紺野天龍『迷宮館の殺人』- あのソードアート・オンラインが本格ミステリーに!命がけの犯人探しが始まる

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高校生の円堂は、幼馴染で生徒会長の雫と一緒に、VRゲーム「アルヴヘイム・オンライン」(通称ALO)をプレイしていた。

ミステリーマニアの雫はALO内で探偵事務所を開いており、円堂は助手としてサポート。

ある日二人は、謎の紙束を手に入れる。

それは、史上最悪のデスゲームと名高い「ソードアート・オンライン」(通称SAO)で、奇妙な殺人事件に巻き込まれた人物の手記だった。

「どうか俺の身に起きた、前代未聞の殺人事件を解決してほしい」

一体どんな事件なのか、この人物は何者なのか、そもそもなぜALOにSAOで書かれたものが存在するのか。

謎を解くために二人が手記を読み始めると、そこには事件の顛末が事細かに綴られていた。

仲間と一緒に「迷宮館」に閉じ込められたこと、恐ろしい怪物がいたこと、そして仲間たちが何者かに次々に殺されていったこと―。

読み進めるにつれて、おぞましく凄惨になっていくこの事件に、二人はどう対峙するのか。

目次

SAO内でリアルに人が殺される

『迷宮館の殺人』は、ライトノベル『ソードアート・オンライン』のスピンオフ作品です。

ラノベのスピンオフでありながら、ジャンルとしてはミステリーであり、しかもしっかり作り込まれた本格派。

それでもSAOの世界観や設定はバッチリ反映されているので、本編ファンの方でも違和感なく読めますし、説明が丁寧なので、本編未読の方でも楽しめます。

物語は、SAO内での殺人事件について書かれた手記を、なぜかALOの世界で「俺」こと円堂が手に入れて、探偵役の「スピカ」こと雫と一緒に読んで謎を解く、というもの。

SAOには実は、「ゲーム内で死んだら、現実世界でプレイヤーも死ぬ」という恐ろしい設定があります。

つまり手記に書かれた内容が本当だとしたら、SAO内の殺人事件によって、実際に人がたくさん死んでいるということ!

これは由々しき事態だということで、ALO内で探偵を気取っているスピカが謎解きに乗り気になり、「俺」もやむなく付き合う……というのが序盤の展開です。

以降は、手記パートと、「俺」とスピカが調査と推理を進める謎解きパート、現実世界での円堂と雫を描く学校パートとに分かれて物語が進行していきます。

それぞれに違った魅力があり、どのパートもドキドキしながら読めます。

死ぬスリルと死なないスリル

手記パートでは、事件の顛末が日記や回顧録のように細かく記されています。

それによると手記の主のパーティは、迷宮館というダンジョンに閉じ込められ、そこでミノタウロスに遭遇します。

自分たちには倒せないと判断した彼らは、なんとかミノタウロスを避けながら、迷宮館からの脱出を試みます。

なんせSAO内で死んだら実際にプレイヤーが死んでしまうので、とにかく必死!

ちなみに途中で無理矢理ログアウトした場合も、プレイヤーは死にます。

そのため文字通り命がけで出口を探すのですが、その間になんと殺人事件が発生してしまいます。

仲間たちが次々と何者かに殺されていく中、残ったメンバーは、ミノタウロスから逃げながら犯人探しをする、という流れです。

このように手記パートは、SAOの設定をふんだんに取り入れたクローズドサークル・ミステリーです。

ミノタウロスや犯人にやられたら死、ログアウトも死、という緊迫感がいいですね~。逃げ場がどこにもなく、みるみる追い詰められていく恐怖と焦りが凄いです。

仲間たちの中で疑心暗鬼が広がっていく様子にもドキドキ!

一方「俺」とスピカの謎解きパートでは、ALO内の迷宮館で探索が行われます。

「俺」もスピカもミノタウロスにボコボコにやられてしまうのですが、SAOと違いALOではプレイヤーが死ぬことはないのでセーフ。

このシステムを利用し、二人は徹底的に現場検証を進めていきます。

「実際には死なない」という設定だからこそ、思い切った行動をとれるので、こちらもスリルがあって面白い!

二人の調査によって徐々に真相が明らかになっていくのですが、これがまたシステムをフルに活用したトリックが山盛りで、SAOファンもミステリーファンも唸らせてくれるんですよねえ。

「そう来たか!」という知的興奮を、何度も味わわせてもらえます。

SAOと本格ミステリーの橋渡し的作品

『迷宮館の殺人』の作者は、本編の作者である川原礫さんではなく、ミステリー作家の紺野天龍さんです。

にもかかわらず本家SAOの世界観や設定が見事に再現されていますし、その中で高クオリティな本格ミステリーが構築されています。

「まさかSAOのスプンオフで、これほどまでのミステリーを読めるとは!」と、本当に驚きです

川原さんのファンも紺野さんのファンもどちらも楽しめるのは間違いないですし、この作品をきっかけに本編やミステリーを読んでみたくなる人も多いはず。

そういう意味で本書は、SAOとミステリーの橋渡し的な役割を全うした傑作と言えます。

また、コテコテの本格ミステリーなのにラノベ要素が強いところも、本書の大きな魅力です。

特に現実世界での円堂と雫の関係性が絶妙!

ゲーム内では雫はスピカと名乗り、猫耳+ホームズ的なコーデで、名探偵っぽい喋り方をしているけれど、どこか抜けているところもあるキャラクターです。

でも現実の雫は、人望溢れる完全無欠の優等生で、口調は丁寧語だし、言動は品があって穏やか。

ものすごいギャップですが、これって要は、ゲーム内では素の自分や本来なりたかった自分を出しているということですよね。

一方円堂は、ゲーム内でも学校でも、雫をサポートしています。

ゲーム内では危なっかしいスピカを支え、学校では雫のボロが出ないよう、優等生として振舞えるよう気遣っています。

そんな、影で支える円堂の優しさや芯の強さがイイ!

いつまでもニマニマと見ていたくなるような関係性であり、これが作品に華を添えるとともに、本格ミステリーとして相応の難易度を持つ本書を、グッと読みやすくしています。

続編を期待したくなるくらいの面白さですので、興味を持たれた方はぜひ読んでみてください!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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