吉田恭教『MEMORY―螺旋の記憶』- 眠っていた過去を呼び覚ますと惨劇が待っていた

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鏡探偵事務所に、奇妙な依頼が来た。

9年前に滝田幸秀という人物の調査を依頼してきた女性が、今回は失踪した息子・智輝を捜してほしいというのだ。

聞けば智輝の失踪には、9年前の調査が関係しているという。

そこで元刑事の探偵・槙野が当時の調査記録をもとに調べてみたところ、幸秀は当時の22年前、つまり今から31年も前に自殺で亡くなっていたことがわかった。

さらに幸秀の兄・康夫も2年前に亡くなったことが判明。

それも、塩素ガスによる殺害という凄惨な方法で…。

一方捜査一課の女性刑事・東條は、奥多摩で起こった逆さ吊り殺人事件を担当することに。

被害者は身元を確認できないくらい痛めつけられていたが、調べを進めると、鏡探偵事務所の9年前の調査に関係があることがわかってきた。

自殺した幸秀、殺された康夫、逆さ吊り殺人事件。

この三つの事件が、智輝とどう繋がっているのか。

智輝は失踪する前から、「前世の記憶がある」と言っていたらしいが、何か関係があるのだろうか。

目次

二つの時間軸と交錯する謎

『MEMORY――螺旋の記憶』は、「槙野・東條シリーズ」の第六弾です。

ミステリーをベースにしつつオカルト要素も含まれているところがこのシリーズの特徴ですが、今作のオカルト要素は、なんと輪廻転生!いわゆる生まれ変わりですね。

ミステリー小説としてはもちろん、シリーズとしても斬新なテーマとなっています。

主人公は、おなじみ槙野と東條。

槙野は、鏡探偵事務所の探偵で、不祥事から警察を辞めた元刑事。

東條は、捜査一課の女性刑事で、「鉄仮面」という異名を持っています。

毎度のパターンでは、二人がそれぞれ追っている事件が意外なところで繋がり、協力し合って解決に導くことが多いのですが、今回もまさにそのパターン。

まずは鏡探偵事務所に不思議な依頼が来るところから、物語は始まります。

依頼人の息子・智輝が行方不明なのですが、彼はどうやら前世の記憶を持っているらしいのです。

滝田幸秀という男性の記憶です。

この男性は31年も前に自殺したのですが、どうも事実は違うらしく、何者かに殺されたようです。

さらにその兄まで2年前に塩素ガスで殺されており、その上物語が進むと、依頼人まで刺殺体で発見されてしまいます。

加えて、東條が担当する逆さ吊り殺人事件の被害者も関わっていること判明するのです。

このように今作では、幸秀の生まれ変わりという息子を中心に、ゾロゾロと人が殺されていきます。

それぞれの殺人の犯人は誰なのか、そして前世の記憶は本物なのか。

いくつもの謎が交錯し、輪廻転生という特殊設定を絡めつつも、骨太なミステリー長編となっています。

開けた記憶の蓋は、地獄の蓋だった

見どころは、前世の出来事や人間関係が今世に与えた影響を探るところ。

智輝は退行催眠によって前世の記憶を思い出すのですが、それがかなりハッキリしているところがまず興味深いです。

自分が自殺ではなく殺されたことや、当時の恋人のことまで思い出して、しかも彼女に会いに行こうとします。

生まれ変わってまた会いに行くって、ロマンチックですよね!

でも現在の彼女がどんな状態になっているかは別問題。

しかも記憶の蓋を開いたことで、巧妙に隠されていた過去の殺人が露見し、現代での猟奇殺人に繋がってしまいます。

とにかく過去と現在のそれぞれにドラマがあって、それが智輝の記憶という交点で結びつき、より大きなドラマと化していきます。

時の流れによって移り変わる気持ち。

愛が深まっていくのなら、同じように憎しみや恨みが深く大きくなるのも無理はないわけで。

今回の事件は、それらが複雑に絡み合って起こった惨劇という感じです。

モノが前世の記憶ということで物的証拠にはなりえないので、真相を見出すための槙野の推理と東條の捜査に、普段以上の熱が入るところも見どころですね。

槙野はいつになく神秘的な方向へと思考を突き進めていくし、東條は明確な証拠を確保しようとナイスガイ(!)っぷりを発揮します。

フーダニットもハイレベルで、真犯人の正体については、終盤までずっと二転三転!

ミステリーとしてもオカルトロマンスとしても読み応えたっぷりなので、読了後にはかなりの満足感や達成感を味わえる一冊です。

圧倒的パワーのグロさと謎解き

『MEMORY――螺旋の記憶』は、ミステリー作家・吉田恭教さんの作品です。

吉田恭教さんは、写真製版業から一本釣りの漁師になり、作家としてもデビューしたという、変わった経歴をお持ちです。

そのためか、吉田さんの作品には、描写において目を見張るほどのパワーがあります。

特にグロ描写が圧倒的!

さすが写真に携わっていただけあって、読む者にリアルな映像を思い浮かばせるのですよね。

しかも漁師ということで、生きたままとか、解体とか、漁業におけるスキルを、容赦なく人間に応用してくるのです。

そのため吉田さんの作品はグロのリアリティにおいて定評があります。

そして今作もご多分に漏れず、グログロです。

逆さ吊りもそうですが、個人的には「茹で殺し」にかなりギョッとさせられました。

なんですか「茹で殺し」って…、それこそエビやカニじゃないですか…。それを人間に… … …ウプッ。

という感じで、今作では「そこまでやる!?」と唖然としてしまうほどの殺しっぷりが描かれています。

これこそが吉田さんの持ち味ですが、グロ苦手な方は注意した方がよさそうです。

でもそのグロさを上回るほどの物語的な面白さがあり、特に犯人当てについては読みながら白熱すること必至!

フーダニット系ミステリーがお好きな方には、読み出したら止まらない魅力のある作品だと思います。

気になる方は、ぜひ読んでみてくださいね!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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