結城真一郎『難問の多い料理店』- 安楽椅子探偵シェフが謎解きをデリバリー

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大学生の僕は、一人暮らしの費用をバイトで稼いでいた。

最近特に入れ込んでいるバイトが、ゴーストレストランのデリバリー、通称ビーバーイーツ配達員だ。

ある日僕は、オーナーシェフから妙な配達を頼まれた。

言われた住所に、USBメモリを届けてほしいというのだ。

食事の配達ではないだけでも驚きなのに、その上報酬がなんと即金で一万円!

嘘みたいに美味しすぎる話で胡散臭いが、日銭を稼がなければならない貧乏学生の僕に、断る選択肢はなかった。

さっそく引き受けると、オーナーシェフは冷たい目をして言い放った。

「絶対口外しないように。もし口外したら、命はない」

これは、命にかかわるような配達なのか?

一体僕は、何を運ばされるんだ?

目次

難問を受注して答えを届ける配達員

『難問の多い料理店』は、とあるゴーストレストランを舞台とした全6話の連作短編集です。

宮沢賢治の『注文の多い料理店』を彷彿とさせるタイトルが興味深いですね。

と言っても内容は全く異なっていて、特徴を一言で言うと、フードデリバリーならぬ「謎解きデリバリー」といったところ。

このレストランでは、料理の注文以外に「謎」も受け付けているのです。

オーナーは人間とは思えないくらい眉目秀麗な青年で、料理はかなりの腕前らしく、カレーに餃子、タイ料理など何でもござれ。

さらに推理力も確かで、特殊セットメニューとして謎解きを受注しては、配達員に聞き取り調査に行かせて、その情報をもとに厨房で推理しています。

配達員が持ち帰った謎はタイトル通り難問だらけで、焼死体の謎や、指が欠損した遺体の謎、果ては人間消失の謎など、一筋縄ではいかないものばかり。

でもシェフは配達員から情報を聞くだけで、フライパン片手にスイスイと推理して、答えを導き出します。

そして謎解きが終わると、配達員がまた客のもとに行って答えを届けるわけですね。

これが各話に共通する流れです。

そう、この物語は、いわゆる安楽椅子探偵モノのミステリーなのです。

それも探偵役が超絶美形で料理も上手という、なんとも美味しい設定!

このすこぶる魅力的な探偵が、一体どんな名推理を見せてくれるのでしょうか?

ワクワクドキドキ、待ったなし!

各話のあらすじと見どころ

『転んでもただでは起きないふわ玉豆苗スープ事件』

アパート住まいの大学生が、煙草の不始末で火事を起こしてしまいます。

焼け跡からは、なぜか住人ではない女性の焼死体が見つかり、シェフが謎解きを依頼されます。

第一話ということで、まずはシェフの腕前がたっぷりと披露されます。

わずかな情報から全ての真相を引きずり出したシェフの洞察力に、拍手したくなる作品です。

『おしどり夫婦のガリバタチキンスープ事件』

交通事故で亡くなった夫の遺体から、指が二本欠損していました。

妻が警察に尋ねると、事故より前に欠損していたらしく―?

さりげない伏線と意外な真相とがマッチする瞬間が絶妙な作品。

夫婦のあり方について、じんわり残る余韻が味わい深いです。

『ままならぬ世のオニオントマトスープ事件』

空き巣が入ったものの、元ラグビー部の兄が捕まえて事なきを得ました。

でも引きこもりの妹が、この件以来ますます心を閉ざすようになり―。

家庭ごとに悩みや問題があり、抱えながら懸命に生きていることを考えさせられる作品。

『異常値レベルの具だくさんユッケジャンスープ事件』

女性客がビーバーイーツに注文を入れたところ、配達されてきたのはなぜか新品のマフラー。

ちょうどマフラーを失くしたばかりだったので、タイミングの良さが怖くなり―。

タイトルの「異常値レベル」が示す通り、なんともダークな物語。

だからこそスッキリ片を付けたシェフの手腕がカッコよすぎです!

『悪霊退散手羽元サムゲタン風スープ事件』

マンションの空き部屋に、なぜか日々餃子が配達されてくる物語。

やがて他のものも届けられるようになり、積もり積もって山になってしまい―?

シュールな展開と捻りのあるオチが絶妙!

ミステリーのプロが厳選した短編集『本格王2024』にも選出された傑作ですよ。

『知らぬが仏のワンタンコチュジャンスープ事件』

マンションにいるはずの人間が忽然と姿を消してしまいます。

一体何があったのか、消失の裏に隠された秘密にシェフが迫ります。

さらにシェフ本人に秘められた謎まで見えてきて、ラストでは読者に凄まじい衝撃を与えます!

複数の配達員の目を通して見る多彩な事件

『難問の多い料理店』は、注目の若手作家・結城真一郎さんの作品です。

結城 真一郎さんは、「令和最強のミステリー」と称えられ大ブレイクしたミステリー短編集『#真相をお話しします』の作者と知られています。

そして大きな期待を背負って発表した次の作品が、本書『難問の多い料理店』なのです。

お得意の斬新なアイデアと痛烈などんでん返しが光っており、個人的には『#真相をお話しします』に勝るとも劣らない力作だと思います!

特に秀逸なのは、語り手がビーバーイーツの配達員であるところ。

配達員は、厨房にいるシェフに代わって客と情報のやり取りをするので、さしずめワトソン役ですよね。

客から奇妙な事件について聞かされては、自分なりにあれこれ推理して、でも結局謎を解けなくて、混乱しながらシェフに届けに行く様子に、読者はつい自分を重ねて見てしまいます。

そして感情移入することで、作品を一層楽しく味わえるのです。

さらに語り手は一人ではなく、最終話以外はそれぞれ異なる配達員となっています。

第一話では、生活費を自分で稼ぐ貧乏学生。

第二話では、会社が倒産したためバイトで暮らす男性。

第三話では、養育費が支払われず困っているシングルマザー。

他にも、不健康なライターや売れない芸人など、様々な立場の人間がビーバーイーツ配達員となって、西へ東へと謎を持って駆け回ります。

この複数のワトソンが、読者に色とりどりな人生を見せながら、謎解きをさらに楽しませてくれるのですよね。

安楽椅子探偵モノのミステリーがお好きな方には、刺さること間違いなしの作品です。

ぜひご堪能ください!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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