潮谷験『ミノタウロス現象』- 突然怪物が現れた!撃ち殺すと中身が政治家で…!?

  • URLをコピーしました!

オーストラリアの牧場に化け物が出現した。

ギリシャ神話に登場するミノタウロスのような化け物で、体は人間、頭は牛、身の丈3メートル。

化け物はインド、アメリカ、ウクライナ、日本など各地に出現するようになり、世界はみるみるパニックに。

銃であっさり倒すことができたが、いつどこで現れるか予測できず、出現頻度は増加する一方だった。

そんな中、京都府眉原市の若き女性市長・利根川翼の前にも怪物は現れた。

地域の二大勢力のひとつ・清流会の党首がたまたま銃を所持しており、無事に撃退したが、問題はそのあと。

よく見るとそれは怪物ではなく、着ぐるみをつけた人間、それも反対派勢力・革新党の党首だったのだ。

これは怪物退治を利用した殺人事件だったのか?

本物の怪物も眉原市を跋扈しており、翼は市長としてどう対策を講じるのか。

そもそも怪物は、なぜこの世界に現れたのか。

目次

若くポジティブな女性市長

『ミノタウロス現象』は、突然出現したミノタウロスのような怪物をめぐる特殊設定ミステリーです。

冒頭では、どんどん出現してくる怪物に、世界中の治安維持機構や科学者が翻弄される様子がパニック小説風に描かれていますが、すぐに日本を舞台としたミステリーが始まります。

銃殺した化け物が実は着ぐるみで、中にいたのは政治家だったのです。

これは果たして事故か、それとも計画的な犯罪か。

女性市長の翼が謎を追います。

勢力争いや利権が絡んでくるため政治ミステリー的な雰囲気があるのですが、全く堅苦しくはなく、むしろコミカルでテンポもすごく良いです。

なにより翼が、明るくて面白い!

翼は元々はバンドのベーシストで、なんとなく選挙に出たらなぜか当選してしまったという、いわゆるイロモノ政治家。

武器は若さと勢いということで、突拍子もない提案を出しては、眉原市のために(というか市民からの好感度アップのために)頑張っています。

とにかくポジティブでぶっ飛んでいるところが良いのですよね~。

怪物対策ですら、臆することなく「食糧問題に利用しよう」なんて言い出す始末(!)

読者としては、党首殺害のミステリーにもドキドキしますが、翼の言動にも別の意味でドキドキさせてもらえます。

秘書の羊川との掛け合いも楽しくて、噛み合っていなかったり、ツッコミが絶妙だったりで、コントみたいで楽しいんです。

怪物の解明と対策が面白い

奮闘する翼をメインとした前半と打って変わって、後半は学術的な展開になります。

といっても、こちらもやはり堅苦しくなくて、しかも前半以上に面白い!

各国の学者や専門家が怪物の解明をしていくのですが、いろんなジャンルのいろんな見識が出てきて、それぞれ興味深いのです。

DNA鑑定などの遺伝子研究はもちろん、歴史や建築学、古代ギリシャの伝説を中心としたオカルト方面の話、果ては宇宙人説や我々人類を見守る高次の存在などなど、古今東西のネタが大集結!

なにせ怪物は完全に正体不明で、どこから出現したのか、何が目的なのか、あらゆることが全くわからないため、推測し放題なのですよね。

それでも研究や検証が進むうちに、だんだんと怪物の出現条件が見えてきます。

ここから物語はさらにヒートアップ!

怪物にどう対抗するか、社会をどう変えていくか、そして怪物を人類のためにどう役立てるか(!)、世界規模で話が進んでいくのです。

特に元警官の動画配信者・モーリスと建築学や郷土研究の専門家・永倉博士の考えや行動は、翼とは別のベクトルでぶっ飛んでいて、目を見張るものがありますね〜。

ちなみに怪物は、序盤こそ銃でアッサリ退治できましたが、そのうちライフルでもダメージが通らなくなります。

どんどん進化していくし、それと比例して人類の対抗も激しくなっていくし、もう全く目が離せません。

最終的にどんな結末に落ち着くのか、予測することはまず不可能。

意表を突いた大展開、ぜひご自身の目でご確認ください!

奇想天外なパニック小説×SF×ミステリー

いや~、またしてもやってくれましたね、潮谷験さん!

さすが「面白ければなんでもアリ!」のメフィスト賞を受賞した作家さんです。

デビュー作『スイッチ 悪意の実験』もトンデモ設定のミステリーであり、読む者の度肝を抜いてくれましたが、今作『ミノタウロス現象』も類を見ない破天荒な作品!

「もしも世界に怪物が現れたらどうなる?」というテーマの作品は他にも多数ありますが、「現れた怪物をどう利用する?」という作品は、今までにお目にかかったことがありません。

しかも利用の仕方が、それこそ「なんでもアリ」なのですよね。

あーんな使われ方や、こーんな使われ方をするミノタウロスが、しまいには可哀想になってきたくらいです(笑)

ぶっ飛び設定だけでなく、ミステリーとしての着地点がしっかり用意されているところも、ロジカルな謎解きを好む潮谷さんならではです。

パニック小説やSF小説のような展開に持っていきつつも、終盤では最初の政治家殺しの話に戻ってくるのです。

殺された政治家がなぜ着ぐるみをかぶっていたのか、犯人は誰で、何が目的だったのか。

いくつもの伏線やミスリード、どんでん返しで読者をアワアワさせつつ、納得感のあるオチへと結びつける手腕は、見事の一言!

様々な方向からミステリーを楽しみたい方には、かなりおすすめの作品です。

奇想天外な潮谷ワールドを、ぜひご堪能ください!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

目次