烏丸尚奇『呪いと殺しは飯のタネ』- 創業者一家に隠された恐ろしい秘密とは

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オリジナル作品を書けない作家・烏丸尚奇は、生活のために伝記を執筆するという退屈な日々を過ごしていた。

ある日、大企業の創始者である深山波平の伝記を書く依頼が来た。

報酬が破格の高さであり、しかも「刺激を約束する」という興味深いメッセージが添えられていたことから、烏丸は依頼を引き受ける。

さっそく、創始者一家が暮らしていたという屋敷へと取材に向かう烏丸。

しかし調べれば調べるほど、この屋敷も家人もひどく胡散臭いことがわかってきた。

地下には拷問部屋があり、夫人は自殺、長女は植物人間に、そして次女は奇行から魔女と呼ばれていた上、行方不明。

一体、深山家にどのような謎が隠されているのか、烏丸は無事に伝記を書き上げることができるのか。

恐怖と興味が止まらない、スリル満点の冒険ミステリー!

目次

呪われた深山一家の謎

『呪いと殺しは飯のタネ』は、伝記作家の烏丸尚奇が取材に行った先で事件や陰謀に巻き込まれる物語です。

作家根性でついあれこれ首を突っ込んでしまい、大変な秘密を見つけてしまうのです。

この取材、まず依頼の段階から怪しさ満点。

ある大企業の創始者・深山波平の伝記を執筆するという内容はともかく、報酬は予想の3倍以上で、しかも「感電死するほどの刺激」まで約束されます。

この時点で、何やらヤバそうな匂いがプンプン!

しかし刺激に飢えていた烏丸は、依頼に飛びついてしまいます。

そしてさっそく深山が住んでいた屋敷に向かうのですが、道中の電車内で

「深山一家は呪われている」

と耳にします。

やっぱり怪しい仕事だったのですね!

案の定、屋敷に到着してからは、恐ろしい事実が次々に発覚します。

・13年前に、深山の妻が不審死
・本人も、6年前に心筋梗塞で死亡
・長女は突然倒れて、今現在も植物人間状態
・次女は血生臭い奇行に走り、失踪
・地下室があり、監禁や拷問が行われていた

もう、怪しげな情報が出るわ出るわ。

ページをめくるたびにギョッとさせられるので、怖いもの見たさで、時間を忘れてグングン読み進んでしまいます。

当の本人の烏丸も同じで、怖いながらも好奇心が止まらず、取材しまくります。

屋敷の使用人にはもちろん、博物館の館長や警察署長、次女の同級生などなどに話を聞いて回るのです。

その過程でも怖い情報はどんどん出てきて、たとえば無数の噛み跡がある少女の遺体や、動物を岩で潰し首を折って殺すことなど、「グロ注意」な内容もあったりします。

それらが烏丸をますます取材に没頭させますし、読者もますます目を離せなくなります。

作家の性(さが)と大どんでん返し

『呪いと殺しは飯のタネ』には、深山一家の異常性以外に、もうひとつ大きな見どころがあります。

主人公・烏丸の、作家としての「在り方」です。

烏丸はデビュー作こそオリジナルのミステリーであり、売れ行きも良かったのですが、その後はアイデアが浮かばず、執筆できなくなりました。

そのため伝記、つまり他人の人生をベースとした小説を書くことにしたのです。

だからこそ烏丸は、「感電死するほどの刺激」を約束された怪しい依頼を引き受けたわけですね。

そのくらい、ネタに飢えていたのでしょう。

そして深山家の闇に首を突っ込み、タイトル通り呪いだの殺しだのに巻き込まれ、飯のタネをゲットできて万々歳!

特に次女の奇行に興味津々で、彼女を題材にした一大ミステリーを書きたくなり、そのために伝記の方は契約を破棄しようとまで考えます。

なぜなら伝記はあくまで伝記であり、人物像や創業した会社のイメージを悪くしないためにも、血生臭いことをあまり書くわけにはいかないからです。

目の前にこんなにもおどろおどろしい美味しいネタが転がっているのに、清く正しく美しい伝記を書くなんてつまらない、といった気持ちでしょう。

そんなわけで、伝記作家ではなくミステリー作家としてヤル気になった烏丸ですが、終盤になって、とんでもなく恐ろしい真相が発覚します。

どう恐ろしいって、「ここまで腹黒い企みが許されるのか?」とゾッとするほどで、烏丸の未来が心配でたまらなくなります。

彼はこの先、命を落とさずにいられるのでしょうか…?

壮絶な恐怖を残したこのラストは、ものすごく後を引き『呪いと殺しは飯のタネ』を忘れられない作品にしてくれます!

主人公=作者ゆえのリアリティ

『呪いと殺しは飯のタネ』は、第20回「このミステリーがすごい!大賞」の隠し玉に選ばれた作品です。

「隠し玉」とは、受賞を惜しくも逃したものの、優れているために書籍として世に出される作品のことで、いわば敗者復活戦を勝ち上がった力作。

過去には、刊行どころか映画化された作品もあったほどで、そこからも「隠し玉」がどれほどの優秀作であるかがおわかりいただけるかと思います。

さて、この「隠し玉」に見事選ばれた『呪いと殺しは飯のタネ』ですが、最大の魅力はなんといっても、最後の最後に出てくるどんでん返し。

「これはヤバい!」と思わず身震いしてしまうほどの衝撃です。

続編があるなら絶対に読みたいですし、その続編もおそらくハッピーエンドにはならず、その後も恐怖が続くことになるだろうと予想できてしまいます。

そのくらい恐ろしいカルマを、作家・烏丸尚奇は背負ってしまったのです。

そして面白いことに、主人公の「烏丸尚奇」という名は、作者の名前でもあります。

かのエラリー・クイーンや有栖川有栖さんと同じ、自身の名前を登場人物の名前に使うという手法ですね。

この手法では、読者が物語を「作家が実際に体験したリアルな出来事」のように思えるところがミソです。

『呪いと殺しは飯のタネ』の場合、最後に烏丸が背負うことになったカルマも、作者自身が背負っているように読者には感じられるわけですね。

だからこそ読者は一層、烏丸の身を案じ、続編を期待したくなってしまいます。

どうかどうか無事に続編を書き上げ、平和なラストを迎えてくれるよう祈らずにはいられません!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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