梨 『その怪文書を読みましたか』- 街角の不気味な張り紙に秘められた真意とは

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電柱や民家の塀、バス停、掲示板など、怪文書は町のあちこちに貼られている。

内容は、警告文だったり、誹謗中傷だったり、宗教の勧誘だったりと様々で、意味が通じるものもあれば、文脈があやふやなものもある。

しかし一見意味不明の文書に見えても、もしかしたら裏に何らかの意図が隠されているかもしれない。

本書は、ホラー作家・梨氏が収集した怪文書100点以上を収録し、要所要所に氏のコメントを添えたものである。

誰が、いつどんな状況で、何のために書いた怪文書なのか、ぜひ考察しながら読んでほしい。

もしもそれぞれの怪文書に秘められている真意が見えてきたとしたら…。

その訴えかけを理解し、万が一選ばれてしまったら……。

気を付けた方がいい。

―この書籍は、普通ではない―。

目次

意図を探りたくなる一種のミステリー

『その怪文書を読みましたか』は、ホラー作家の梨さんの怪文書コレクションの写真とコメントとを紹介する書籍です。

パッと見は、写真集みたいな感じですね。

それぞれの怪文書は内容がバラバラで、意味が通っていないものも多いです。

「あなたの犬くれませんか」

「あなたの人生返品しませんか?」

「もうすぐなのでこの道は通らない方がいいです」

「私に近付いた人は警察に通報します。私は猫です」

「当選おめでとうございます」

といった具合で、内容は多岐に渡ります。

でも一枚ずつ見ていくうちに、少しずつ共通点があることがわかってきます。

そのため読者は、さらなる共通点を探し、裏に隠れているであろう意図を見つけ出そうとします。

つまり本書は、怪文書の写真集に見せかけた考察本であり、一種のミステリーとも言えるのです。

と、同時にホラーとしての側面もあります。

というのも、ひとつひとつの怪文書が、めちゃめちゃ怖いのですよ。

なんせ写真なので、怪文書の用紙や貼られている場所もリアルに写っていて、それらの雰囲気が異様!

黄ばんでいたり、グシャグシャだったり、不自然に破られていたり。

場所も、シミや錆だらけの壁だったり、ドラム缶に隙間なくビッシリだったり、「なぜこんな場所に?」と眉をしかめたくなるほど。

筆跡も、歪んでいたり、うねっていたり、極端にたどたどしかったりで、病んでる感がすさまじい。

美しい達筆や活字もあるのですが、それはそれで厳めしい迫力があって怖い。

文章だって、急に話が飛んだり、現実ではありえない状況が書かれていたり、ちょっと正気とは思えなくて、見ているとこちらのメンタルまでやられてきそうです。

視覚的にキツいので、薄気味悪い写真が苦手な方は要注意かもしれません。

逆に好きな方の場合、もうかなり興味津々で楽しめると思います!

見たら忘れられない「妖精さん」

さて、数々の怪文書を見ていくと、どんな共通点が見えてくるのかというと、まずは筆跡。

「あれ、この字、さっきも見たような…」

と、どう見ても同一人物が書いたとしか思えない特徴的な筆跡がちらほら出てくるのです。

また一部の怪文書では、貼ってある場所や貼り方が一致していることがわかってきます。

さらに文章の雰囲気や内容が共通している場合もあります。

そして極めつけが、「妖精さん」というワード。

なんとなく可愛らしいイメージのある言葉ですが、本書に登場する「妖精さん」は、それとは全くかけ離れた存在です。

怪異…ではないのですが、宗教的というか、それよりもっと上の存在というか…。

正体については、ハッキリとは明記されていないので、よくわかりません。

でもたくさんの怪文書に、ワードそのものや、「妖精さん」を思わせる表現や絵があるのです。

なぜ異なる怪文書に、こうまで共通点があるのか。

読者は、ますます考察にのめり込んでいくことでしょう。

ちなみに「妖精さん」を模した人形の写真も掲載されているのですが、これがまたものすごく強烈で、見た瞬間ギョッとして心臓が止まりそうになるほどのインパクトがあります。

目に入れたが最後、多分ずっと頭の中に残って、簡単には忘れられなくなると思います。

でも怖いからこそ、好奇心の強い方であれば、より一層考察せずにはいられなくなるのですよね。

この本には、そういう力があります。恐怖心と一緒に興味を駆り立てて、深みへと引きずり込み、抜け出せなくする力が……。

話題沸騰の展覧会を書籍化

いや~、怖い怖い!

ホラー小説ではないのですが、それを読んだ時か、あるいはそれ以上の恐怖に心が縛られる作品です。

実は『その怪文書を読みましたか』は、もともとは書籍ではなく展覧会でした。

その展覧会は、梨さんが某ホラー専門の制作会社と共同で企画したもので、渋谷や横浜など各地で開催されました。

会場にはもちろん、怪文書の実物がズラーリ。当然「妖精さん」のお人形も……。

あまりの怖さにたちまち話題となり、入場チケットは即入手が困難な状況になったとか!

本書は、この展覧会で展示されたものを、写真として収録したものです。

展覧会に足を運べなかった方も、その雰囲気を十分に堪能できるように作られています。

本の帯に大きく明記されているので明かしてしまいますが、実は掲載されている怪文書は「全てフィクション」です。

そう、作り話であり、事実ではないのです。

でも、そうとはわかっていても、見るとめちゃめちゃ怖いッ!

最初は病んでる感が気味悪くて、中盤くらいで共通点が見えてくるとハッキリと恐怖を感じ、終盤では「あちら側」に引っ張られるのではないかと顔面蒼白で逃げ出したくなる。

この怖さは、実際に見てみることで、初めてわかると思います。

興味のある方、そして気をしっかり強く持てる方は、読んでみてくださいね。

念のために言っておきますが、くれぐれも自己責任でお願いします。

もしかしたら…「選ばれる」かもしれないので……。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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