ジェローム・ルブリ『魔王の島』- 孤島の惨劇と少女の悲劇、一体どこまでが真実なのか

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若手新聞記者のサンドリーヌは、亡き祖母の遺品を整理するためノルマンディー沖の孤島を訪れた。

その島にはかつてナチスの実験施設があったが、終戦後は子供向けのキャンプ施設になったという。

しかしそこも子供たちが海で溺れ死ぬという事故が起きてからは閉鎖され、島は寂れ、現在住んでいるのは数名の高齢者のみ。

サンドリーヌの祖母もその中の一人だった。

どこか陰気で薄気味の悪い島の様子に、嫌な予感がするサンドリーヌ。

やがて惨劇が再び幕を開けることになり―。

反転に次ぐ反転に驚きが止まらない、コニャック・ミステリー大賞受賞の話題作!

目次

孤島の異様さがジワジワと

『魔王の島』は、読めば読むほど謎と恐怖が深まっていくサイコ・ミステリーです。

どんでん返しが複数あり、そのたびに状況が悪化するというか別の怖さが出てくるので、続きが気になって気になって読み進めずにいられなくなります。

全体が大きく三部に分かれており、まずはサンドリーヌのパートから始まります。

サンドリーヌが亡き祖母が住んでいた孤島に行き、かつて起こった惨劇について調べながら、自らも惨劇に巻き込まれるという展開です。

島の様子はなんとも不気味で、閉鎖されたキャンプ施設があるのですが、そこはもともとは第二次世界大戦時のナチスの実験場だったそうで。

それだけでも得体が知れないのに、1949年にはそこでキャンプをしていた子供10人が海で溺れ死ぬという事件が起こりました。

その当時の様子がカットバックで描かれているのですが、子供たちの遺体が沖から次々に流れてきて、しかもそれが飢えたカモメにたかられていたりと、ゾッとする描写が多くて怖いの何の!(グロ苦手な方は要注意!)

そして読者が怯えたところで、1986年にサンドリーヌが島にやって来ます。

事故から約40年も経過しているのに、島にはまだ不気味な雰囲気が残っていて、島民は挙動不審ですし、島のあちこちで「8時37分」で止まった時計が見つかったりと、明らかにまともではない様子。

他にも「魔王」の落書きや、意味ありげなゲーテの詩、謎の太字メッセージなど薄気味の悪い要素満載でジワジワと不安が募ります。

ところが怖がらせるだけ怖がらせておいてから、真相に辿り着く直前に第一部は唐突に終わってしまいます。

うわ~、こんなの先が気にならないわけないじゃないですか~。

そしてはやる気持ちを抑えつつ第二部に入ってみると、またまたとんでもない展開が!

第一部における重大な事実が発覚し、全てがひっくり返るのですよ。

何がどうひっくり返るのか、この大どんでん返しは、ぜひご自身でお確かめください。

繰り返される反転がすごい

さて、第一部を派手にひっくり返した第二部ですが、舞台設定や雰囲気も大きく変化します。

誘拐された16歳の少女が監禁・凌辱されるというショッキングな展開であり、第一部のジワジワ来るホラー的な怖さと違って、こちらではリアルな怖さにハラハラさせられます。

可哀想にその少女は、監禁されて身も心も踏みにじられて、気が狂わんばかりの恐怖に苛まれ続けたのでしょう。

逃げることができないのならせめて心だけでもと、頭の中で一種の「避難所」を作ります。

これは簡単に言えば、空想の世界への現実逃避。

その後彼女は、勇気を出して自ら誘拐者と対峙してある方法で逃れます。

ところが事件はこれで解決ではありません。

警部が真相を追い、もう少しで解決というところで最終章に入るのですが、またもやここで大どんでん返しが起こるのです。

第一部の時と同じで、ものの見事に根本からガバーッとひっくり返されますよ。

このように『魔王の島』は、反転の連続です。

それまで真実だと思い込んでいたことがそうではなかったと判明し、それだけでも驚愕なのに、新しく得た情報を「これこそが真実だ」と思って読んでいたら、それもまたひっくり返されてしまうという……。

作者の手の平で転がされている感がハンパなく、だからこそミステリーとしてとても面白く読めます。

これから読む方は、何が真実で何が偽りなのか、次はいつひっくり返されてしまうのか、身構えながら慎重に読んでみてくださいね。

その警戒心が、『魔王の島』をより楽しく読ませてくれると思います。

予測を裏切るフレンチミステリーの真骨頂

『魔王の島』は、フランス生まれの作家ジェローム・ルブリ氏の三作目です。

デビュー当初からプリュム・リーブル賞新人部門で銀賞を受賞するなど注目を集めてきましたが、今作では2019年コニャック・ミステリー・フェスティバルでミステリー大賞に選ばれた上、2021年リーヴル・ド・ポッシュ読者大賞まで受賞。

ジェローム・ルブリ氏の名は、フランスで広く知られることになりました。

また日本でも、「このミステリーがすごい!2023年版」の海外編で10位にランクイン。

もともと日本では、フレンチミステリーには「先が読めない、何が来るかわからない」というイメージがあります。

衝撃的な展開やハラハラ感が魅力ということですが、驚異的な連続反転を楽しめる『魔王の島』は、まさにフレンチミステリーの真骨頂と言うべき作品ではないでしょうか。

読者をとことん振り回す展開と結末は、日本のフレンチミステリーファンをうならせ、あまり馴染みのなかった方にも大きなインパクトを与えると思います。

ということでジェローム・ルブリ氏は、日本でも名が知られ、期待される作家になることでしょう。

ただ読者の中には、『魔王の島』のあまりの反転っぷりに、「強引」「反則技」「ご都合主義」といった印象を抱く方もいるかもしれません。

そういう意味では本書は、好みの分かれやすい作品とも言えます。

それでも世間から広く高く評価されていることは、数々の賞を受賞したことからも明らかであり、本好きであれば読んで損はない作品です。

話題のフレンチミステリー、ぜひお楽しみください!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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