石井 唯は、死にたいと思いつつも、だらだらと日々を過ごしてきた中学二年生。
ある時気が付くと、見慣れない真っ白い部屋にいた。
なぜか体操着を着ていて、首には金属製の頑丈な首輪。
自分以外にも幅広い年齢層の人々がいて、全員が体操着に首輪をつけていた。
いぶかっていると、アナウンスによって唐突にドッジボールが始まる。
アウトになった人は、首輪が爆発して死んだ…。
そう、これはデスゲームだった。
この場に集められた人々がゲームをして、負けたら殺され、勝った者だけが生還できるのだ。
しかも奇妙なことに、参加者は全員、名字が「石井」だった。
唯を始め、石井の名を持つ者のみが集められていたのだ。
その数、333人。
これから333人の石井たちが、殺し合う。
一体どの石井が勝ち残るのか。
そもそもなぜ、石井ばかりが集められたのか。
スリル抜群、頭脳フル回転のデスゲーム
『死んだ石井の大群』は、「石井」の名を持つ者たちのデスゲームを描いたサスペンス・ミステリーです。
メンバーは最初から白い部屋に集められており、冒頭ですぐに殺し合いが勃発!
ゲームはドッジボール形式で、アウトになれば首輪の仕掛けが発動して即死です。
なんせ333名もいるので、死ぬわ死ぬわ。
「石井 京平さん、アウト」「石井 弥栄子さん、アウト」といった具合で、いろんな石井たちが続々に死んでいきます。
1時間後、ドッジボールが終わった時には、333名の石井がわずか12名に。
タイトル通り死んだ石井の山ができたわけです。
もちろん会場は血みどろの状態ですが、ひとつひとつの死がアッサリと描かれているためか、さほどグロい感じでもなく、読みやすいのは救いですね。
それ以上に読者の目を引くのが、ゲーム性の高さ。
ドッジボール以外に、しりとり形式やじゃんけん形式でデスゲームが行われるのですが、いずれも生死を賭けたスリルはもちろん、頭脳戦や心理戦のスリルもあるのです。
たとえばドッジボールでは、ボールを当てられても、床に落ちる前に他のメンバーがキャッチすればセーフになりますよね。
キャッチしてもらえるか、せずに見殺しにされるかは相手次第なので、そこが難しい。
またしりとりの場合は、禁字ルール(指定文字が含まれる単語を言うとアウトになる)があるため、いかに安全な文字のみを使って単語を作るかが肝心です。
制限時間はたった10秒なので、超シビア!
そしてじゃんけんの場合、後出しは当然アウトなので、それを逆手にとって相手の後出しを誘発することが可能です。
でも逆に自分が誘発される可能性もあるわけで…。
このように、一見単純そうなゲームでも決して単純ではなく、頭脳フル回転で挑む必要がありますし、時には駆け引きや心理戦も必要になります。
この極限状態でのハラハラ感が、たまらない!
物語の鍵を握る探偵パート
物語は大きく二つのパートに分かれており、ひとつはデスゲームのパート。
もうひとつは探偵の伏見による、人探しパートです。
伏見が捜しているのは、行方不明になった石井有一という役者。
名字から想像がつくように、有一はデスゲームの真っ最中。
そうとは知らない伏見は、有一の足取りを彼の性格や過去から居場所を探り出していきます。
こちらのパートも、すごく興味深いです。
なぜなら伏見が有一の場所を突き止めれば、デスゲームの開催場所も判明するからです。
これにより、デスゲームを中断させることもできるかもしれません。
さらに主催者の正体も明らかにできるかも?
つまり、デスゲームがどうなるかは伏見次第なのですね。
まさに物語の鍵を握るパートですよね!
また伏見には蜂須賀という助手がいて、二人の掛け合いも見どころのひとつ。
伏見は作家志望で、蜂須賀は芸人が本職なので、どちらも言葉が巧みで、会話がまるでコントなのです。
ボケの内容もツッコミのテンポも絶妙で、読みながら吹き出してしまう場面も多いです。
心臓バクバクのスリルが続くデスゲームパートと違って、こちらは気軽に読めるので、物語の中で一種の清涼剤になっていると思います。
伏見が一体どんな真相を掴むのか、デスゲームはどうなるのか、どの石井が生き残るのか、主催者は誰なのか、最終的には全て明らかになります。
意外な展開にかなり驚かされますが、同時に大きな納得感も得られますし、きれいなオチもつくので、読後感はデスゲーム物とは思えないくらい爽やかです。
独自の死生観が胸に響く
『死んだ石井の大群』の作者・金子玲介さんは、第65回メフィスト賞を受賞してデビューした作家さんです。
もとは純文学での作家デビューを目指していたそうですが、エンターテイメント小説『死んだ山田と教室』を執筆してみたところ、見事に大当たり!
メフィスト賞を受賞した上、『本の雑誌』の2024年度上半期ベスト1に選ばれ、映像化もされてと、どんどん話題になっていきました。
そして本書『死んだ石井の大群』は、受賞後の記念すべき一作目。
さすがデビュー作でいきなり大ブレイクした金子さんの作品、読者の興味を引き付けるぶっ飛んだストーリー展開といい、テンポの良さといい、ページが続く限りどこまででも読み続けたくなるくらいのパワーがあります。
基本的にセリフが多くて読みやすいところも、魅力のひとつ。
また、金子さん独自の死生観が描かれているところも特徴的です。
『死んだ山田と教室』もそうでしたが、金子さんの作品には、死ぬことと生きることに対するメッセージがさりげなく練り込まれています。
さりげないけど、でも読者の胸には強烈に響きます。
生きる目的は何なのか、今現在は何を理由にして生きているのか、死ぬことは何を意味するのか、などなど、読者は考えずにいられなくなるのです。
その上で、これからも生きていたいと強く強く思えるようになります。
このメッセージ性は、純文学で学んだ金子さんならではかもしれませんね。
そういう部分も含めて、『死んだ石井の大群』は読者に大きな影響を与える作品です。
気軽に読めるのに心に長く残り続ける傑作ですので、ぜひ!