして本書『そしてあなたも騙される』も、やはりどんでん返しがキラリと光っており、読者を最後まで油断させずに楽しませてくれる作品です。

借金地獄に陥る様子をリアルに描き出した第一部も、ソフト闇金業者の手練手管と苦悩を描いた第二部も、どちらもスリリングで目が離せないドラマですが、なんといっても終盤の真相の明かし方が秀逸!

読者がそれまで信じ込んできたことが、たったワンシーンでいとも簡単にひっくり返されるのは、悔しいを通り越して清々しいくらいです。

だからこそ読者は二度読みせずにはいられなくなりますし、自分がどこから騙されていたのか確認できた後は、大きな納得感と満足感とを得て本を閉じることができるのです。

この鮮やかなどんでん返しと爽やかな読後感は、志駕晃さんの作品ならではですね!

志駕晃さんのファン、とりわけ『スマホを落としただけなのに』がお好きな方は、ぜひ本書も読んでみてください。

ダークな展開と切れ味抜群のオチを心行くまで堪能できます!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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