森晶麿『切断島の殺戮理論』- 隠蔽された異形の島で、狂気の殺戮が始まる

  • URLをコピーしました!

大学四年生の岩井戸は、学業にも就職活動にもさほど情熱を注いでこなかった。

しかし文化人類学の植原カノン教授に一目惚れしてからは、彼女の講義を最前列で受け、レポートも熱に浮かされたかのように一気に書き上げた。

そのレポートが植原の目に留まり、岩井戸は大学内の最強頭脳集団「桐村研」のサブメンバーとして招待され、フィールドワークに同行することに。

行き先は、島根県の西端に浮かぶ鳥喰島。

地図にもないその孤島に到着した岩井戸は、驚愕した。

鳥喰島には異様な因習があり、島民は成人の儀式として身体の一部を切断していたのだ。

目のない者、耳のない者、手や足のない者…、島の成人は、皆一様に身体のどこかが欠落している。

やがて島では、島民だけでなく桐村研のメンバーをも巻き込む殺戮が始まり―。

目次

異様な島の異様な島民たち

『切断島の殺戮理論』は、鳥喰島で起こる猟奇的な殺戮を描いた本格ミステリーです。

ミステリーではありますが、その枠に収まりきらないほどの展開や設定が多く、読者を予想外の方向へ振り回してくれます。

序盤の展開からして、謎めいています。

大学生の岩井戸が「食人文化」についてのレポートを評価されるのですが、このレポートが奇妙で、どうも本人が「無意識で」書いたようなのです。

睡魔が訪れて、目が覚めた時にはなぜか完成しており、しかも自分にしては出来が良すぎるということで、なんだかホラーっぽいですね。

そもそも「食人文化」というジャンルも、不気味で何かありそうです。

そしてフィールドワークのメンバーに抜擢された岩井戸が向かったのは、地図にも載っていない孤島・鳥喰島。

地図に載っていないのは、面積が小さいからではなく、政府に隠蔽されているから。

なんと鳥喰島は、国家ぐるみで存在をひた隠しにされている場所なのです。

こんなの絶対、後ろ暗い何かがありそうですよね!

実際に岩井戸たちは、ここでゾッとするような恐ろしい光景を目にします。

島には「鷲族」と呼ばれる人々と「鴉族」と呼ばれる人々がおり、どちらも体の一部が欠損していたのです。

「鷲族」は顔の一部が、「鴉族」は身体の一部が意図的に切り取られています。

まさにタイトルにある「切断島」通りの島であり、皆が歪な身体で不自然な動きをしていて、読者も読みながら心臓バクバク。

島民たちはなぜこのようなことをしているのか、そもそもこの島に隠されているのは何なのか。

そしてただならぬ気配と謎が渦巻く中、突然人が殺されます。

それも、続けざまに何人もが惨殺されていくのです。

狂気の殺戮からの超展開

鳥喰島には、やはりダークな歴史や因習がありました。

かつて江戸時代には囚人の流刑地だったこと。

そこから「欠落を美と見做す」という歪んだ倫理が育ち、鷲族や鴉族は16歳になると身体の一部を切り取る習わしになっていること。

どこも欠損していない人は逆に不完全であり、人権すらも認められないこと。

島には塔があり、そこには酉鬼と呼ばれる現人神がいること。

どれも残酷でグロくて、妄執や狂気に満ちていて、身震いせずにはいられない内容です。

しかもこのような中で連続殺人事件が起こりますし、ものすごい勢いで人が死んでいくのに、犯人の正体も動機も、全く全然見えてこないのです。

鷲族も鴉族が怪しいのはもちろんのこと、桐村研のメンバーも何か隠していて挙動不審だし、内閣から派遣されたとかいう医師や官僚たちも胡散臭いしで、もう誰のことも信用できない状況。

この中で岩井戸はどう行動するのか、読者としては気になるところですが、そもそも岩井戸のことすら、読者には怪しく見えます。

例のレポートなんて、明らかに何か裏がありそうですからね。

ところが犯人を予想しながら読んでいると、終盤に物語は大きくうねり、想像だにしなかった展開を迎えます。

ここが、ミステリーの枠を大きく超えてくる部分です。

ファンタジーと言うべきか、あるいはSFと言うべきか、とにかく既存の概念ではとらえきれないほどの超展開で、読み応えがすごいですよ。

探偵役もいてロジカルな推理を楽しめるので、基本はミステリーなのですが、それに加えて様々なジャンルの面白味が一気に押し寄せてきて、大爆発する感じです。

詳しくは伏せますが、最後の瞬間まで刺激たっぷりに味わえること間違いなしです!

ミステリカーニバルに相応しい一冊

『切断島の殺戮理論』は、星海社の「令和の新本格ミステリカーニバル」の一冊として刊行された作品です。

作者の森晶麿さんは、「黒猫」シリーズで知られる作家さんで、第1回アガサ・クリスティー賞を受賞したほどの実力派。

本書『切断島の殺戮理論』も、その実力がいかんなく発揮された作品だと思います。

冒頭から、なぜか勝手に完成していたレポートや政府に隠蔽されている島など、怪しすぎる要素を次々に出しては読者をモヤモヤさせ、そこから島民の因習や大量殺戮で一気にショックを与える手腕は見事です。

読者としては、どうしたってモヤモヤの真相を探りたくなりますし、ショックを受ければ救いの有無を確認したくなりますし、もう否応なしに読み続けることになります。

しかもショックは一度や二度でなく、三度四度と繰り返し襲い掛かってくるので、ページをめくる手は必然的にノンストップ。

そして極めつけは、終盤のぶっ飛び展開です。

あれはもう、たとえるなら止まらないジェットコースターのようなもので、右へ左へと読者を激しく翻弄しながらラストまで突っ走ります。

ジャンルや倫理はお構いなしの奔放さで、それでいてロジックはガチガチに固めてあり、知的好奇心をかなり刺激してきますよ。

読者は怒涛の勢いで読まされながら、最終的には大きな達成感をもって読了となることでしょう。

これほど圧倒的な牽引力があるのですから、『切断島の殺戮理論』は「令和の新本格ミステリカーニバル」に真に相応しい一冊だと思います。

グロ描写があるため好みの分かれる作品ではありますが、刺激ある読書を楽しみたい方にはもってこいです。

興味を持たれましたら、ぜひ!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

目次